4.おわりに
日本はロボット大国と言われるが、世界の先端ロボット開発は、日本のそれとかなり異なっている。原発の安全神話が福島原発事故により崩壊したのと同様に、ロボット大国という神話も新たな定義付けが必要になっているようだ。
ロボット及び原発との共通点は、基本設計の基はアメリカで、日本はその技術を導入し、発展させたということが挙げられる。産業用ロボットの動作原理は、既に40年以上前から変化しておらず、近年は高度な制御技術を付加することにより機能面で充実している。
アメリカの場合、軍事ロボットとして自律型無人機をシステム構築し、具体的に戦場で実践を重ねている。また、軍事技術のために多大な国家予算がそこへ投入される。日本では、その背景と実践の場がないため、この分野で競おうとしても、所詮無理である。
MOTについてもアメリカの軍事ロボット関連の流れから、例えばMITとiRobotなど、産学の連携による軍事技術の民生化が実践されている。
産業用ロボットのこれからについては、前述EUのロボットプロジェクトのように、人とロボットの協働・共存が望まれるが、その際あらたな安全原則が前提となり、日本ではリスクベース社会になりきっていないため、安全については遅れている。EU、とりわけドイツは現存の安全機器では世界の市場シェアをかなり押さえており、安全規格面でもイギリスと並び世界に発信している。日本の場合、安全規格の発信はこれまで殆どできていない。
世界を驚かせたヒューマノイドASIMOも、アメリカがその気になればR2ロボットのようなものができてしまう。もはやASIMOは、オンリー・ワンではなくなっている。
このような状況下で、先行したこれらのロボットに遅れたところで、過去の日本のように、追いつき・追い越せを繰り返して意味があるだろうか。日本発で、それを持続するイノベーションの連鎖が必要であり、そこでの産学官の実のある連携方法が、真に問われている。
日本は、世界に冠たる少子高齢化社会であるが、例えば年をとっても人生を楽しむことを学ぶ学問分野である老齢学(Gerontology)の研究は、ほとんど行われておらす、欧米で先行研究がある。
日本のものづくりは、2000年を境に下降線をたどっており、携帯電話で言われるガラパゴス化を象徴として、とりわけ情報通信産業においては、当初日本が世界をリードしていても、間もなく近隣アジア諸国に追い越される事象が繰り返されている。同様に、原発や鉄道輸出の案件でも、日本は技術に勝ってビジネスで負けるという現象が続いている。ロボットの分野でも、過去のロボット大国に安住する限り、欧米の新たなロボット分野での動向には歩調が合わせられなくなってきている。
●2010年には、日本の福祉用に資するロボットHAL及びRODEMなどを、福祉先進国のデンマークが自国で導入したいとのことから支援を申し出てきた。なぜ、日本国内でそのような動きにならないか。
日本は、高齢者の人口割合が世界で最も高い部類に入るため、この分野で老齢学や福祉医療ロボットにしろ、日本の知と経験を集中的に投入することにより、世界へ発信できる潜在性をもっている。
それを実現するためには、以下の進め方の抜本的な見直しが必要とされている。
・長期的な未来予測に基づく、適切な政策
・あくまでそれに基づく技術ロードマップ策定
・それを実現するための予算措置
・実行のための国・産業界・ビジネスモデルの適正な役割分担と組織化
日本は介護・福祉ロボットや災害用のレスキューロボットなど特性を十分に活かせる分野に特化し、新たなサービスサイエンス等の動向も配慮し、知を結集し世界のモデル作りをするようにした方が良いのではないだろうか。せっかく夢を見た学生が頑張った成果が実践できないのは、悲しいことである。今、夢を実現することが求められている。
注:掲載写真は各組織、団体、製造者等のHPから引用させて頂いた。
(おわり)