CO〓排出量の少ない鉄道は、地球温暖化を抑止することにつながる乗り物として評価を高めている。一時は東京、大阪、京都など主要大都市では路面電車が足代わりとして縦横に細かく走っていた。しかし、自動車の普及とともに交通渋滞につながるとして廃止が進み、今では地方都市中心の乗り物になっている。
LRTの導入に遅れ
2005年から国土交通省は、LRT(低床式路面電車システム)導入に向けて補助金制度を設けているが、今のところ富山市のみとなっている。現在、東京、神奈川、札幌などで約20のLRT導入計画があるといわれているが、遅々として進展していない。
普及への障害には自治体ごとに多少事情が異なるが、多くで共通しているのは、LRTが輸送能力や定時運行で優れているものの、バスと比較するとコスト高になるのがネックとなっているようだ。
LRTは海外での普及が目覚ましく、特にフランスで発達している。また、中国やイタリアでも採用が進んでいる。
国際的にも鉄道は、環境負荷が他の交通機関に比べて少ないという背景を追い風にして、今後も堅調に拡大していくとする見方が一般的だ。
世界の鉄道関連市場は一説には17兆円とも言われているが、実際は10兆円前後と見られており、今後年率3~4%の成長が続くとすると見方が強い。20年後には倍増近い市場に成長することを期待する声もある。
車両市場は欧州が40%
このうち、鉄道車両の市場規模は約2兆9000億円と言われている。このうち欧州市場が約40%と高く、次いで中国が約20%、他は日本、北米、他のアジア地域が各約10%と見られている。
欧州には、独・シーメンスと仏・アルストムの2大メーカーが高い競争力を有しており、これにカナダのボンバルディアを合わせて、鉄道産業のビッグ3と言われている。
日本の鉄道車両生産は、日本鉄道車両工業会(JARI)の統計によると、2010年(平成22年)は1995億円で、過去のピークだった07年の2460億円と比べると450億円ほど減少している。新幹線の生産は増加しているものの、民間鉄道やJR車両の減少が大きくなっている。その新幹線もリニア新幹線の工事が進んでおり、今後伸長が期待できるものの、他の新線計画は一段落の状態だ。少子高齢化の影響もあり、今後は一般車両を含め更新需要が中心となる。
また、JARIの統計によると日本の鉄道電機品の09年出荷金額は、1515億円、車両部品の出荷金額は1043億円となっている。
これに信号関係や駅務システムなどの市場が1000億~1500億円あると言われ、合わせると3000億~3500億円前後の市場を形成している。
中国が世界No.1に
一方、海外では新興国を中心に旺盛な鉄道敷設計画が進んでいる。中国では20年までに国内の縦横8路線を整備し、現在の50%増となる12万キロ以上の計画が推進している。これが実現すると、世界一の鉄道王国になる。
大規模な高速鉄道計画は、前述の中国のほか、ブラジル、米国、ベトナム、タイ、インド、ロシア、カナダ、アルゼンチン、韓国、トルコ、イラン、サウジアラビア、マレーシア、インドネシア、南アフリカなどで進められている。
ただ、こうした高速鉄道は工事が大掛かりになり、総事業費の約7割は土木工事費とも言われ、鉄道車両や電機品関係は3割前後と少ない。このため、こうした高速鉄道より一般的な都市鉄道のほうがプロジェクト数も多く、車両や電機品の割合も高いとして、注力する動きも強まっている。
鉄道のCO〓排出量は、輸送に伴うCO〓排出量のわずか3%とも言われ、今後高速鉄道の敷設進展や貨物の鉄道輸送への切り替えなどが進むと、なお一層CO〓削減効果の発揮に繋がってくる。
鉄道産業は、非常に幅広いシステム構造で構成されており、それだけに産業として波及する効果も大きい。
鉄道産業は大きく電気・機械製品と土木に分けられるが、技術的にも構造的にも波及効果が大きいのは電気・機械製品。車両、信号保安、鉄道制御・管理などのシステム関連、土木を除くインフラ関連、それに鉄道に付随するサービスなどである。
帝国データバンクの調べによると、日本には鉄道関連メーカーが約569社あり、内訳は鉄道車両12社、機械部品245社、電機機器・部品105社、素材関連207社となっている。
例えば鉄道を運行するためには、軌道、信号、給電、通信、運行管理などが一体となる必要がある。これらをシミュレーションしてRAMSと言われる信頼性、アベイラビリティ(可用性)、保全性、安全性を確保する必要がある。
このうち、鉄道車両に関連する産業の裾野は非常に幅広い。日本には鉄道車両メーカーが12社ある。このうち9社が、車両システム全体を取りまとめている。
鉄道車両を構成する電機品としては、モータ、インバータ・コンバータなどの変換制御装置、変圧器、補助電源装置、集電装置、抵抗器、無線装置、放送装置、空調機器、発電機、表示機器・照明などのほか、IGBTなどの各種半導体、端子台・コネクタ、プリント基板、ファン、冷却フィンなどの部品が使用されている。
また、機械部品・装置としては車体、台車、駆動ギア、ギアケース、ブレーキ装置、ドアシステム、ディーゼルエンジン、動力伝達装置、締結部品、ギア、車輪、車軸、ベアリング、バネ、オイルダンパー、パンタグラフ、汚物処理装置、などが、素材として鉄鋼・ステンレス鋼板・アルミ合金、鍛造、鋳物、型材、各種電線、ガラス、ゴム、プラスチック塗料、シール材、シート材などがある。
JARIには、鉄道車両メーカーのほか、信号機・保安器、ブレーキ、スイッチ、コネクタ、放送装置、空調機器、遮断器、表示灯などの電気機器メーカー、ドア、パンタグラフ、ブレーキ、軸受け、オイルシール、油空圧機器、エレベータ・エスカレータ、タンク、座席、変減速機器、緩衝器・連結器などの機械部品メーカー、シート・カーテン、塗料、ゴム、ケーブルなどの素材関連メーカー、保守・エンジニアリングなどの鉄道運行を支える会社が会員になっており、構成する裾野の広さを感じさせ
る。
行政と連携した支援
今後は、日本が有する世界トップレベルの鉄道関連ノウハウを生かして、縮小傾向の国内市場から海外市場へのシフトが必要となっている。行政と連携したバックアップ体制に加え、国際規格への対応、ビジネス習慣の違いなどの課題を一つ一つクリアしながら、世界市場開拓への取り組みが進んでいる。