戦略と言えば、経営戦略をはじめとして営業戦略・商品戦略・物流戦略などのように競争社会でビジネス用語としてよく使われる。社会生活上のあらゆる分野でも、日常の用語として多々使われているが、戦略という言葉のイメージはそれぞれ異なっている。
戦略という言葉は元来、軍事用語であり勝利に関して使われる用語である。競争社会で用いる戦略というビジネス用語を定義してみると『所定の目的を達成するために、あらゆる手段や活動を考えて準備する行為』となる。一般的には、そのような定義を意識せずに「戦略的にやったらどうなる」などのように各分野で幅広く使われている。
もう一つの軍事用語に戦術がある。この用語は単独ではあまり使われずに、「戦略、戦術をどうするのか」などのように戦略とセットで使われるケースがほとんどである。軍事用語から来た戦術という言葉は競争社会で使うビジネス用語に向いているのか、戦略のように日常的に使われることは少ない。戦術の定義としては、「戦略に沿った目標を掲げ、その目標を達成するために最大のリスクに挑戦して最大の効果を挙げるための策」ということになる。超安全思想が根底にある現代の成熟社会では、ミスは絶対にいけないこと。できる限りリスクを避けて通ることといった風潮がある。最大のリスクに挑戦するという概念が日常生活に合わないのは、その辺に理由があって、あまり日常用語として使われないのかもしれない。
ビジネス上でも戦術という用語を単独で使わず、戦略戦術をセットで使う。戦術の概念を単独で使う場合は、販売手段と言い変えて使う。手段は方法であって戦術のように最大のリスクに挑戦するイメージがないからなのかと、うがった見方をしたくなる。
戦略戦術をセットにした営業活動を例に挙げてみよう。「この数カ月売り上げが低迷している。売り上げを浮上させよう」という上位命令がでる。それを受けて販売部門は現状を把握して、従来の活動を強化すべきか、新しい活動を導入すべきかを判断し、組織・人員を決める。その結果、現状の人員・組織のままで売り上げ低迷を打開すると決定したなら、「販売力を強化して売り上げ低迷打開」が戦略となる。
それを受けた販売員たちはいきなり走り出すのではなく、まず個人的戦略思考を持ってどのように行動すべきかを考える。注文や案件を出してくれる顧客に対して訪問回数を増やし、商品のPR活動を強化しても低迷打開は無理だとの判断から、新規の部門や新規の技術者の開拓を決心する。当面、10人の新規技術者を発見し、面談する戦略目標を立て、その上でどうやったら成功するかという策を立てる。その策が戦術である。
非日常的な開拓は、挑戦心を持たねばならない。緊張感やリスクを伴うものである。まず親しい顧客に他部門や他の技術者を紹介してもらおうと考える。いきなり紹介を依頼しても、日頃の行動で信頼され、評価を受けるような付き合いをしてなかったら、紹介してくれるものではない。
そこで販売トークや資料を準備し、上手く紹介に漕ぎつける。紹介を受けて、新規部門や人を訪問する。当然、日頃会っている顧客とは違う。訪問を成功させるには、商材や会社をアピールして通じなかったらどうしようという考えを根底にもたないと玉砕する。
そこで開拓訪問における戦術として次につながるような話題を探る目的も合わせて持つことにする。そのために準備するのは質問である。「前もって質問を準備すべし」は個人的戦術の重要な心構えとなる。
(次回は8月31日掲載)