トランスは、電源電圧を安定させたり変圧させたりする役割を持っており、機器を陰から支える重要な部品として、あらゆる産業機器に使用されている。電力系統に使用される大型タイプから、電気設備、電子機器・装置に組み込まれる小型タイプまで、多種多様な製品がそろっており、安定した市場を形成している。
産業用トランス市場は、リーマンショックの危機を乗り越えた一昨年以降、FA分野、工作機械分野、電子部品分野など市場の回復とともに需要が急速に回復、ほぼリーマンショック前の状態にまで回復している。さらに電力関連やエンジニアリング関連の需要も旺盛で、高容量・大型のトランスが伸長、大型・高容量トランスの製造ラインを増設するメーカーもある。
経済産業省の機械統計によるトランス(インダクタを除く)の生産金額は、2008年153億円、09年はリーマンショックによる市場の落ち込みで140億円と減少したが、10年はリーマンショックからの回復で162億円と前年比15・7%増加している。
FA分野やロボット工作機械分野以外にも、IT分野、情報・通信分野、アミューズメント分野、医療機器分野などでもトランスの需要は堅調に推移している。さらに、新エネルギーへの関心の高さから、風力発電向け製品は以前から需要が伸びていたが、東日本大震災により改めて安全・クリーンな風力発電に注目が集まっており、太陽光発電関連とともに、さらなる市場の拡大が予想される。
特注品やカスタムメードトランスの比率も高まっている。ユーザーからは「同じ大きさで容量の違うトランスをシリーズで設計・製作して欲しい」といった様々な要望が多く、専業メーカーでは各種のニーズに合わせた改良・工夫を進めており、新たなアプリケーションの拡大につながっている。
原材料価格は、銅相場が08年の夏にキロ当たり1000円を超えたが同年秋口から急激に下落、09年初め頃は350円前後まで下落した。10年からまた上昇に転じ、今年に入ってからは800円を超えたが、8月以降急速に下落し、現在は580円と600円を割っている。鉄の価格も昨年はトン当たり8万円まで上昇したが、現在は8万円を割り7万5000円前後で推移している。
樹脂や石油化学製品も、昨年の原油価格高騰から今年に入り10%から20%値上げされたが、最近の原油先物相場は、世界的な景気の先行き懸念が深まる中で売りが広がり続落している。米国産標準油種WTIの中心限月11月物は1バレル=77・61ドルで終了しており、昨年9月以来、約1年ぶりの安値となっており、樹脂製品の価格も落ち着いている。
トランスの材料に使用される石油系製品では樹脂のほかにワニス、テープ類などがあるが、トランスは本体の原材料の約80%が鉄や銅で占められており、製造原価に対する材料費が30~45%と高い。例えば容量30VAでは材料費が約30%で、容量が大きくなるほど材料費の比率が高くなる。
トランスメーカーでは、「大震災前まで製品値上げの動きもあったが、現在は主材料の銅、鉄の価格が下落しており、しばらく製品値上げの動きはないだろう」としている。
トランス専業メーカー各社では、リーマンショック以降、積極的な営業展開を行っているメーカーが多く、新規に販売代理店の獲得など販売ルートの拡大を図っている。特に首都圏の営業拡充や地方の主要都市での拡販を積極的に推進しており、大手の新規顧客開拓につながっている。物流体制の整備、ネット販売の進展などの観点からも、全国的な販路展開に取り組むメーカーも増えている。