高輝度で信頼性が高く、かつ長寿命なLED照明は、家庭用から産業用まで幅広い分野に採用され、今や照明器具の主流になりつつある。産業分野では、調光制御が可能なことから、工場やオフィスの照明用として採用が拡大しているほか、メンテナンスフリーで薄型化を図ったことで、装置や機械の内部用照明としての需要が急速に拡大している。一方、植物育成分野や医療施設などでも採用が進んでいる。さらに表現力アップのためにリフレクタ付きのチップLEDも開発されており、今後最も注目される分野の一つである。 LED照明は、1990年代に青色LEDが開発されて以降、白色光照明も可能となり、現在では家庭用から産業用まで幅広い分野で使用されている。
LED照明の市場規模は富士経済の調べによると、2011年は震災後の節電対策として需要が急増し、2212億円(前年比255・7%)と大幅に増加した。12年は3738億円(同168・9%)、20年には約4600億円に達するものと予想され、全照明器具に占めるLED照明の比率では、11年25%、12年38%、20年には58%と半数以上に達すると予測されている。
LEDは、順方向に電圧を加えた際に発光する半導体素子を用いたpn接合と呼ばれる構造になっている。発光原理はエレクトロルミネッセンス(EL)効果を利用しており、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)も分類上はLEDに含まれる。素子の中で電子の持つエネルギーを直接、光エネルギーに変換することで発光する。
発光は熱や運動の介在を必要とせず、放出される光の波長は材料のバンドギャップ(禁制帯幅)によって決められる。基本的に単一色で自由度が低いが、青色または紫外線を発するLEDの表面に蛍光塗料を塗布することで、白色や電球色など様々な中間色のLEDが製造される。
LED照明は、蛍光灯や白熱電球など従来の照明器具と比較すると、高輝度、長寿命・高信頼性、低消費電力・低発熱性、耐衝撃性、小型・点光源、高速応答性、環境に優しいなどの特徴を持つ。
2100ルクスの高輝度実現
高輝度については、産業用の最新製品では、独自の高出力デバイスと光学技術、さらにマイクロアロイレンズの採用などにより、輝度で2100ルクス、光束で1万5700ルーメンという明るさを実現している。
長寿命に関しては、現在、LEDの想定寿命は照度70%期において6万時間とされており、非常に寿命が長い。これにより、一度設置すれば電球交換など保守の手間が省け、部品や器具の購入コストが削減できる。こうした高輝度と長寿命という特徴により、高い信頼性を得ている。
低消費電力・低発熱性では、供給される電力の多くが発光に使われ発光効率が高く、従来の白熱照明と同じ明るさを出すのに必要な電力が少なくて済む。熱となって失われる電力が少なくて済み、低発熱の照明器具となる。
工場用の天井照明では、従来の水銀灯に比べ、使用電力で約60%削減でき、高い省エネルギー性を実現している。加えて調光機能を取り付けたタイプでは、さらなる省エネが可能である。
日本電球工業会の調査によると、国内の家庭用及び業務用で使う電力の中で、一般照明用電力が占める割合は全体の約15%と推定され、この電力を発電する際に排出されるCO2の量は、全排出量の約4%に相当すると推定している。
使用電力は蛍光灯の1/2
LED照明の使用電力は、蛍光灯の約2分の1、白熱電球の約8分の1なので、LED照明に切り替えることで国内電力が7・5%削減、CO2の全排出量が2%削減できるとしており、CO2とともに経費削減にも大きな役割を果たしている。
耐衝撃性では、真空やフィラメントを必要としない構造なので、衝撃に対し比較的強く作れる。小型・点光源では、ほぼ点光源であり発光部が小さいことから、設置空間が小さくでき、デザイン上も利点がある。
高速応答性では、熱慣性がほとんどないLED照明は、供給電源が断続すればそれに応じ高速で明滅する。
環境面では、有害な水銀を使用しておらず、赤外線を出さないことで熱を外に伝えない。また、紫外線を出さないので虫が寄ってこないなどの利点がある。
一段と低価格化が進む
価格面はこれまで、白色高輝度LEDの製造には、高価な半導体製造装置と高度な技術が必要とされ、LED照明の生産・販売数が少ないこともあり、量産ができず高価格となっていたが、ここ数年普及が進むにつれ、メーカー側でも量産が可能となり、年々リーズナブルな価格になっている。産業用LED照明でも低価格化が進み、最近発売されたタイプでは従来品比35%の価格ダウンを実現している。
一方、従来の白熱電球は、世界的に環境対策や省エネルギー政策の観点から使用中止が求められる傾向にあり、国内では環境省と経済産業省が12年までに白熱電球の製造と販売の中止を業界に求めており、将来的にはほぼ廃絶される方向である。
海外のLED照明の動向では、韓国では「15/30プロジェクト」という15年までに全照明の30%をLED照明に切り替える計画を進めており、国を挙げて電気エネルギーの環境負荷低減を目指している。
中国でも、省エネルギーやCO2排出削減に向けた各種政策が発動されており、企業や民間でも徐々に意識が高まっている。09年には、政府主導で「十城万蓋」(10都市LED街灯化プロジェクト)をスタートさせ、現在は21都市まで拡大している。
