営業技術という言葉がある。営業といえば商いであって、商う人は商人である。技術といえば何事かをする際の方法や手段があって、それらを行う技のことである。わざを使ってもの作りをする人は職人である。営業と技術をくっ付けた営業技術という言葉を文字通り解釈すれば、商いのわざということになり、営業技術員は商いに長けた人ということになる。しかし電気部品や制御コンポを扱う業界では「私は営業技術です」と自己紹介する人は、私は営業というわざをもっている人ですと言っているわけではない。むしろ営業ではなく、わざを使ってもの作りをする技術者に近い仕事をする人ですと言っているように聞こえる。
江戸時代の序列である士農工商というわけではないが、単に物品を販売する商人よりも、職人のように技術を持って、顧客に接する営業技術という仕事の方が格好いいという風潮があるのだろうか。この業界では営業技術のことをSEといって販売員と区別している。一般的に使われているSEとはシステムエンジニアのことで、情報システム分野で働くコンピュータ技術者であって、情報システムの開発設計をする技術者である。この業界でSEといってるのはシステムエンジニアではなく、セールスエンジニアのことである。だから営業なのである。
SEという言葉がシステムエンジニアと重なっているため、技術者というイメージが強いが、セールスエンジニアはまぎれもなく技術的専門知識を持った販売員である。技術的知識で顧客の満足を充足しようという志向が年々強くなってきた結果、販売員の商品技術教育は盛んになり、さらにSEという販売員をつくってきた。技術的知識にうとい販売員は営業力が低いという評価さえあるほどだ。
こうした傾向は電気部品や制御コンポの発展の歴史にもその理由が見られる。製造業の発展段階で、動力を備えただけの手動機械からオートメーションの機械装置に変わろうとしていた頃、顧客は機械技術者や動力、受配電の強電分野の電気技術者であった。電気の新分野のために、オートメーション機器を販売するには電気の基礎知識を身につけ、技術者たちに納得してもらわねばならなかった。だから、当時は電気の基礎知識を身につけた販売員は単なる物品を販売する販売員とは違うぞ、セールスエンジニアだという自負を持って営業していたのだが、商品売り上げに邁進する販売員と何ら違いはなかった。新分野に飛び込んで、成績を上げるための営業の技のひとつだった。
時代を経て、自動化の技術は格段に進み、販売員は商品の形式だけで受注できるケースが圧倒的に多くなった。商品や形式の選定の際の技術的なサポートをして顧客満足度を上げ、さらに顧客との付き合いを深めるために、専門技術を身につけたSEをつくった。こうして営業技術という言葉は営業よりも、技術寄りのニュアンスになってきた。しかし昨今の事情を考慮すれば営業技術は商いのすぐれたわざとしてとらえた方がいいと思う。昨今の事情では商品技術に長けるより、情報収集技術に長けた方が売り上げの上がる時代になっているからだ。相手が相談してくる技術的内容を回答する能力も大事であるが、それ以上に相手技術者の得意分野はどんな技術か、今までどんな製品を設計してきたか、次に何をするのか、などという幅の広い視野に立って情報収集することが新たなニーズにつながっていく。
(次回は1月11日付掲載)