産業用コンピュータは、過酷な使用環境下でも24時間連続稼働にも耐えられ、製品を長期的に安定して供給することが求められる。例えば、高温・多湿、油滴・水滴が舞うなどの厳しい使用環境の下、あるいはプレス機・多軸モーション制御機が近くにあるなど振動の多い用途では、汎用コンピュータでは耐性に問題が多い。産業用コンピュータは、このような用途でも高い稼働信頼性を発揮し、長時間安心して使える厳しい環境負荷試験をクリアしている。
こうした用途は社会インフラ的設備として一度設置すると長期間継続して使い続けるところが多いことから、ユーザーとしてはなるべく安定して同じ仕様で継続使用することを望んでいる。信頼性、継続性が何よりも優先して求められる。
最近では、ゲーム業界や業務端末といった領域でも信頼性を求めて産業用コンピュータを使用するケースが増えており、今後も市場が伸長することが確実視されている。初期コストと保守運用コストも含めた長期運用コストまで考慮すると、産業用コンピュータを採用するメリットは大きい。
産業用コンピュータのHMI(ヒューマン・マシン・インターフェイス)機器としては、89年にタッチパネル操作が可能な端末としてプログラマブル表示器が初めて市場に登場。91年にモニタを一体化したFA(産業用)パネルコンピュータが製品化され、現在では様々な生産現場や公共施設などFA分野以外でも採用が増えている。
産業用コンピュータとパネルコンピュータを加えた市場規模は、08年約350億円、09年は約300億円と減少していたが、10年は設備投資の回復で約350億円まで拡大している。
リーマンショック後低迷していた、半導体・液晶製造装置の受注も、スマートフォンやタブレットPCなどの需要増、LEDやソーラーパネルの増産などを背景に再び回復基調を見せている。社会インフラ関連投資も情報化や効率化に繋がる投資は優先して行われており、追い風になっている。通信・放送、電力、鉄道などの分野でも産業コンピュータを効果的に活用した取り組みが進んでおり、需要拡大に貢献している。
近年の半導体製造関連装置やFPD製造関連装置などでは、従来別々であった工程を一体化処理や並行処理することで処理時間の短縮やスループットの向上が図られており、従来に比べてより複雑なプロセスを短時間で高速処理する必要がある。このため1つの装置に複数台の制御コントローラが必要となり、複数台の産業用コンピュータを使用するケースが増えている。このような用途では、従来Pentium43GHzクラスのCPUを搭載した製品が主流であったが、最近では最先端のデュアルコアCPUや、メモリ2GBクラスのハイスペックな製品が求められる。インターフェイスについても増設コストを少しでも減らすため、豊富なシリアルやUSB、拡張スロットを持つことが必要とされている。
最近は、インテルのデュアルコアCPU
CoreTMDuo2GHzクラス、チップセットには945GME以降に対応した製品に焦点が当たっている。拡張スロットには、画像処理ボードやモーションコントロールボード、各種フィールドバスボード、GP/IB通信ボード、AD変換ボードなど用途別に応じたボードを使用し、またシリアルやUSBには各種ホストコントローラやUPS、計測装置などの周辺装置を接続することが多い。
要求される仕様は様々であるが、なかでも最重視されるのはやはり「信頼性」である。さらに最近ではユーザーから「コピー防止機能を付与して欲しい」という要望も強くなっている。特に受託開発の分野では、技術が海外に流出することを防ぐために、ハードとソフト両面でコピー防止を行うケースが増えている。
また、24時間連続的に稼働する厳しい現場では「いかにダウンタイムを削減できるか」が課題となっている。
最近は、Windowsだけではできないリアルタイムな制御を求めて、PLC(プログラマブルコントローラ)では実現できない処理の領域、例えばプロセス処理用の学術計算や高級言語によるプログラミングなどを実現するため、制御部分はリアルタイムOS上による処理、制御以外の部分は通常のWindows
OS側による処理を行うなど、1台のPC上で実現するものである。
従来は、このようにWindows
OSとリアルタイムOSを同時に走らせるということは非常に困難であったが、近年は発展が著しいコンピュータの高性能化により実現できるようになった。このようなワンボックス化を実現することで、従来現場にあった複数台のPCや周辺装置、及びそれらを連携する通信部分をコンパクトに集約し、装置の小型化と共に処理能力の向上、さらに保守部品・運用コストの低減など様々な効果をもたらすことができる。今後は、インテルが提唱するバーチャルテクノロジー技術の発展に寄与するところが大きいとされる。
制御用コントローラがハイスペック・信頼性・拡張性を要求されるのに対し、装置の顔(HMI端末)や生産ラインの情報収集端末として使用される産業用コンピュータは、CPUスペックや拡張性よりも、コンパクトな筐体、ファンレス対応、コストなどの組み込みに適した要求が多い。例えば、POP端末として上位サーバからの製造指示を確認し、それに基づく作業内容をPLCや温度調節計などの各種コントローラに指示し、その結果を収集する場合などがある。
こうした場合、端末で複雑なデータ処理をすることは少ないため、高速なCPUはあまり必要ない。ただ、信頼性は求められ、有寿命部品を減らすためのファンレス対応、Windows
XP
EmbeddedによるHDDトラブル回避、バッテリユニットによる瞬停対策などが進んでいる。