エンジンの代わりにモータと制御装置を搭載し、ガソリンの代わりに蓄電池に蓄えた電気で航行する漁船「らいちょうS」が長崎県対馬市の豆酸漁港でエコ実証試験に入った。排気ガスやCO₂の排出がなく環境保全船として、湖畔観光船や浅海漁業船への活用が期待されているが、駆動機器・制御装置の用途拡大にもつながるだけに実証試験結果が注目される。
漁船「らいちょうS」は、東京海洋大学海洋工学部の賞雅寛而(たかまさともじ)教授を中心に、東京船舶電機、アルバック、石垣、中国塗料などと共同で建造した急速充電対応型モータ駆動ウォータジェット推進船。
全長8・04メートル、全幅2・24メートル、総トン数1・3トンの定員11人の小型漁船である。電動機推進機出力25kW、速力(軽荷)14ノット、最大速力で連続航行時間は45分、蓄電池容量18kwhの能力である。構造はウォータジェット推進機、電子制御ユニット、インバータ、同期モータ、バッテリユニットで構成。
ウォータジェット推進は、安全性・環境特性がプロペラ推進より格段に高いが、内燃機関との組み合わせで回転数トルク特性の適合が悪く、低速領域では十分な性能を発揮できなかった。
「らいちょうS」では急速充電対応型リチウムイオン電池を採用することにより内燃機関出力に匹敵し、かつウォータジェット推進と回転数トルク特性の適合の良いインバータモータを使用し課題を解決している。
プロペラがないため、水面にロープが張ってあるような海藻の養殖水域にも進水ができ、珊瑚礁や水中に潜っている人をケガさせることもない。
急速充電対応型電池推進船の普及には、給電施設などが今後必要となるが、水産庁と地方公共団体を中心にインフラ整備の検討が行われている。長崎県では昨年3月に「豆酸漁港エコ化実証実験検討委員会」を立ち上げ、7月から9月まで「らいちょうS」によるエコ実証試験を始めた。