操作用スイッチ市場のグローバル化が進むなかで、スイッチメーカーの戦略も多様化傾向にある。スイッチ専業メーカーが品ぞろえ強化の方向を強める中で、制御機器の総合メーカーの一部では機種の統廃合や、他社とのアライアンスによるOEM供給を受けることなどで、コスト負担を軽くしようとする動きが見られる。台湾や中国など新興国のスイッチメーカーも品質とコストで攻勢を強めつつあり、販売競争はさらに激化しつつある。
しかし、機械・装置のインターフェイス部分を担う照光式スイッチをはじめとした操作用スイッチの果たす役割はまだまだ大きく、今後も着実な市場形成が期待できそうだ。
照光式スイッチが、各種機械装置やゲーム機器向けなどを中心に伸びている。小型・薄型化とLEDの高輝度化など技術的な進歩も著しく、使いやすさを増している。市場のグローバル化が進む中で、販売競争も激しくなっているが、照光式スイッチの特徴を生かした付加価値提案も活発化している。スイッチメーカー間でのアライアンスの動きも見られ、新たな段階に入りつつあるとも言えそうだ。 操作用スイッチと表示灯を一体化した照光式スイッチは、一つのスイッチで操作と状態の表示を兼用できることから、スペース性と視認性で大きなメリットがあるため、操作用スイッチ全体での割合が高まりつつある。
●一進一退の状況で推移
日本電気制御機器工業会(NECA)の出荷統計によると、2010年度の照光式を含む操作用スイッチの出荷額は357億円と対前年度比136%の大幅な増加となった。また、11年度上期(11年4~9月)の出荷額は175億円で同4・6%減となっている。10月以降も前年同期比90~101%ぐらいで推移しており、このままで推移すると11年度は横ばいか若干マイナスとなりそうだ。東日本大震災により上期は仮需などが発生したことで一時は大きく出荷が増えたが、その後は逆に震災と円高の影響、欧州と中国経済の低迷などが加わり、一進一退の状況で推移している。
NECAの出荷額のうち、照光式押しボタンスイッチが約28%を占め、最も高い割合となっている。これに照光機能の付いたトグルやロッカースイッチなども含めると照光式スイッチの比率はさらに高くなる。この傾向は、今後も強まるものと見られる。
●工作機械向けが増加基調
照光式スイッチの主要市場は、開閉制御装置・機器、工作機械、食品機械、運搬機械、半導体製造装置などが挙げられる。中でも工作機械向けは大きな市場となっている。工作機械はリーマンショックによって出荷が大きく落ち込んでいたが、ここ3年間は再び増加基調に転じており、ピーク超えを目指した出荷を継続している。半導体・液晶製造装置の生産も国内外の投資に支えられここ数年間では大きく拡大し、照光式スイッチ需要を支えてきたが、昨年後半からは足踏み状態が続いている。これに対し照光式スイッチの大きな市場になっているアミューズメント市場は、ここ1~2年低迷が続いていたが、パチンコ・パチスロ機を中心に需要が増加に転じつつある。規制緩和や新機種登場、震災の波及など種々の要素が挙げられているが、照光式スイッチ市場の中核分野の一つだけに、今後も期待が持てそうだ。
●復興特需関連でも市場拡大
大震災以降のエネルギー問題や節電対策から急速に市場としての期待が高まっているのが、スマートグリッドや再生可能エネルギー関連である。太陽光発電や風力などの新エネルギー関連は、電力変換用のパワーコンディショナーや受配電機器などで照光式スイッチが多く使用される。EV(電気自動車)などの普及で充電スタンドが家庭や事業所などに普及すると非常に大きな数量になる。原発事故に伴い再生可能エネルギーへの関心が急速に高まっており、これと照光式スイッチ需要をどのように絡ませていくかで、ますます需要増加が見込まれる。
大震災に絡んでは、復興に向けた特需関連でも照光式スイッチの市場拡大が期待されている。東北の震災地区はまだ瓦礫が山積しているところも多いが、整地、電力や上下水道の整備といった社会インフラは先行して取り組まれている。今後、建物建設や設備機器の導入などが進むことで、照光式スイッチをはじめとして操作用スイッチの需要が増加するのは確実だ。
鉄道車両や鉄道インフラ関連向けも、照光式スイッチをはじめとした操作用スイッチの需要の裾野は広い。ドアや運転席周り、車内情報表示系統、券売機、自動改札、プラットフォームなど多岐にわたる。最近の鉄道車両は、単に人を運ぶだけでなく、快適な乗り心地の追求、車内でも情報収集や仕事ができる場として目的が変わってきている。運転席では、運転に関する情報が集中して表示されるが、照光式スイッチやタッチパネル表示器が大きな役割を果たしている。ドアや座席にも照光式スイッチがついており、ドア開閉や座席管理などで視認性を高めている。鉄道車両のスイッチは、信頼性に加えデザイン性、操作性などがポイントとなっている。車両にマッチしながら、誰が操作しても確実に機能を果たすスイッチが選択の基準として重視されている。鉄道は環境にやさしいという社会的な追い風もあって世界的に見直されているが、鉄道車両にはスイッチだけでなく、いろいろな制御機器が使用され需要裾野は広い。車両だけでなくも鉄道運行システムなどを含めた、海外の社会インフラ市場開拓への期待が高まっている。
