ロームはこのほど、世界で初めて1mΩ/平方cm以下のオン抵抗を実現した、超低損失SiC(炭化ケイ素)トレンチMOSFETを開発した。2013年度中をメドに実用化を目指す。
今回、開発した超低損失SiCトレンチMOSFETは、基板薄化と微細化、チャネル移動度の向上に加え、独自のダブルトレンチ構造の採用により、超低オン抵抗と高耐圧の両立に成功。600Vで0・79mΩ/平方cm、1200Vで1・41mΩ/平方cmという世界最小の超低オン抵抗を実現した。
これは、従来のSi(ケイ素)―MOSFETに比べて20分の1以下、量産化されているSiCデバイスに比べて7分の1以下のオン抵抗となる。
一般的に、電力を発電してから各種機器で消費するまでの間に多くの電力変換が繰り返され、この間に多い場合で50%もの電力が失われるとされる。こうした電力損失を大幅に減らすキーデバイスとして期待されているのがSiCパワーデバイスである。
従来のSi半導体をすべてSiC半導体に置き換えた場合、省エネ効果は日本国内だけで原発4基分に相当するとの試算も出ている。
同社は環境問題に対応するため、すでにSiCSBDやSiC―DMOSFETなどを量産しているが、さらなる低損失化を実現するため、13年度中を目途にSiCトレンチMOSFETの実用化を目指す。
同MOSFETの採用により、電力送電網の電力変換から、パソコンやデジタル家電の電源、冷蔵庫やエアコンのインバータ、電気自動車(EV)、鉄道車両など、あらゆる電力変換器で発生している電力損失(導通損失)を20分の1以下に大幅低減するものとして期待される。特にEVの場合、インバータ部分の小型化に加え、周辺部品の小型化、冷却機構の簡素化なども図れるので、走行距離の大幅改善が見込めるという。
同社では、SiCデバイス事業を次世代半導体事業の中核技術の一つとして位置付けており、DMOSFETやSBDのさらなる高耐圧化、大電流化製品のラインアップ強化のほか、SiCトレンチMOSFETや、SiCデバイスを搭載したIPM(インテリジェント・パワー・モジュール)など、SiC関連製品のラインアップ拡充と量産化を進める方針である。