また、米国では10年にエネルギー省が、3700万ドル以上を半導体照明事業に助成すると発表した。半導体照明にはLED、有機ELが用いられ、白熱灯に比べエネルギー効率が10倍になると見込んでいる。
現在、米国内の総発電量の24%が照明に使われているが、半導体照明の普及により、30年までに照明に伴う電力消費量を10年の3分の1に削減できるとしている。
LED照明が登場する以前は、照明の製品技術や市場に大きな変化がなく、いくつかの照明メーカーが分野ごとに棲み分けされた安定市場であったが、LED照明の登場により、産業構造に変化の兆しが見え始めた。
半導体メーカーが参入
LEDは半導体を使用していることから、半導体メーカーからの新規参入や、これまで照明とは直接関係のなかったメーカーが、LEDをアッセンブリするなどし、LED照明の生産・販売を開始している。
産業用照明では、LED照明を導入することで調光などの制御が可能となるほか、薄型化を図ることで装置や機械の内部用の照明として機能できるようになり、こうしたFA分野での需要が急拡大している。
特に、産業用LED照明事業に参入している制御機器メーカーでは、高輝度LEDデバイスとレンズ、さらにリフレクタによる光学設計と、高効率な電源設計により高輝度で省エネルギー、長寿命、省スペース、メンテナンスフリーが特徴の各種産業用LED照明を展開している。
産業用のLED照明は、オフィスや工場、店舗用の天井照明に採用されているほか、マイナス40℃の環境でも即時フル点灯が可能なので、低温倉庫などの低温場所用照明、さらに水や油、切削くずが飛び交う工作機械や食品加工機械・設備など、厳しい環境下の機械内部照明や、設備用照明などの分野で需要が伸長している。
高い保護特性を保持
こうした厳しい環境下で使用することが多い産業用LED照明は、保護特性IP66G、IP67G、IP69Kという高い保護特性を保持しており、防水・防塵・耐油・高耐食性を備えた高機能な産業用LED照明として、注目されている。
また、小型・薄型で軽量ということから、携帯用として、制御盤や配電盤の中を照らす照明として重宝がられている。あるタイプは照明器具の裏側に磁石を取り付け、作業員が見たい場所に磁石で張り付けることで、手が自由になり、作業員の作業性がアップしている。
このほかでも、蛍光灯のようなチラつきがなく、検査対象物に均一の光が照射でき、凸凹など傷のコントラストを作ることで、より確実な目視検査をサポートする検査用LED照明や、塗装工場など水素やアセチレンガスを含むゾーン1/2の危険場所で使用可能な、耐圧防爆構造LED照明なども着実にシェアを伸ばしている。
さらに、様々な検査を実現するために、豊富な形状・色のLED照明をラインアップした画像処理用LED照明の分野では、LED照明のほかに、照明用電源やセンシング照明やフィードバック電源、照明モニタリングセンサ、各種オプションやアクセサリ類まで幅広くラインアップし、ユーザーの要望に応えている。
産業用以外では、消費燃料が軽減できるイカ漁などの集魚灯分野や、最近話題になっている植物工場など室内での植物育成分野がある。特に植物の育成にはLEDの単波長特性が適しているとされており、今後の市場拡大が期待できる。
さらに、紫外線や赤外線による劣化を避けたい美術品や伝統工芸品などの展示用途のほか、LED照明はノイズを放射しないので医療施設や半導体工場向け、歯科治療用光硬化樹脂の照射光源、商業施設などで映像表示を兼ねた映像ライティングなど、今後、様々な分野での需要拡大が期待される。
3色発光チップLED登場
新しい開発として、小型でさらなる表現力が求められるモバイル機器やアミューズメント機器向けに、高輝度とともに、表現力のアップに欠かせない高混色性を実現した業界最小のリフレクタ付き3色発光チップLEDが登場している。このチップLEDは超精細でありながら、高輝度でのLEDマトリクス生成を可能としており、携帯電話やアミューズメント機器などでの表現力が大幅にアップするものとして期待されている。
照明としてはLEDのほか、有機ELや無電極灯なども注目されている。このうち無電極灯は、LED同様に長寿命(約10万時間)で省電力(水銀灯の約2分の1)、瞬時点灯といった特徴から、高所のためランプの取り換えが困難な、高天井照明などの水銀灯置き換え用としての需要が見込まれている。
LEDおよびLED照明・機器メーカーなど関連する企業が集まり、国際的な普及促進でLED照明市場の拡大を目指すため、07年に設立されたLED照明推進協議会(JLEDS)では、LED照明の普及活動のほか、普及に向けた戦略策定と技術開発のロードマップ策定、関係省庁など関連する機関との連携、活発な広報活動などにより、グローバルな視点でのLED照明の市場拡大を目指している。
バス化へ国際的取り組み
光源のLED化などと並行して、国際的に照明制御システムのバス化への取り組みも行われている。照明関連機器メーカーなどが中心となって次世代の照明制御システムのデファクト化に向け活動を展開しているもので、市場の動向とも絡み、しばらくはいろいろな方式での提案活動が続くものと思われる。
動力用と並んで電力使用量が大きい照明機器も、LEDをはじめとした新しい照明光源の開発により、飛躍的に低消費電力化が進んでおり、地球温暖化の防止にも大きな役割を果たしている。