パクス・ロマーナとはローマによる平和を意味する。ローマ帝国の支配領域であるライン河の西とドナウ河の南から地中海世界にかけた領域に空前の平和と繁栄を築いた紀元1世紀からの200年間を指してパクス・ロマーナと言う。ローマが強大になった理由は、数々の書物にある通りである。
ことに戦闘に関して言うと、ローマ軍の戦いは、戦闘に向かう以前に十分な情報収集を行って、その情報に基づく、敵の民情の正確な洞察の結果だと、塩野七生著「ローマ人の物語」に書かれている。
さらに続けて「ローマ軍の司令官は捕虜になった敵兵の尋問を部下にまかせず、司令官自身がやっていた。事実を知るだけなら拷問によってでも吐かせればいいが、事実の背後にある事情を知るには、そこに関心をもつ人間が尋問してこそ効果が期待できる」と解説されている。司令官になるようなローマの上層部の人達は、戦いとは人間と人間の戦いであることを深く理解していたから、相手民族の民情の重要性がわかっていたのだろう。下級士官なら目の前で追ってくる敵軍の人数や武器、それにどのような布軍を敷いているのかを知るのに全力を尽くすだろう。それでは不十分とローマ軍率いる司令官は考えていた。一体、相手民族はどんな生活をしているのか、相手の司令官はどんな家族構成で、部下にはどのように思われているのか、などのような尋問は戦闘の真っ最中になかなかできるものではない。
戦いとは人間がやるのだという深い理解があってこそ人間に関心がもてるのだし、相手のリーダーのことや民族性に関して尋問できるのだろう。
事実を把握しようとして情報を収集するのは敵も同じであるが、人間に関心をもって相手の行動を読もうとした分、ローマ側の戦術幅が広くなり有利に闘えたのだ。結果的に戦後処理における他民族統治もスムーズに進行し、ローマが強大になっていったのはうなずける。
現代の営業戦線においても情報の重要性は衆知の事実である。市場の変化やトレンドの情報を収集するのは企画等の参謀スタッフであり、目の前の商談テーマ情報に全力を注ぐのは販売員というのが現状である。巨大で複雑になった産業市場であるから、販売員と企画等のスタッフが役割を分担するのは当然のことかもしれない。参謀スタッフが市場の変化やトレンドをどのように読むかで販売員の行動も違ってくるということになる。
例を挙げてみると、昨年の震災以降に起こった電力不足対策のための節電という概念はこれまでの省エネやCO〓削減に対する認識を大きく変えた。日本人の取り組み意識が変わった。このトレンドをキャッチして省エネ型の商品のアピールや拡販を思いつく参謀やスタッフは多い。販売員は電力の見える化の必要を訴え、電力測定器をアピール、インバーターの売込みやLEDの拡販を強力に押し出すことになる。当面の行動としては、そつのない活動である。
しかし、それだけではもったいない。日本人の省エネに対する意識の変化を考えれば業務や製造の現場も変化しているのは当然である。そこで現場の省エネ意識はどこまで高まっているのかという情報を取る必要がある。徹底したエネルギーの見直しが進行しているはずである。電力の大半を使う動力の見直しをはじめとして待機電力や設備のレイアウトなどきびしく見ていくだろうし、製品設計者も部品点数を見直したり、より省エネ部品に変えたりする動きが見られるだろう。そこには、また別のニーズが浮かぶ。
(次回は6月20日付掲載)