機械・装置のインターフェイスを担う操作用スイッチ市場は、国内で工作機械、ロボット、自動車製造など産業機器分野が堅調に推移しており、アミューズメント機器やセキュリティ機器など、FA以外の分野でも伸長を見せている。さらに高機能の操作用スイッチでは、電力分野や鉄道車両分野などインフラ関連での需要が拡大している。また、東日本大震災からの復興需要が今後本格化することへの期待もある。機能面では、機器の小型化に伴い小型・薄型・短胴化が進んでおり、デザイン性、安全性、保護構造の向上などが図られている。今後は、エネルギーマネジメントシステムやスマートグリッドなどの新市場開拓への取り組みも意欲的で、インターフェイス機器としての重要性はさらに高まりそうだ。 操作用スイッチ市場は、日本電気制御機器工業会(NECA)統計で、2011年度出荷高は対前年度比96・8%の345億円となっている。上期は東日本大震災の影響から前倒し受注が出たことで、前年同期を上回る状況で推移していたが、中国、欧州市場の不調と円高が重なり、輸出を中心に伸び悩んだ状態で1年が終了した。
■12年度出荷7.2%増見込む
NECAでは、12年度出荷見通しを同107・2%の370億円と、NECAの製品5分類のなかでは最も高い伸びを見込んでいる。上期の見通しでも102・7%と唯一プラスと見通すなど、堅調な予測となっている。
操作用スイッチの主要市場である半導体製造装置分野はまだ動きが鈍いが、工作機械やロボット、自動車製造関連は堅調で、停滞気味であったアミューズメント向けも回復してきた。さらに、情報機器、携帯電話、セキュリティ機器、放送機器向けも着実な推移を見せている。
■エネルギー関連に期待
今年度の操作用スイッチ市場のけん引役として期待が高いのは、社会インフラ絡みの電力関連や新エネルギー関連、鉄道車両関連だ。電力関連や発電関連で
は、ここ数年、操作用スイッチの需要が増加してきたが、原子力発電所に代わる火力、地熱、風力、ソーラといった再生可能エネルギー関連需要に期待がかかる。発電所建設、パワーコンディショナーなど操作用スイッチ需要の裾野は広い。エネルギーマネジメントシステムやスマートグリッド、充電スタンドなどを含め、エネルギー関連分野での操作用スイッチ需要は、内需を支える大きな力となりそうだ。
鉄道関連での需要も期待が高い。鉄道車両では、運転席周辺やドア、座席などに操作用スイッチが多数採用されているほか、運行システム、ホーム扉、自動改札、券売機など市場が広がっている。
■付加価値高めた拡販
こうした社会インフラ関連に採用される操作用スイッチは、安全性や確実性、耐環境性などが求められることから、スイッチメーカーの技術レベルをアピールできる機会でもあり、同時に付加価値を高めた拡販も行える側面を持っている。
そのほか、高齢化社会に対応した福祉機器やセキュリティ機器にも操作用スイッチ需要が見込まれている。
操作用スイッチは、用途、操作頻度、取り付けスペースなどによって選択されるが、最近の傾向は小型・薄型・短胴化、デザイン性、安全性、信頼性、保護構造などの向上が著しく、照光式ではLEDや有機ELなどの採用による高輝度・長寿命・精細表示化などが進んでいる。
NECAでは操作用スイッチを、押しボタン、照光式押しボタン、セレクト、カム、ロータリー、トグル、デジタル、DIP、シーソー、多方向、タクティ
ル、スライドなどに分類している。
■光源はLEDが主流
照光式押しボタンスイッチは、表示灯を兼備したスイッチで視認性とスペース性でメリットがある。光源はLEDが高輝度、長寿命、低消費電力の点で主流となっている。特に低消費電力は大きな魅力で、装置全体でスイッチを多数使用することが多いだけに、メリットが大きい。液晶や有機ELを光源や表示素子に採用し、情報の多彩な表現を実現した押しボタンスイッチも普及が進んでいる。
一方、デザイン性と機能性を満たすタイプとして、ベゼル高さが2ミリ前後の薄型スイッチも浸透している。パネル全体がシャープで引き締まったデザインになるほか、凸凹の少ない操作パネル面は、食品機械や半導体製造装置で求められるゴミや埃の付着を防いだり、パネル面の突起に当たることで生じる誤動作などを防ぐ利点がある。
DIPスイッチやデジタルスイッチは、パソコンやOA・情報・通信機器などで多く使われ、操作頻度があまり多くない用途で採用されており、SMTに対応したタイプが浸透している。
■独自の接触方法を開発
