日本配電制御システム工業会は、今年11月に工業会設立30周年を迎えるが、6月7日に「設立30周年記念式典」を盛大に開催する。昭和57年に社団法人化して以来、業界の発展拡大、会員会社の成長を目的に様々な事業を実行し、わが国産業の振興にも貢献してきた。
現在、出荷額7000億円に達している配電制御システム業界は、今後、スマートグリッドに代表される分散電源の普及に伴う系統連系や省エネ・節電などの分野での活躍が期待されている。配電制御システム業界は電力の安定供給だけでなくソフト、センサー、セキュリティ、メカニカルなど総合技術ノウハウを備えており、国内外の事業環境の新たな変化は、大きなビジネスチャンスでもある。
日本配電制御システム工業会設立30周年を機に、盛田豊一会長に業界の展望などについて語ってもらった。
-まず、30周年を迎えるにあたってのご感想は。
盛田会長
当工業会は、11月をもって法人化30周年を迎える。この間、諸先輩方のご努力、会員の皆様や関係諸官庁はじめ関係団体のご指導・ご鞭撻により、配電制御システム業界の社会的地位向上に努めてきた。
現在、国内景気は厳しい環境にあるが、電力の安定供給、省エネルギー、電気制御など電気に関するいろいろな分野をトータルしたのが我々のテリトリーであり、蓄積した技術を活かして、新しい分野に広げていけば、今後も発展していくことができる。他方で、今日の電力不足は、我々に既存に安住することなく、現場ニーズを正確にとらえる社内体制の構築、開発力の強化、技術革新を求めている。工業会としても業界に対する役割がますます大きくなる。
-工業会の歴史は多事あったでしょう。
盛田会長
昭和47~50年頃のニクソンショック、ドルショック、石油危機など不況長期化の時代に、共存共栄、相互信頼、協調が求められたため、昭和48年7月に情報交換・意思疎通の場として「全国配電盤工業会連絡協議会」が発足、全国団体としての第一歩を踏み出した。その後、昭和50年には耐熱形配電盤類の自主認定を開始するなど事業が拡大する中で、公益法人化への期待が高まり、関係機関のご支援により、昭和57年11月に社団法人化の運びとなった。以後、「配電制御システムに関する調査研究」「会員各社の経営合理化推進」「業界全体の技術・技能の向上」「取引正常化の促進」「会員間の相互交流」などの事業を進めてきた。
-時代とともに業界の位置づけは変わりました。
盛田会長
先ほども話したが、配電制御システム業界は、大手建設会社、電気設備工事会社、機械メーカーの下請けというイメージが強かった。実際、配電盤は一括発注という取引慣習があり、制御盤も機械メーカーと間接取引が多く、自分で開発しようとする面で欠けていたのも事実である。部材を買ってきて、システムを作るだけだった。我々は、一番重要な領域に携わっているのだから、ここから脱皮しないといけないし、工業会の取引適正化促進事業などその方向に進みつつある。
我々に力量は十分にある。制御盤でいえば工事をやったり、システムを組んだり、メンテナンスを行うなどノウハウを持っている。この蓄積してきた技術でシステムを提案、問題点も克服していけば、他から参入できない体制を構築できる。
配電盤も制御盤も直口座、直販売に切り替えることにより直接顧客のところに行って、どういうシステムがいいですよ、と言えるようになる。システムのノウハウを我々が持つことが大切だ。
技術だけが優れていてもダメだ。できた商品の販売力が必要となる。我々が培ってきたノウハウ、ソフトを生かして、自らシステムを提案、供給していけば、自然と販売力も高まる。
我々の業界に限らず、日本の中小製造業は、開発能力があっても販売力がない。モノをつくるのだから、お客のニーズの中でつくるのは良いが、ニーズに提案が入っていない。現場ニーズはエンドユーザーが持っていることを考えれば、エンドユーザーに直結しないといけない。
-現場ニーズ直結でチャンスも増えます。
盛田会長
我々のテリトリーからいろいろな市場を見た時に、潜在的に参入していけるチャンスはある。ただ、そのチャンスをとらえ、活かしきれていない。各企業が持っているノウハウの違いだと思うが。会員が共同で開発してもいいだろう。しかし、自社の開発案件、受注物件などを多数抱えていてなかなか余裕がないところもあると思うが…。
-盤のソフトの標準化が重要です。
盛田会長
ソフトの標準化が非常に大切だ。否応なくグローバル競争に入るので徹底して標準化しないといけない。まだまだムダがある。ソフトは会社の財産なので、データを共有化する仕組みを作ることである。
