FA(産業用)コンピュータは、工場内の厳しい環境条件でも信頼性が高く、長期的に安定供給が可能なコンピュータとして、幅広い市場を形成している。装置のコントローラから生産設備の情報収集端末まで幅広い用途があり、標準品からカスタマイズモデルまで様々なタイプがそろっている。市場規模は、2010年度の調査によると約350億円に達しており、広範なユーザーに対応するためメーカー各社では各種の製品開発を進めており、カスタム需要への対応も進んでいる。一方、EtherCATなどのネットワークシステムと接続することで、高効率でより高速のマシン制御が可能になるほか、1台のPCで操作から制御までを可能にした新しいタイプのFAパソコンも注目されている。 FA(産業用)コンピュータとパネルコンピュータを加えた市場規模は、10年度で約350億円、11年度は数%の伸びが予想されている。
最近は、半導体製造関連装置やFPD製造関連装置などの分野では、従来別々であった工程を一体化処理や並行処理することで、処理時間の短縮やスループットの向上が図られており、より複雑なプロセスを短時間で高速処理する必要がある。このため1つの装置に複数の制御コントローラが必要となり、複数台のFA(産業用)コンピュータを使用するケースが増えている。
このような用途では、従来Pentium43GHzクラスのCPUを搭載した製品が主流であったが、最近では最先端のデュアルコアCPUや、メモリ2GBクラスのハイスペックな製品が求められる。インターフェイスについても増設コストを少しでも減らすため、豊富なシリアルやUSB、拡張スロットを持つことが必要とされている。
最近は、インテルのデュアルコアCPU CoreTMDuo2GHzクラス、チップセットには945GME以降に対応した製品が注目されている。拡張スロットには、画像処理ボードやモーションコントロールボード、各種フィールドバスボード、GP/IB通信ボード、AD変換ボードなど用途別に応じたボードを使用し、またシリアルやUSBには各種ホストコントローラやUPS、計測装置などの周辺装置を接続することが多い。
●ハードとソフトでコピー防止
このようにFA(産業用)コンピュータには様々な仕様が要求される、特に最重視されるのはやはり「信頼性」である。さらに最近ではユーザーから「コピー防止機能を付与して欲しい」という要望も強くなっている。特に受託開発の分野では、技術が海外に流出することを防ぐために、ハードとソフト両面でコピー防止を行うケースが増えている。
また、24時間連続的に稼働する厳しい現場では「いかにダウンタイムを削減できるか」が課題となっている。
最近の動きでは、Windowsだけではできないリアルタイムな制御を求めて、マイクロネット社のINtimeのようなリアルタイムカーネルを併用する場合も増加傾向にある。これはPLCでは実現できない処理の領域、例えばプロセス処理用の学術計算や高級言語によるプログラミングなどを実現するため、制御部分はリアルタイムOS上による処理、制御以外の部分は通常のWindows
OS側による処理を行うなど、1台のPC上で実現している。
従来は、このようにWindows
OSとリアルタイムOSを同時に走らせるということは非常に困難であったが、近年はコンピュータの高性能化により実現できるようになった。
●コスト低減などメリット
このようなワンボックス化を実現することで、従来現場にあった複数台のPCや周辺装置、およびそれらを連携する通信部分をコンパクトに集約できる。また、1台のPCで操作から制御までを実現するシステムも登場し、装置の小型化とともに処理能力の向上と、保守部品・運用コストの低減など様々なメリットを生み出している。
一方、日本を含むアジア市場では、計装におけるPLCの占めるウエイトが非常に高いため、I/O周りの制御や接点の設定などはPLCで処理することが標準的になっている。
●急速なワンボックス化の流れ
これに対し、北米や欧州市場では、コンピュータから各種フィールドバスボードを経由して、I/Oを直接制御するというケースが主流になりつつある。もともと海外市場では、コンピュータによるシステム構築が標準であったため、こういったワンボックス化の流れが急速に進展している。
日本国内では、複雑な制御を必要としない装置であれば、PLCの位置付けはそう簡単に変わらないものと見られるが、海外でのこうした流れは、ここ数年無視できない動きになっている。
国内でも、超高速フィールドネットワークであるEtherCATに接続することで、高効率でより高速なマシン制御が1台のPCで可能になっている。EtherCATは、産業用ネットワークとして実績のあるEthernetをベースにしたもので、高効率で超高速通信を実現し、リアルタイムでの制御が可能となっている。
