独フエニックス・コンタクト社が配線接続機器メーカーから産業機器のソリューションベンダーへの変身を急ピッチで進めている。IT技術が急速に進展する中で、国際的なエネルギー問題、環境問題に対して、同社の有する制御技術が大きな鍵を握りつつあるからだ。折しも同社の日本法人も今年開設25周年を迎え、次の四半世紀に向けたスタートを切っている。変化の激しい中で企業の生き残りも大変な時代になりつつあるが、同社はファミリーによる長期的な視野に立った経営で来年には創業90年を迎えようとしている。長い社歴に埋もれることなく、常に最先端の技術で2、3年先を行く開発を続けるフエニックス・コンタクト社の強さの秘密を探る。(藤井裕雄前特派員)
1923年、電車に電気を供給する部品からスタートした同社は、28年に現在の中核製品となっている端子台を開発した。現在では端子台からコネクタ、サージ保護機器、信号変換器、ネットワーク機器、安全機器など幅広い領域に広がり、カタログ品だけで6万品種を誇る。いまや配線接続機器メーカーから、産業機器の総合メーカーに変わりつつある。
現在でも毎年約2000品種の新製品を発売しており、4月22日から5日間開催された「ハノーバーメッセ2012」にもまったく新しい製品30品種を出展した。「当社の発売2~3年後に、競合が同様の製品を発売して来る」と同社副社長兼海外統括事業責任者のラルフ・マスマン氏は語る。
では、その秘密はどこにあるのだろうか。
そのひとつは、自社工場で作ることを基本にしていることだ。例えば端子台のねじ、端子も線材から加工し作り上げる。また、そのねじを加工する金型も、組み立てを行う機械も自社で開発している。こうすることで、メーカーでありながら、それを使用するユーザーのニーズも把握できることになり、改良のヒントや次の製品開発へのシーズが生まれる。
同社は世界に7つの工場を持つが、「すべてのプロセスが同じであることで、すべての品質レベルが同じであることを保証している」とアジア・パシフィック地域販売担当マネージャーのフランク・アッカマン氏が強調するように、すべて自社で対応している強みがここで生かされている。
技術的に柔軟な面も兼ね備えている。「日本の高い品質要求を学ぶことは、ドイツ本社にとってもプラス効果がある」と日本のフエニックス・コンタクト青木良行社長は日独の連携を指摘する。フランク・アッカマン氏も「日本市場はアジアでは中国に次いで2番目であるが、日本は高い技術力を持っており、その果たす役割は大きい」とその意義を認める。
もうひとつの強さは技術開発体制であろう。同社のグループ内に、独立した検査機関として認定されているテストラボがある。現在125人の検査員が、EMCから振動、防水・防塵・防湿、圧力、温度、紫外線、耐久性などの試験を行っている。CEマークや船級の認証書を発行でき、同社グループ以外の検査も受託している。電気自動車のバッテリやヒューズ、安全ベルトの耐久性、鉄道車両の試験など多岐に渡る。
エグゼクティブ・バイスプレジデントのフランク・シュトゥルンベルグ氏は「毎年売り上げの平均して7%を研究開発投資にあてており、2011年度は1億5000万●(約160億円)、12年、13年度も同じ額で投資を計画している」とその実績を誇る。こうした開発重視の経営姿勢とそれに連動した製品試験体制、全世界共通の品質管理生産体制が競争力ある製品を生み出す秘密と言える。
同社は、11年から経営の方向を、コンポーネントの提供からシステム・ソリューションの提供を行うことで成長を目指そうとしている。そこには、IT技術が急速に進展する中で、市場が国際的なエネルギー問題、環境問題に対応していく方向に大きく変化しているためだ。「風力発電所のタービンでの課題はそこのモータをどのように制御するかということである。われわれはそこのコンポーネントとソフトウェアを提供するだけでなく、完全に環境をモニタリングするためのソリューションとして、ひとつのパッケージを提供していきたいと考えている。これは当社にとって戦略的に大切なひとつのステップである」とフランク・シュトゥルンベルグ氏はその変化を説明する。
ハノーバーメッセで発表した技術が2、3年後にはドイツから世界市場へのトレンドとして発信する。その動向から目が離せない。