DIPスイッチは、一般的に一度設定するとその後はあまり操作しないことから、接触信頼性の確保が求められる。メーカーでは、ナイフエッジ構造など独自の接触方式を開発し、フラックスなどの浸入による接触不良の解消を図るとともに、プリント基板などへの実装後の洗浄もシールテープなしで可能にしている。
高密度実装に対応するために高さや取り付けピッチを抑える取り組みは進んでおり、取り付けではハーフピッチ(1・27ミリ)、高さでは1・45ミリの製品化が行われている。
タクティルスイッチは、プリント基板に直付けし、シートキーボードスイッチやパネルスイッチなどと組み合わせて使用することが多く、特に携帯電話の多機能化に伴う需要が急増している。低背化、インチピッチを採用した端子が特徴で、丸洗い可能な密閉構造や照光タイプなどもあり、確実な操作感が得られる。今後はLED採用の照光式タクティルスイッチの需要が増えるだろう。
■高圧のDC電源に対応
シーソースイッチは、電源のON―OFFなどに良く使われる最も一般的なスイッチ。比較的大電流の入り・切りを行うため、操作時の突入電流による接点やハウジング対策が重要となっている。機器の小型化が進む中で、スイッチの小型化も年々進んでいる。同時に屋外や環境の悪いところでの使用に対応して、防塵・防水対策を施した製品も増えている。
省エネの観点から直流(DC)給電への関心が急速に高まるなかで、高圧のDC電源に対応したスイッチ開発も進んでいる。
交流(AC)の100、200、400Vスイッチは技術的に安全対応が確立しているが、DCでの高電圧スイッチは技術的にこれからの部分も多い。特に電源スイッチとしての使用が多いシーソースイッチでは、一部のメーカーが商品化しているが、今後パワーコンディショナーや充電スタンドなど高圧DC電源機器の普及とともに需要が広がり、製品化を進めるメーカーも増えてきそうだ。
シートスイッチやパネルスイッチは、パネルデザインの自由度が高く、耐環境性も良いため、悪環境下の生産現場から携帯用の民生機器まで幅広い市場を形成している。耐環境性の面では、トグルスイッチはIP67相当の保護構造を実現している。操作レバーを全面照光式にした製品もあり、暗い場所でもON・OFFが操作レバーの位置で確認できる。多方向スイッチは、1本のレバーで多くの開閉が可能で、細かな操作を行う用途に最適である。一部のトグルスイッチやスライドスイッチは、スナップアクション方式を採用。クイックな動作で出力の安定を図り、接触信頼性を高めると同時に長寿命化を実現している。
■医療/食品分野で採用
カムスイッチは、多くの回路とノッチが得られるため、複雑な開閉などに対応できる。用途によって操作開閉頻度に大きな差があるため、接触信頼性の確保が最優先で求められている。
フットスイッチは、防浸・防水性能が向上しており、医療分野、食品分野でも採用が拡大している。フットスイッチは安全性がさらに重要視されており、3ポジションタイプのほか、安全ロックレバーを搭載したタイプや、ペダルの高さを低くしたタイプなどの新製品が相次いで発売されている。
安全の確保という点から、安定した市場を形成しているのが非常停止押しボタンスイッチである。プログラマブル表示器の普及が進む中にあって、非常停止押しボタンスイッチは必須であることから需要が拡大している。通常、使用しなくても非常時に確実に働く構造が開発のポイントである。
操作用スイッチは、プログラマブル表示器やタッチパネルなどへの置き換えも進んでいることから、新用途、新機軸スイッチの開発に取り組んでいる。前記の高圧DCスイッチ開発もそのひとつといえるが、配線レス・バッテリーレスで使えるという押しボタンスイッチも注目されている。
発電機を備えたワイヤレス押しボタンスイッチ(送信器)と受信器によりワイヤレスで遠隔操作ができるもの。送信器の押しボタン操作で内蔵の小型発電機が電気を発生し、同時に動作信号を発信して受信器に送られる。制御盤内に受信器を設置しておくことで、機械装置やドア・照明などの制御を行う操作用スイッチと制御盤との間の配線を無線技術により不要にし、配線作業時間などの大幅短縮と、コスト削減にもつながる。スイッチ駆動のための電源も、スイッチを操作した時のエネルギーを電気エネルギーに変換するというユニークさと、電池を使用しないため電池切れの心配もなく、電池のリサイクルコストの削減にもつながるエコを兼ね備えたスイッチといえる。
節電・省エネ関連、スマートグリッド関連などの操作用スイッチの周辺は今後の有望分野が多い。海外メーカーとの競合も強まっている中で、市場を創造する製品開発による今後の飛躍が見込まれている。