【現状】
ロボットは、製造業の分野で生産財として利用される産業用ロボットと、製造業以外の分野で活躍するサービスロボットに大別できる。現在、産業用ロボットは、その多くが自動車製造での溶接、塗装、電子・電機機器製造での電子部品実装、半導体のウエハ搬送、組み立てなどで稼働している。
我が国ロボット産業は、主要ユーザーである自動車産業および電子・電機産業を中心に、製造業の様々な分野における多様な作業へと普及することにより、生産面、技術面とも世界トップレベルへと発展してきた。近年は、多軸系とセンサー系が進化し、一部で状況変化に対応する知能化も行われ、セル生産システムにおける組み立て作業などこれまでロボット化が難しかった作業も代替を始めている。
総出荷額は、バブル崩壊後におおむね横ばいで推移した後、1990年代後半にデジタル需要による回復を見せたが、ITバブル崩壊で2002年には1993年以来の4000億円を割ったが、国内外需要の復調により2006、2007年には7000億円台まで回復した。しかし、米国の金融破綻に端を発した世界不況を受け、2009年の出荷額は3000億円(前年比53・8%減)となった。2010年は中国、韓国、台湾等の東アジア市場や、インド、ブラジル、ロシア等のBRICsなど海外向け輸出が伸びたことから、約5570億円(前年度比約85・7%増)となった。
一方、1990年代中頃から、ロボットの開発には新しい動きが出てきている。従来、ロボットは工場内の省力化を図る機械として用いられ、基本的に人間の生活空間とは別の空間において使われていた。これに対し、介護・医療、清掃、警備、メンテナンス、農林水産業、災害救助など人間の生活により近いさまざまな分野でロボットを利用しようというサービスロボット分野での試みが、多様な主体によってなされている。労働力人口減少と超高齢化の時代を迎えるにあたり、ロボット技術による生産性向上やQOL(生活の質)向上などへの期待が高まっている。
【我が国ロボット産業の
強みと弱み】
(1)強み
国際的に競争力を有する自動車産業、電子・電機産業を始めとするユーザー産業からの厳しい要求に、アフターサービスを含めてきめ細かく対応し、絶え間なく技術開発に取り組んできた実績とノウハウの蓄積が、我が国ロボット産業の大きな強みとなっている。同時に、国内市場における激しい競争を経て、国際的な競争力も獲得している。
技術面では、マニピュレーション、移動技術など、特にハードウェア開発については世界一の技術開発力を有している。
(2)弱み
高度な知能ソフトウェアやネットワーク技術などの情報通信技術を取り込んだロボットの開発については、欧米に一部先行されているとの指摘もある。また、最近のサービスロボットの開発については、欧米における軍事や宇宙産業などを背景とした開発やベンチャー企業による意欲的な取り組みと比較すると、産業用ロボットでは優位である我が国も積極的な取り組みが必要な状況にある。
【世界市場の展望】
産業用ロボットの国内市場については、少子高齢化の進行による労働力不足やロボット技術の高度化による適用分野の広がりへの期待はあるものの、中長期的には飽和しているとの見方が強い。特に米国の金融破綻に端を発した世界不況の影響により、世界的な設備投資が大幅に冷え込んだことで、漸増傾向にあった市場が一気に縮小した。その後、2010年は中国、韓国、台湾などの東アジア市場や、BRICsなど海外需要に牽引されたことから、約5570億円まで回復。我が国としては欧米市場と合わせ、これら新興市場における我が国ロボット産業の市場確保に向けて、販売拠点、メンテナンスなどサービス拠点の体制整備を積極的に行っている。
一方、生活分野、医療・福祉分野、公共分野といったサービスロボットに対する国内外の潜在的需要は大きく、産業用ロボットとサービスロボットを合わせた国内市場規模は2020年に2・9兆円、2035年に9・7兆円との試算もある。
【我が国ロボット産業の
展望と課題】
(1)今後の競争力強化に向けた対応
ロボットの今後の需要は、従来の製造業分野に加え、医療・福祉、オフィス、家庭を対象とする生活分野、防災、警備などの公共分野、建設、農林畜産、物流、清掃など、多くの分野に拡大することが期待される。こうした社会ニーズに応えてロボットの活用範囲を拡大するためには、以下に挙げるような取り組みを行うことが重要である。
まず、安全性の確保などの制度基盤の整備が挙げられる。人間生活の中で、ロボットが安全に人間と共存するために、対人安全の技術や基準・ルールの整備に向けた概念整理や技術水準の形成及び事故が起きた際の責任と補償に係る仕組み、医療・福祉等の現行制度下における取り扱いの整理など制度的な基盤の整備が必要である。
次に、メーカー、ユーザーの両方に対するロボット導入促進策である。今後は実証試験よりも一歩進め、実用化を前提にユーザーとメーカーとがロボットの役割・機能・周辺の環境・コストなどについて十分に分析と議論を行い、ユーザーが実際にロボットを導入して運用するまでを実現させる取り組みが必要である。この際、ロボット単体ではなくサービスの一環としてロボットを位置づけて提供する視点や、機能に見合ったコストの実現が非常に重要になってくる。加えて、要素技術、システム化技術の開発によるロボットのさらなる高度化が必要である。ロボットの活用範囲が広がることにより、ロボットの安全性、信頼性、利便性に係る技術的要求が、従来の産業用ロボットの場合に比べて格段に高くなると考えられる。人に対する安全性と親和性を確保するためには、ロボットの更なる知能化のほか、アクチュエータの小型軽量化、センサー技術及び認識技術の高度化、通信のセキュリティ確保など、要素技術の高度化が期待される。
また、共通インフラとなる基盤技術としてハード/ソフトのモジュール化、標準化などによる、多様な主体がロボット開発に参加しやすい技術基盤づくりも有効と考えられる。
(2)東アジアを中心としたグローバル戦略
中国をはじめとするアジア諸国については、生産活動の活発化(特にEMS<電子機器製造請負サービス>企業)の影響から、電子・電機産業向けを中心にロボット需要は伸びており、今後も堅調に推移する見込みである。アジアにおけるロボット需要の拡大に対応するため、これら地域における販売、ロボット据付、メンテナンスなどを行うサービス拠点の整備が一層重要になっている。