制御用コントローラがハイスペック・信頼性・拡張性を要求されるのに対し、HMI端末や生産ラインの情報収集端末として使用されるFA(産業用)コンピュータは、CPUスペックや拡張性よりも、コンパクトな筐体、ファンレス対応、コストなどの組み込みに適した要求が多い。
例えば、POP端末として上位サーバからの製造指示を確認し、それに基づく作業内容をPLCや温度調節計などの各種コントローラに指示し、その結果を収集する場合などがある。
こうした場合、端末で複雑なデータ処理をすることは少ないので、高速のCPUスペックを要求するようなケースは少ない。ただ、信頼性を求められるのは必然であり、有寿命部品を減らすためのファンレス対応、Windows
XP
EmbeddedによるHDDトラブル回避、バッテリユニットによる瞬停対策などが進んでいる。
●パネルコンピュータへ移行
最近の傾向では、HMI端末としてPDを長年使用してきた装置メーカーが、パネルコンピュータへの移行を検討するケースが増えてきている。これは、従来計装技術を担ってきたラダープログラム世代が少なくなり、再利用性の高いC言語などの高級言語(HLL)世代への世代交代が進んできたことが一因となっており、パネルコンピュータの汎用性に着目されている。
装置メーカーは、他社との差別化を図るための独自技術のプラットフォームとして、汎用アーキテクチャを選択するケースが増加傾向にある。その際、GUI構築などについてはHMIソフトウェアなどを導入し、画面の見栄えや、PDFなどのドキュメント閲覧機能、リモートモニタ機能などを構築することで、アプリケーションとしての付加価値を高めている。
しかし、すべてのレンジの装置にパネルコンピュータなどを導入することは難しい。この場合、ローエンドレンジはPDなどを使用するケースが多く、その場合、専用のPDと汎用のパネルコンピュータとの間でHMIアプリケーション資産をどのように流用できるかが、プログラミング工数上の大きな問題となっており、HMIソフトのメーカーは、この課題に対処していかなければならない。
FA(産業)コンピュータの今後の動向は、WindowsなどOSの遷移や、PCIからPCI
Expressへの移行などが挙げられる。特にリアルタイムOSでは、10年にT―Kernel2・0が公開された。T―Kernel2・0は、システムコールや入出力操作用APIが64bitに対応しており、最大8E(エクサ)バイトのストレージに対して読み込み・書き込みを行うことが可能である。
高性能化するハードウェアに対応し、マイクロ秒単位で指定可能など、タイマー関連の機能などが強化されており、機器制御の時間精度をより高めることができ注目されている。
今後は、インテルや各種ベンダーとの協業などで新しい価値を持つFA(産業用)コンピュータの開発に注目が集まるだろう。
●保守体制の充実を図る
こうしたハード面に加え、産業用コンピュータの長期供給・長期保守という特徴をバックアップする保守体制の充実をポイントにした取り組みも強い。産業用コンピュータメーカーのほとんどが、5年間の長期供給と供給終了後7年間の保守対応をうたっている。これをオプション機能や保守契約締結などで、さらに長期間対応できるような体制をとっているメーカーも増えている。当然のことながら24時間対応できる保守サービス体制になっており、バックアップ体制も産業用コンピュータを安心して採用できる裏づけになっている。
●海外市場の開拓がポイント
FA(産業用)コンピュータの海外市場開拓はまだほとんど進展していない。販売後のサポート体制が重要であることから、これへの対応がとれないと顧客に満足して使ってもらえないということが背景にある。しかし、産業用コンピュータのユーザーも確実に海外シフトを強めており、早晩対応が必要になる。市場のグローバル化、特に中国など新興国市場の発展は産業用コンピュータのニーズの拡大にもつながっており、今後は海外市場開拓が大きなポイントのひとつとなりそうだ。
昨今のエネルギー問題は、FA(産業用)コンピュータでも低消費電力化、熱対策などを中心に取り組まれており、性能・機能を上げながら環境負荷を小さくする環境効率向上に、開発ポイントのひとつを置きつつある。リサイクル問題も含め、産業用コンピュータのもう一つの方向性を示している。
FA(産業)コンピュータは、長期間信頼して使用できるという安心感から、FA分野以外のゲーム業界や業務端末といった領域でも採用が増えている。FA(産業)コンピュータに求めるニーズは使用領域の拡大で多様化しているが、それだけ期待も高く、市場としての魅力も大きい。CPUやOSメーカー、各種ベンダーとの協業などで、新しい価値創造に向けた取り組みが期待される。