配電盤の場合は機構が比較的単純なので、ボックスなどハードは標準化しやすいが、ソフトの部分はちょっと難しい。営業や設計担当者が代われば、前に手掛けた内容が全然わからなくなることもある。制御盤は、同じメーカー、グループ会社内でも指定のやり方、指定の機器、形、寸法などが様々で、仕事が広範囲になればなるほど、全く違ってくる。標準化は難しく、また今までは標準化しなくても仕事はこなせた。しかし、景気が悪くなってくるとコストが問われるようになる。
配電盤、制御盤ともに過去の実績をデータベース化することが大切だ。それらを引き出して分析すれば、顧客に対して過去に開発・納入した例を活用しながら説明できるし、打ち合わせや設計などの時間が短縮しコストも削減でき、見積もり費用も明確になる。機械メーカーのシステムの場合、機器の位置などが微妙に異なる場合があり、標準化を進める際には、特殊な物件も含めて基本の何パターンかを作っておき、中の機器は拡張性がある形にして、同じ箱の中に組み込んでいけるようにする必要がある。
-ソフト標準化は利益につながります。
盛田会長
能力のある社員に仕事が集中してしまう。また、先任者がいなければ分からないから、設計から全部し直すことも出てくる。金型を作るのと同じように、物件ごとに最初から行うのはムダであるし、お客によりよいものが提供できない。標準化できれば、今の仕事で十分に利益が出せる。それだけ、標準化は徹底する必要がある。
-グローバル化が影響しますか。
盛田会長
空洞化が進む中、国内の制御盤の市場は縮小すると思うので、海外に目を向け、世界中で受注できるようにしなければならない。しかし、今の為替レートでは、国内で作って持っていっても厳しいので、取引先の海外進出に合わせて、海外でつくる必要が出てくる。
配電盤については、大震災復興や新エネルギーの対策で今のところ国内だけで動いているが、これもいつかは崩れるかもしれない。既に日本のメーカーの中には、中国で部品を作って、現地で営業活動を行っているところもある。中国や新興国で作った部品は安いが、日本ではまだ販売されていない。仕様などが違うから入ってこないが、グローバル化して海外メーカーの配電盤が国内に入ってくると大きな影響を受ける。
-こうした環境下では、開発を中心とした経営が必要になります。
盛田会長
開発能力がある場合、売れる商品をつくれればいいが、販売能力がなかったり、競合先のリサーチができていなかったりして、上手くいかないこともある。先ほどの話と重複するが、顧客のニーズを的確にとらえて開発しないといけない。また、配電盤の技術は他へ転換しにくいが、いかに転換していくかがポイントだ。今の顧客、技術をベースにしながら、どこに可能性を見出すかを、各企業が本気で考えなければならない。思い込みでなく、顧客のニーズの中でやらないと失敗する。
-新エネルギーに期待できそう。
盛田会長
地球温暖化への対応が社会全体の大きな課題としてクローズアップされ、石化エネルギーに代わるエネルギーへの転換促進や省エネのための技術革新が進んでいる。このような中で、昨年3月に発生した東日本大震災とそれに起因する福島原発事故により、原発への信頼性が大きく揺らいでおり、今後、電気エネルギーシステムの転換が一層進展すると思われる。再生可能エネルギーの推進などで、盤の中身が変わり、仕事の内容も変わってくる。風力、太陽光エネルギーなどではハイブリッドの電源を使わないといけない。業界にとってリスクはあるが、チャンスにもなる。大手メーカーも参入してくるので、初期段階で早めに開発する必要がある。そうしないと、大手がパッケージ化したシステムを私たちが買うだけになってしまう。
ハイブリッドカーの場合、自動車そのものが発電機になり、住宅が停電した時に役に立つ。そのためには、今はガソリンが必要だが、燃料電池が高性能になれば、電気をためられる。太陽電池による電気もためられるようになるので、自動車、太陽電池、住宅などを取り込んだ配電盤システムの商売も考えられる。
-工業会の役割が大きい時代です。
盛田会長
通信、省エネ、ハイブリッド、新エネルギーなど私たちが手掛ける分野はトータル的にどんどん広がっていく。技術革新の時代であり、海外からもいろいろな技術や製品が入ってくるので、我々も、海外でも競争力のあるものをつくって世界中で販売しなければならない時代が来ると思う。業界を次の30年に向けて活力と魅力に満ちたものにするためには、会員の皆様の結束と新しい技術へのチャレンジが必要になると思われるが、工業会では今後、今まで以上にニーズを把握しつつ、時代の変化に対応した事業を実施していきたい。