●魅力ある放送・映像・通信向け
放送・映像・通信関連機器向けも照光式スイッチにとって魅力ある大きな市場だ。特に、放送・映像機器は、頻繁な操作が行われることから操作性が非常に重視される。機器に応じた操作性を実現するためにスイッチメーカー各社は、技術アピールできる分野の一つとして注力している。照光式スイッチに求められる操作感触、視認性、耐久性などといった、あらゆるニーズが集約されていることで、スイッチメーカーにとって技術研さんにもつながり、この分野向けを意識した開発を積極的に行っている。
●照光の光源はLEDが主流に
照光式スイッチの光源には、白熱球、LED、ネオン球のほか、最近はLCDや有機ELなども使われてきているが、現在の主流はLEDとなっている。LEDは各種の色が高輝度に照光できることで急速に採用が増えた。これに本来の特徴である長寿命、低消費電力、低発熱、省メンテナンスなどが加わり、白熱球などから急速に置き換えが進んできた。このところの省エネ・節電対応の高まりが普及へさらに拍車をかけており、すべての照光がLEDに置き換えられる勢いを見せている。
光源のLED化は、スイッチの薄型化にも大きな影響を与えている。白熱球光源に比べ小型であることで実装スペースを大幅に削減でき、照光式スイッチの薄型化を飛躍的に進めた。現在スイッチ各社は、こうした薄型の照光式スイッチをラインアップに加えている。
ベゼルの高さが2ミリ前後の薄型・フラット構造は、パネル全体がシャープで引き締まったデザインになり、凸凹の少ない操作パネル面は食品機械や半導体製造装置で求められるゴミや埃の付着を防ぎ、パネル面の突起に当たることで生じる誤動作などを防ぐ利点がある。デザインだけでなく、スイッチ装着の安全対策や配線作業の省力化と誤作業防止の工夫もなされており、一層使いやすさをアピールしている。
表面だけでなくパネル奥行きも短胴化されつつあり、現在φ16ミリタイプで27・9ミリの照光式押しボタンスイッチが販売されている。
その他、LED素子の実装方法を工夫することで、小さなスペースでも照光式スイッチとして使えるようにトグルスイッチやパドルスイッチなどで、操作部分全体を光らすようにLEDを実装した製品も発売されており、照光式スイッチの新たな用途開拓につながっている。
●赤と緑を切り替え表示
もうひとつ変わった照光式スイッチとして注目されているのが、1つの表示面で2種類の表示に変換できる押しボタンスイッチである。従来は色の異なるLEDを搭載することで2色発光をしていたが、これは表示プレートに加工を施すことで、同じLEDを発光させながらも赤と緑を切り替えた表示が可能になる。
●有機ELの動向に注目
光源のLED化が主流の中で、今後の動向が注目されているのが有機ELである。有機ELを光源として採用して、表示部に画像やメッセージなどを表示させ、しかも1つの表示面で何種類にも切り替えて表示できる。有機ELの持つきめ細かな表示は、テレビのような表示画面を実現できる。通信機能を搭載することで、画面の変更なども容易に行えるなど新たな発想は、今後のスイッチ市場の動向として注目される。有機ELは照明機器への展開なども志向しており、生産量が拡大すれば、コスト面でも優位性を発揮することにつながりそうだ。
その他、ユニークなスイッチとしてバッテリーレスでワイヤレスのスイッチも発売されている。押しボタンを押した時の力を電気エネルギーに変換し、無線信号を制御盤内の受信機に送る遠隔制御の仕組みで、省エネで配線作業が不要など時代のトレンドにマッチしたスイッチとして今後の動向が注目される。
●タッチパネルと棲み分け
こうした中で、照光式スイッチを含めた操作用スイッチが、プログラマブル表示器やタッチパネルと市場で競合する面が増えつつある。それぞれに特徴があるだけに選択権はエンドユーザーや装置メーカーにあり、NECAのスイッチ業務専門委員会が、工作機械に対する操作用スイッチの動向を調べているが、照光式スイッチは操作確認上から重視している一方で、操作スペースやスイッチ個数を減らしたいというニーズからタッチパネルやプログラマブル表示器を採用する傾向も強くなっている。堅牢性、耐環境性、操作感など総合的な要件も加わってくるが、現状はわかりやすい操作性と表示で、タッチパネルなどとの棲み分けが図られているようだ。
例えば印刷機械では、操作用スイッチとプログラマブル表示器、液晶モニターの3つが並べて使用されていることがある。機械の操作設定はプログラマブル表示器で行い、始動・停止などは操作用スイッチを使用、印刷状況とその結果は液晶モニターで見るといったように使い分けしている。プログラマブル表示器のみでも動かせる印刷機械であるが、頻繁な操作繰り返しや誰でも簡単に操作できるようにするために、操作用スイッチを併用することで、誤操作などを防止する狙いもあるようだ。