【独・ハノーバー=藤井裕雄前特派員】FA関連市場は今後、環境とエネルギー関連の需要拡大が大きな波及効果を生み出す牽引役になっていきそうだ。環境先進国のドイツをはじめ、欧州各国は次の産業振興の起爆剤として原子力発電を代替するエネルギーの開発と活用技術、自動車に代表されるエコカー開発・生産技術と周辺インフラ投資、さらには人口増大に対応した水や食料調達に向けた動きなど活発化させている。ものづくりで培ったFA制御技術が、工場内だけでなく、工場の外でも活用され、大きな投資効果を発揮することが見込まれている。
日本のFA制御機器市場が全体に閉塞感をただよわす中で、欧州を取り巻く市場環境にはさほど大きな停滞感はなく、むしろ新しいターゲット市場が見えつつある。こうした中、ドイツで毎年開催されている世界最大の国際産業技術見本市「ハノーバー・メッセ2012」が、今年も4月23日から5日間開催された。産業用部品、製造オートメーション、エネルギー、自動車技術などで世界60カ国から約5000社が出展、来場者も約19万人を超えた。今年も「Greentelligence」をテーマに掲げ、効率的な生産方法、環境に優しい材料採用などの志向と、資源節約型の産業発展を進めようとの提案が随所に見られた。
ドイツは昨年の日本の原発事故などもあり、いち早く原発からの撤退を発表したが、FA制御機器メーカーではそうした動きに対応する取り組みで、新たな産業振興を図ろうとしている。そのひとつが風力、地熱、太陽光といった再生エネルギー開発および供給関連インフラ需要への対応だ。再生エネルギー開発では風車、ソーラーパネルなどの製造投資と、その設置、送電などの発電周辺需要および、電力需要者側のこれらを使用するための周辺制御機器需要などでパワーコンディショナー、監視機器、各種安全対策機器、通信機器、接続機器などが代表的なものとして挙げられる。
日本でもLED照明やスマートメーターなどを含めたスマートグリッド技術・スマートシティ構想が提案されているが、こうした延長線の市場として、期待ができる。
もうひとつは、エネルギーの効率的な活用に向けた投資の拡大だ。アメリカ、日本と並ぶ自動車生産大国であるドイツでもエコカーの開発と生産投資が意欲的に行われている。EV(電気自動車)やHV(ハイブリッド自動車)だけでなく、ディーゼルや低燃費自動車など「自動車各社は新しいコンセプトカーの開発に投資しており、まだまだ大きな市場として期待できる」とドイツ・フエニックスコンタクト社フランク・シュトゥルベルグ副社長は語る。こうしたエコカー関連では、自動車本体はもちろん、充電スタンド関連や電池、自動車運行制御など、幅広い分野での投資が見込まれている。
エネルギー消費の効率化ではモーターの省電力化の動きも活発だ。ドイツのVDI協会の調べによると、世界では約3億台のモーターが稼働しており、使用台数は毎年10%増加しているが、最適な制御技術と効率的な制御部品を開発することで、モーターの消費エネルギーを30%減らすことができると見ている。ドイツ・ベッコフ社のハンス・ベッコフ社長も「世界中の研究機関、学校関係の技術を集めることで、機械と相性の良い効率的な制御機器の開発を考えていく」と強調する。
こうした市場環境の中で、FA制御機器の技術開発も著しい。センサー専業メーカーの多いドイツであるが、ピーアンドエフとタークが傾斜センサーを注力製品のひとつとして展示していた。自動車や建設機械、農業機械などでの用途を見込んでおり、自動車王国ドイツならではの展示と言える。ピーアンドエフはIP69K対応の食品・薬品製造用の近接センサーも注目された。センサーではエフェクター、バルーフ、オヒナー、安全機器ではピルツ、DOLD、BEERなども出展。
配線接続機器では、フエニックス・コンタクトが3番目に大きい展示スペースに、FAに加え、PA(プロセスオートメーション)、エネルギー関連へ製品幅を広げ、充電スタンド向けコネクターや電力監視メーター、高圧電力用コネクターなどの新製品を展示し、「今後のソリューション」への意欲を示した。ワゴも主力の接続機器を中心に、ワイドな品ぞろえを強調していた。そのほか、ワイドミュラー、ヴィランド、MC、ハーティングなども出展。
筐体ではリタールが、FAとIT分野での品ぞろえを、会場で2番目に大きなスペースでアピールしていた。工場、データセンター向けでの総合トップメーカーとして、広範なシステム提案力を示した。三菱電機は、組み立てロボットを中心に、実績あるFA機器を展示した。
シュナイダーエレクトリック、イートン、ETA、ベッコフ、HMS、シーメンス、ABB、ボッシュ、デルタなどドイツおよび欧米のFA制御機器有力メーカーも最新技術を披露。
一方、各種フィールドネットワーク協会も、プロフィバスODVA、イーサCAT、AS―i、PLCopen、セーフティネットワーク、サーコス、HART、FDT、ファンデンションフィールドバス、OPCなどがブースを設けた。
なお、今年は展示のパートナー国が中国であったことから、初日の23日には中国の温家宝首相がドイツのアンゲラ・メルケル首相と開会式に出席して講演を行うとともに、フエニックス・コンタクトやシーメンスなどの小間を見学した。