国民的漫画であるサザエさんに三河屋さんのサブちゃんが、最近はたまーにであるが登場する。サブちゃんが頻繁に登場していたのはそれほど昔のことではない。酒・みそ・醤油などを扱っている三河屋さんのサブちゃんはスクーターに乗ってお得意様を回り、「こんにちは、今日は何かご用はありませんか」と言って注文を受け、それらの品々を配達するご用聞き販売員である。昨今はコンビニの隆盛や街々を走っている宅配業者の陰に隠れてしまって三河屋さんスタイルのご用聞きはあまり見かけられなくなった。それでも日曜の夕方テレビ放映のサザエさんにはたまーに三河屋のサブちゃんが登場しているように、ご用聞き販売は一販売方法として今でも有効な手段ではある。
三河屋さんスタイルのご用聞き販売に代わって各家庭や小事業所を回っているのは各種の宅配業者である。特にどこに行っても目につくのは宅配運送業のドライバーの走り回る姿だ。
しかし宅配運送業の当初の頃は三河屋さんスタイルとはそれほど変わりなかった。運送業の運転手兼販売員が配達区域にある小事業所や商店を顧客にしようとして懸命に売り込み訪問をしていた。必死に顧客開拓した結果が徐々に実を結んだ。今や顧客情報の管理技術の発展に伴い、格段に顧客満足度が上がり、圧倒的な顧客数を創出している。三河屋さん営業が伸びなかったのはご用聞きスタイルのせいではなく、顧客拡大をしなかったからだ。
時代は各種の技術の進歩によって変わる。農業から始まった人の生産活動は産業革命によってエネルギーや物づくりをする工業の時代になり、1980年代頃からポストインダストリー社会や脱工業化社会といった言葉が飛び交った。やがて脱工業化社会とは情報化社会と言われるようになり現在に至っている。
情報化の時代が来たからといって成熟した工業の時代は古くなってしまうものではない。工業が盛んになり工業の時代が来て就労人口も工業に吸い込まれていっても農業は古くなったわけではなく、むしろ工業の技術によって食量生産が著しく増加した。同じように情報化社会時代が本格的になってくれば、情報技術の発展によって運輸・商業・サービス産業の変貌だけでなく、製造業でつくられる製品も変貌するだろうし、製造業の現場の物づくりも情報技術によって製造現場環境が変わり、生産性が著しく上がるだろう。そういった変化に営業は対応していかなくてはならない。
これまでも時代の変化とともにいろいろなやり方が生まれてきた。現在でも有効なご用聞き販売から始まって、業界の成長期には多くの商品が誕生したために起こった商品PR販売、ユーザーの使い方が多様化したために起こったアプリケーション販売、その延長線上でイモのつるを引き上げるとイモが次々と取れるという意味で商品が次々引き上げられるイモづる販売、商品が複雑高度になったため起こったSE販売、成熟期にはユーザー一般に想定される課題を捕捉して、仮説提案販売や課題解決販売が起きている。大競争期に入ってくると商品のQ・C・D及び特徴を強力に押し出し、競合切り替え販売が流行している。情報技術の発展によって情報社会の様相を呈している現在、販売は大競争期の販売から時代に合った販売方法に変わろうとしている。その際に忘れてならないのは、やはり顧客の創出なのだ。
(次回は7月11日付掲載)
【おわび】6月6日付2面「混沌時代の販売情報力」で連載ナンバー「第59回」の表示が欠落していました。おわびします。