機能面では、トランスの軽量・コンパクト化に加え、接続方法の簡易化など作業性の向上、マルチタップ化、LEDによる通電表示などの工夫・改良が進んでいる。
作業性の向上では、結線の作業性・信頼性の向上、デザイン面などの観点から結線部への端子台の採用が一般化している。タブ端子台を採用しネジを使わず、リセプタクル端子をタブに差し込むだけで結線が完了するタイプのほか、最近では、アップネジの採用でネジを緩めることなく丸型圧着端子の接続ができるタイプがシェアを伸ばしている。ネジが脱落しないため、結線作業の効率化が大幅にアップすることに加え、従来のネジ式と比較すると作業時間が80%以上短縮できる。また、保護カバー付きアップネジ式端子台にLEDを取り付け、通電中はLEDが点灯し通電状態が一目で確認できるタイプが好評を得ている。
さらに、1次側(入力)とともに、2次側(出力)にマルチタップを採用することで、1台のトランスで12種類の電圧に対応することができ、入出力の電圧変更が簡単にできる特徴を持つ。
■絶縁紙の使用枚数削減
軽量・コンパクト化への取り組みとしては、絶縁紙の使用枚数削減がある。これは環境対策面でも効果的で、絶縁種別をB種、巻線仕様をノーレア方式にすることで、従来品と比べ20~40%の軽量化を実現。これにより、1kVAクラスの場合、約3キロの減量となる。サイズも10~20%コンパクト化が図られている。
最近開発された新製品は、中型単相、三相トランスにおいて、新しい形状の成形ボビンを採用することで、コイルをレヤー紙巻からレヤーレス巻きすることに成功。
層間紙を入れずに完全整列巻線を行うことができ、導体熱が直接伝わり放熱効果が向上するとともに、大幅な小型・軽量化を実現している。
さらに、コイルの上下面の線輪間を完全に覆うことで、ホコリやごみ、湿気などからコイルを守り、絶縁不良の事故を防ぐことができ、注目度がアップしている。
コイル巻線の工夫、鉄心の改良については、複数巻線シングルコアに対して、複数コアのシングル巻線にすることで大幅に薄型化することができる。近年では、巻線の自動化技術も進み、独自の自動巻線装置を使うトランスメーカーが増えている。
民生用途の小型タイプなどでは、既に巻線の自動化がなされているが、大型タイプが中心となる産業用トランスでは、まだ手作業で行っているところが多い。自動化は、同じ巻線数でも手作業などの従来方法よりコンパクトに巻け、小型軽量化につながっている。
トランスの巻線作業はある程度熟練が必要で、ベテラン職人の減少や人件費対策などのコスト面からも、巻線の自動化が進んでいる。コイルボビンにノーカットの鉄心を巻き込んだタイプもあり、鉄心の有効断面を均一にすることができ、磁路の短縮が図れる。コイルボビンと鉄心の一体化構造で、高い絶縁性と正確な形状を実現し、しかも自動巻線も使えるといった特徴がある。
そのほか、用途ごとに変わる電流容量に容易に対応できるように、数個を並列に接続できるモジュールタイプが一般化している。
■ノイズ対策機能を付加
一方、トランスにノイズ対策機能を付加する製品も伸長している。ノイズ対策には一般的にノイズ対策専用トランスを採用するが、トランス自体がノイズ対策機能を持つことにより、ノイズ対策専用トランスが不要となり、コスト、スペースなどでメリットが生まれる。
また、日本は山間部や日本海沿岸など雷被害を受けるところが多く、最近では温暖化現象の影響などで都心部でも落雷による被害が増加している。そのような背景から、雷対策用として耐雷トランスの需要が急速に伸びている。さらに、太陽光発電システムの普及に伴い、太陽光発電用のパワーコンディショナが落雷により被害を受けるケースが増えており、今後、こうした分野でも耐雷トランスの需要拡大につながってくるだろう。
安全重視の観点では、焼損事故の再発を防止するため、自己保持型サーマルプロテクタを内蔵し、所定の動作温度に達すると、トランスや電源機器の電源を切るまで接点を開放し続ける事故再発防止トランスなども伸長している。
最近では金型レスのプリプレグ方式のモールドトランスの需要も高まっている。特徴は、通常の乾式トランスに比べ、導電部の絶縁や保護に効果を発揮し、難燃性や耐湿性に優れること。さらに金型レスのため、ユーザーが求める様々な容量・電圧に対応するトランスの製作も可能である。
産業用トランスは、電気的安全性確保の重要な役割を担っており、今後も安定した需要が見込まれる。専業メーカーでは、さらなるコスト低減などで原材料高の課題を乗り越えると同時に、新規販売ルート、新規顧客の開拓に積極的に取り組んでいる。