【現状】
我が国自動車産業は、構成部品点数が2~3万点にも達する大規模な加工組立産業であり、鉄鋼、化学をはじめとする素材産業から、電機・電子など、その関連産業は多岐にわたっている。そのため、関連産業を含む就業人口は多く、出荷額及び設備投資額は、国内製造業の中で約2割を占めるなど、我が国経済のけん引役として重要な役割を担っている。
東日本大震災により、東北地域及び関東地域の自動車及び同部品メーカーが数多く被害を受けた。自動車産業は、多階層・多業種に及ぶサプライチェーンから構成されており、一つの部品が欠けても生産再開が出来ないため、震災直後は工場の生産の縮小・停止を余儀なくされた。しかし、自動車業界全体を挙げた復旧作業により、一部の部素材を除き急速に回復した。
現在、自動車メーカー各社は、ほぼすべての工場で生産を再開しており、今後更に操業速度が上がっていく見込みとなっている。世界では、中国、インド、ブラジルをはじめとする新興国の存在が高まりつつある。日米欧3極の市場は、2000年以前の世界市場で世界自動車販売の約9割を占めていたが、現在では、新興国が約5割の水準を占める状況になっている。また、09年における世界自動車販売台数では、中国が米国を抜き世界第1位の市場になった。10年も、中国は引き続き販売台数を大きく伸ばし、2位の米国に600万台以上の差をつけている。ブラジル、インドにおいてもそれぞれ販売台数は増加しており、世界第4位、第6位と順位を上げている。
【我が国自動車産業の
強みと弱み】
(1)強み
我が国には、世界最高水準の燃費及び排ガス性能を実現するエネルギー・環境技術が存在する。我が国はこれまでハイブリッド自動車の技術において先行してきたが、近年では、電気自動車、プラグインハイブリッド自動車といった自動車についても市場拡大が見込まれている。優れた蓄電池の技術等を背景に、こういった分野においても、我が国が世界をリードしていくことが期待されている。
また、内燃機関自動車についても継続的に燃費改善が進められているが、昨今では非常に優れた燃費性能を持つ車両が登場しており、省資源及びCO〓削減という観点からも期待が高まっている。
(2)弱み
我が国は資源に乏しい。特に、今後需要の拡大が想定されるハイブリッド自動車、電気自動車のモーター等に使用されるレアメタルは存在量が希少であり、特定の国に偏在していることから、安定供給を確保していくことが重要である。また、我が国は人口減少、若者の車離れなどが進んでおり、今後、内需拡大を図っていくことも重要である。
【世界市場の展望】
今後、日米欧の先進国では、ますます環境志向が高まっていくことが予想され、高い環境技術が導入された次世代自動車等の環境性能に優れた自動車の需要拡大が見込まれる。また、今後の自動車市場の拡大が予想されるBRICsをはじめとする新興国市場においても、環境への取り組みが高まっていくと考えられるが、一方で従来車が市場の中心的役割を占めるとも予想されるため、内燃機関技術の向上を進めていくことが一層重要となる。
【我が国自動車産業の
展望と課題】
(1)エネルギー・環境技術の強化に向けた対応を軸とするグローバル戦略の推進
昨今のエネルギー制約及び地球温暖化問題に対する関心の高まりにより、我が国自動車産業が国際競争力を維持・強化していく上で、環境技術を軸としたグローバル展開が重要となっている。
一方、既に述べた通り、先進国市場においては、高い技術を導入された次世代自動車等の需要拡大が見込まれる一方、新興国市場においては従来車が市場の中心的役割を果たすと考えられる。このようにグローバルな市場が、地域ごとに多様化していくと考えられ、各メーカーは、市場毎の特性に見合った対応が求められる。このため、我が国自動車関連産業が世界のリーディング産業で在り続けるためには、次世代自動車の推進と従来車の競争力維持の2つのバランスを持って進めていくことが必要である。
(2)国内生産基盤の維持・発展
自動車関連産業は非常に裾野が広く、関連産業も含めると就業人口全体の約1割にのぼる。このため、我が国の雇用確保の観点から、自動車産業の国内生産基盤の維持・発展は極めて重要である。現在、電力供給制約等により、我が国の自動車産業の空洞化圧力が高まっている。これらを克服し、日本をものづくりの拠点として魅力あるビジネス環境にすることが重要である。