混沌時代の販売情報力 多彩な切り口で相手情報に迫る

販売員は案件やテーマといった言葉が好きである。売り上げに直結するし、売り上げ会議や月末報告書記入に際して誇れる内容となるからである。案件やテーマといった言葉と同義語で使われている「ネタ」という言葉がある。かつて案件という言葉は電気部品や制御コンポ業界の販売員の間では使われていなかった。その代わりにネタという言葉を使っていた。「何かいいネタありませんか」などと気軽に使っていたが、昨今の販売員はあまり使っていない。案件もネタも顧客情報であることは同じである。しかし案件は売り上げ数字に直接的に絡む情報である。ネタは、売り上げ数字に直接絡む情報もあれば、売り上げには無縁であるが、相手の仕事や会社のおもしろい話題のこともある。かつて使っていた「何かいいネタはありませんか」という質問には、案件とひと味違った顧客に共通する話題を含んでいたのである。

案件という言葉がまだ一般的に使われず、ネタという言葉を使っていた時代のことである。ある時、制御部品メーカーの工場から製品開発の技術主任が営業の現場に出張してきた。その日一日、営業の若い販売員と客先を4社ほど同行して回った。夕方営業拠点にもどって来て、若い販売員の上司と報告がてら雑談に興じていた。

「営業って畑が違うので、むずかしいものと思ってましたが、意外と簡単でした」と工場の製品開発主任が販売員の上司に向かって話を切り出し、続けて言った。「最初の1社を訪問した際には、どういう話題から入ろうかと迷いました。そこで当社の工場の成り立ちや方針などをまじえて、相手の技術者と懇談しました。その際に相手の話をじっくりと聞いておいたら、次の訪問先での話題に事欠かなかったし、またそこで得た情報で次の訪問先の話題として意見の交換ができて、非常に有意義でした」。

60年代や70年代のような高度成長期ではテーマや案件といったことに終始せずに工場出張者でも、有意義なネタやおもしろいネタといった情報に重きを置いていた。現代でもやろうと思えばやれる営業活動なのだが、ネタというより案件やテーマに重きを置く時代であるようだ。ネタはアナログ的であるが故に報告書には不向きであり、報告書にはデジタルなテーマや案件が向いているせいなのか、または販売員に望むことは売り上げ一本になって、各種の情報は企画などのスタッフが膨大なネット情報を駆使して集め、考えるという分業になっているのかは不明であるが、ネタという言葉を昨今使っている販売員はいない。

現代でも販売員は情報収集の最前線にいることは間違いない。販売員が顧客から情報を収集するには、観察や傾聴といったことは大事であるが、質問するということはことさら大事なことである。顧客は案件情報を含めて、たくさんの情報を持っている。販売員は知らないが、顧客側ではすでに顕在化している顧客側の仕事のテーマがある。

きのうきょう営業に携わった販売員でないなら、顧客に接して色々な経験をしているはずだ。その経験から関係のありそうなことを仮説として選び、質問を試みることはできる。つまりその仮説は相手から情報をひき出す武器になる。したがって様々な経験をしてきた販売員は、たくさんの武器をもって色々な切り口から相手情報に迫ることができるはずだ。
(次回は3月28日掲載)

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