【現状】
情報通信機器産業(エレクトロニクス産業)は、テレビ、携帯電話、コンピュータ、複写機、電子部品、半導体など幅広い分野にわたっており、全製造業の15%の製造品出荷額(約40兆円)、15%の従業員(約115万人)を占める我が国を代表する基幹産業である。
この産業は主に、家電、コンピュータ、携帯電話などの製品から半導体などの部品・デバイスを幅広く生産する総合電機メーカーと、得意分野に特化した専業メーカーによって構成される。日系企業のPCなどの電子機器や半導体の世界シェアは20%前後であるのに対し、AV機器・電子部品等は世界シェア40%以上の高い競争力を有している。
このように、日本の情報通信機器産業は、グローバル化する世界の中でも依然として大きな位置を占めているものの、近年、液晶パネル、カーナビ、リチウムイオン電池など市場投入時には日本企業が高いシェアを持っていた製品分野において、中国・韓国・台湾企業に追い上げられ、ますます厳しい国際競争にさらされている。
2009年度は前年から続く金融危機の影響を強く受け、国内出荷額および輸出額が大幅に落ち込んだが、09年度後半~10年度にかけては、各国の経済危機対策および新興国需要の伸び等により各社業績は回復基調にある。
特に国内においては、家電エコポイント、猛暑、地上デジタル放送への移行等の影響により、10年度の家電販売が好調で、テレビおよびエアコンの出荷台数は過去最高を記録した。
製品別では、金融危機以後は設備投資抑制や在庫圧縮の動きを受けたPC・サーバや半導体製品を中心にあらゆる製品の需要が急減した一方で、スマートフォンや3Dテレビといった新たな付加価値を持つ製品、LEDやリチウムイオン蓄電池といった低炭素型製品の市場が拡大しており、今後も成長が期待される。
なお、東日本大震災の影響により、東日本に立地する多くの生産工場が被災し、設備損壊、電力・水道等のインフラ停止等の被害を受け、生産を停止した。半導体や中小型液晶パネル等で高い世界シェアを持つ中核的な部品の生産停止が、サプライチェーンを通じて被災していない企業の生産にも影響を与えたが、当初予定より前倒して生産を再開するなど、急速に復旧が進んだ。
【我が国情報通信機器産業の強みと弱み】
(1)強み
我が国情報通信機器産業は、要素技術においては情報家電、環境エネルギー関連などで大量の知的財産を創出、蓄積してきており、要素技術を豊富に有している。
地球温暖化問題が世界的にクローズアップされる中で、こうした我が国が誇る環境配慮型製品へのニーズは一層高まり、これにより、我が国情報通信機器産業の国際競争力強化が期待される。
また、我が国は、世界的に市場が成長を続けるAV機器やディスプレイデバイスなど、高機能・高付加価値・高精細・省エネといった特徴をもった製品において、「すり合わせ型」の高いものづくり技術を有している。
(2)弱み
前述のとおり我が国企業は世界最先端の技術を持つにもかかわらず、デジタル製品の普及段階においては後発のアジア企業とのコスト競争が激化し、製品の汎用品(コモディティ)化・低価格化により、製品のシェアを落とし、利益の獲得に苦戦する、という構図が続いている。
この原因として、(1)囲い込む技術と標準化する技術を組み合わせる「標準化戦略」への対応の弱さ(2)量産競争に勝ち抜くために必要な設備投資や研究開発投資の抑制(3)内向き志向による新興国市場・新産業創出への対応の遅れ―が挙げられる。
【世界市場の展望】
薄型テレビ、エアコン、スマートフォン、ノートPC等が牽引した消費財需要の回復により、10年は対前年比10%以上の生産増となった。さらに、世界的なデジタル化・ネットワーク化の進展、情報通信コストの低減、新興国需要の伸長等により、引き続きデジタル家電・IT機器の世界需要は拡大することが期待される。
特に、約40億人の新興国中低所得者層のボリュームゾーン市場が今後も拡大すると見込まれる一方、山寨機(さんさいき)と呼ばれる非正規の安価な携帯電話端末が普及するなど、性能差別化の難しさ・金融危機後の在庫圧縮などを要因として、ハードウェアのコモディティ化・低価格化が同時に進んでいる。
こうした環境下、各社は、各市場・地域の文化や習慣に根ざした製品開発・販売体制を構築し、ボリュームゾーンを獲得するグローバル戦略およびアプリケーションやサービスで差別化する戦略等への対応が求められる。
【我が国情報通信機器産業の展望と課題】
(1)今後の競争力強化に向けた対応
製品のコモディティ化後の大量普及フェイズにおいて利益を獲得するため、プラットフォーム構築によるドミナンスの確立、コスト構造を踏まえた戦略的投資の実施、グローバルなサービス提供網の構築による販売力における競争へのシフト、といった対応が考えられ、これらの戦略を各分野の市場の状況等に合わせて適切に組み合わせ、積極的な設備投資、最適なアセット組み替えおよび経営リソースの重点化による事業再編を行う戦略が必要とされている。さらには、付加価値が見込まれる上位層の社会システムやコンテンツの強みを生かすことで、コモディティ化の圧力に抗しつつ、イノベーティブなサービスを新たに生み出し、成長の活路を見出すことが可能となる。
(2)グローバル戦略
資本集約性の高いエレクトロニクス産業においても、各国の企業誘致等が進みつつある中で、労働集約型の組立工程を中心に、生産拠点を海外に移すケースが増えてきた。近年では、中国における人件費の上昇、ワーカー不足などを受けて中国内陸部やベトナム等、東南アジアへの投資を進めるとともに、拡大するグローバル市場への対応として、生産のみならず現地R&D機能も強化するなど、現地化の推進を加速している。さらに、30年には世界市場のわずか6%となると見込まれる国内市場にとどまらず、事業開始当初からグローバル展開するためには、市場、競合他社の分析をしつつ、自社・他社の領域設定、戦略的提携や買収などを通じたグローバルアライアンスが重要となってくる。