経済産業省の生産動態調査によれば、配電盤類(高・低圧配電盤、産業用分電盤)の生産金額は、平成3年度(1991年)の3300億円をピークに、以後、減少傾向にあり、ここ数年は2000億円前後まで落ち込んでいる。
今後の建設投資は、中長期的にみた場合、官公庁の財政逼迫、国民の社会基盤整備に対する要求意識(ハードからソフトへ)の変化、国内産業構造の変化などから減少することはあっても、大幅に増加することは期待できない。
このため、現状に甘んじて何も打開策を講じない場合、競争力のある大手や特定の安定した顧客を有するメーカは生き残るとしても、多くのメーカは存続の危機に陥る可能性がある。
一方で、昨年の大震災以降、発電・送電・配電・消費のあらゆる分野で再構築の必要に迫られており、今後エネルギー全般で大転換が図られる見込みであり、ビジネスチャンス到来を予感させている。
1:現状認識
生産量の減少に加え、競争激化による受注価格の引き下げにより、生産コストに見合う受注価格を維持することが困難に成りつつあることが、将来展望を描けない大きな要因の一つになっているものと思われる。
これは、当業界が建設業界の一分野に組み込まれており、建設業界の産業構造に起因するものと思われる。建設業界は、契約時点では受注された製品(建物)の詳細な仕様が確定しておらず、建設が進むにつれて詳細が決定するという、契約に対する認識が希薄な産業構造である。
このため、製品の企画・設計・性能・仕様決定などは発注者側が行っており、配電盤類は、最終工程でその方針に従って製品を作り納入する構造になっているため、主体性を発揮する機会が乏しい産業構造になってしまっている。
建設投資の減少の中で、価格決定権は発注者側にあるため、同業者間ではどうしても価格競争に陥り、低収益体制から抜け出せない状況が続いている。
2:配電制御システムへの高まる期待
将来展望を描くには、製品に対し価格を決定できる方向に転換を図る必要がある。
震災後、エネルギー分野は、大転換が図られようとしており、配電制御分野に携わる当業界には、それに対応した技術力が求められている。このため、蓄積した技術力を活用し、価格競争から脱皮する好機が到来している。
発電分野では、従来、大規模集中型の電力供給であったが、発電量の30%を占める原発への信頼性が損なわれたことに伴い、新たな供給手段が求められており、今後、再生可能エネルギーを中心に分散型電力供給への移行が加速することが予想される。
これに伴い、品質の確保(電圧、周波数、力率、波形、停電が少ない等)、供給の安定性(出力変動への対応、自然災害時のリスク分散、非常用電源の確保等)、環境への配慮など解決すべき課題が山積している。
従来、電気は、必要な時に必要なだけ利用できることを前提に、CO2削減や省エネが検討されてきたが、再生可能エネルギーの拡大は、上記の通り課題が多く新たな概念で電力供給システムの構築が求められているため、それだけビジネスチャンスも拡大していることを意識し、自社の取り組むべき方向を定めていく必要がある。
また、需要家側でも震災を機に意識改革が進んでいる。今回の震災に伴う計画停電や節電で実際に照明の間引きや消灯を経験し、「これまで過剰に電気を消費していた」ことに気付いた。節電意識の浸透、コストアップや危機時に対する自己防衛の必要性からいかにコストを下げながら安定的に電気を使用できるか、電力消費をコントロールする仕組み作りへの新たな取り組みが始まっている。
特にデマンドレスポンスを活用した制御が注目されており、天気予報に基づく太陽光発電の発電予測や過去の設備の運用実績に基づく使用電力のコントロール、最大使用電力と室内温度のコントロール、ピークカットによる最大電力使用量の抑制などが検討され、急速に普及拡大している。更には、ゼロエネルギービル化への実証実験も始まっており、エネルギーシステムの有効活用に向けて技術開発が急速に進むものと思われる。
以上の通り、発電から消費に至るまで全ての段階で配電制御分野を担う当業界の活躍出来る可能性は大いに高まっている。今後10年間を飛躍の時代にするため、時代のニーズを的確に把握し、独自の技術に磨きをかけ、殻を破る覚悟が求められている。