完成品をつくっているメーカーの販売員は、製品の売り先を特定できる。狙っている業界や顧客層向けに製品を開発しているからである。意外な買い手が現れるかもしれないが、ほとんどは想定している客先である。完成品メーカーとは違って、電気関係の部品やコンポメーカーは売り先を特定できない。一応は狙っている市場はあるものの、部品やコンポを使う市場は広すぎて、想定外で使ってくれる客先もまた多数にのぼるからである。
かつて自動化や省力化が始まって間もなかった頃に、部品やコンポ営業では「横展開」という言葉がよく使われた。横展開とは文字通り横に広がっていくということである。何を広げていくのかというと、この頃は部品やコンポの使われ方が未知数であったため、ある部品やコンポが売れると、その使われ方が似ている工場設備にも使われるかもしれないと考えて、思い当たる製造業の現場を横に広げて、次々と訪問し、営業活動することが横展開するということであった。現代的に言えばアプリケーション営業ということである。
ただ、当時言われていた横展開営業と、現在言われているアプリケーション営業には大きな違いがある。アプリケーション営業とは部品やコンポを内蔵する機器をつくっているメーカーを特定し売り込むことであり、また機械や装置のどこに使われているかを学び、該当する部品やコンポを売り込むことである。当時言われていた横展開営業も部品やコンポが売れると、どんな箇所にどんな使われ方で採用になったかを確認し、同じような製造業の現場を訪問し、売り込みをするのは同様であるが、当時の事情は現在のように自動化、省力化が進んでいなかったので、売り込んだ商品の件では使う使わないといった二者択一の話では終わらなかった。製造工程の話になったり、他に省力化したい箇所があるが、制御機器を使ってできないかといった話になったりした。
結果的に当時の横展開営業は部品やコンポを売るための売り込みというよりも、製造業の実態把握や製造業の技術者がやってみたい自動化の箇所を知る情報収集になっていたのである。
現代の事情では部品やコンポの種類は豊富であり、多くの部品やコンポメーカーは販売にしのぎを削っている。そのため部品やコンポがどこに使われているかという情報が多数集められ、商品カタログとともにアプリケーションは有力な拡販ツールになっている。アプリケーション知識で武装した販売員は売り込み活動をして、結果的に採用してもらえるのかどうかの二者択一営業をしている。うまくいきそうであれば、商談管理シートに載せて、継続フォローをしていくが、うまくいかなければ次の客先に移っていくというのが現代のアプリケーション営業である。
以上のように当時の横展開営業も、現代のアプリケーション営業も、商品の売り方としてのスタイルは同じであるが、結果的には知らなかった諸事情や、知らなかったアプリケーション情報を新たに入手していたことと、知っているアプリケーションの売り込みに終始していることの違いが出ている。
現代のような成熟時代では販売する商品の種類は膨大で、部品やコンポのアプリケーションも小冊子などにまとめられている。販売員は商品やアプリケーションをよく勉強し販売員側の情報に精通しているが、創業や成長期時代の販売員が結果的にしていたような、顧客の事情や様子を知る顧客側の情報を収集することには慣れていない。混沌とした現代では当時の販売員のやり方が大いに参考になるのだ。
(次回は2月29日掲載)