現今、国民の電気エネルギーに対する認識の転換期にある中で、電力の安定・安全・高効率供給を担う配電制御システム業界が脚光を浴びている。一方で業界では再生可能エネルギーの推進や、配電盤類の耐震設計、省エネ・節電の技術集積など新たな共通課題も出てきた。こうしたエネルギー転換期に、日本配電制御システム工業会(JSIA)会長という重責に就任した丹羽一郎氏に会見し、どう舵取りを行っていくのか聞いてみた。
-会長就任にあたっての抱負などお聞かせください。
丹羽会長
当工業会に新しい風を吹き込んでいただいた盛田豊一前会長の後任を拝し、責任を痛感している。当工業会は355社という多数の会員で構成されているが、それぞれの企業が独自のノウハウを持ち、優良な顧客を多数持っておられる。また、内需だけでなく海外に事業展開している会社もあり、業態はバラエティに富んでいる。単なる下請け的事業ではなく、日本のものづくりの基礎をなす一つの形であり、その責任は非常に大きい。
-工業会が取り組むべき課題は?
丹羽会長
日本の経済は内需が基本だと考えているが、現状、当工業会にとって厳しい環境であることに間違いはない。しかし日本は人口1億2千万人の大国であり、内需を刺激していかないと経済が躍動し安定感も得られない。これは当工業会会員の一致した意見であり、我々が果たす重要な役割は業界を刺激し活性化することにある。例えば、太陽光発電など再生可能エネルギーや、蓄エネをテーマとした蓄電池などを普及させることにある。さらに省エネ・節電のテーマでは、内需を拡大させる意味でもLED照明の普及や、学校や病院・役所など建物や設備の空調をより省電力化するため、受配電設備の更新などを進めることなどが挙げられる。空調関連は当業界にとって大きな市場であり、受配電設備のスケールダウンを進めることで、省エネ・節電に向けた取り組みが成就できる。
-一方、原子力発電所の操業停止に絡み、関西ではこの夏停電なども予想されますが。
丹羽会長
原発の停止による電力供給不足の懸念は、関西にとどまらず北海道から九州まで全国的な問題で、停電に対する準備も継続して行っており、当業界も大変忙しい状況にある。現在、太陽光発電が注目されているが、こうした発電関連と配電設備をうまく連携させる必要がある。電気は配電盤なしでは送電することができない。我々は、「電気を末端まで安定して供給する」という社会的使命を果たさなくてはならず、このためには漏電や安全対策も含め技術的な対応をしっかりとしなくてはならない。また、最近は地震や津波、台風、竜巻など天災による配電設備の損壊や感電事故も多発しており、こうした災害対策も大きなテーマとなっている。多発している自然災害などを目の当たりにして感じることは、災害に対してのフェイルセーフはもちろんのこと、バックアップに対するバックアップなど、災害に対しては何重もの対策が必要だということである。例えば、高層マンション用の非常電源などは1社1社の対応では無理な面がある。このような災害対策以外にも電気に関わるテーマは山積しており、今後は関係する工業会や団体、官庁、さらに大学や各研究機関などと連携を密にし、対応策を具体化していきたい。
-そのほかに、今後工業会が取り組むべきテーマは?
丹羽会長
前述したような電気に対するテーマの前進・解決を図るため、各工業界や団体などと交流を密にする必要があるが、このために当工業会が果たす重要な役割として、当工業会しか持っていない独自の技術力の供給がある。このことは経済産業省なども大きな期待を寄せている。技術力アップについては、これまで「ものづくり資格制度の技能認定」などを行ってきたが、今後は、日本のものづくり力をアップするためにも、「設計レベルの能力向上」などに積極的に取り組んでいきたい。一方、当工業会は来年(2013年)4月に向け、一般社団法人化を進めている。一般社団法人化することで、各支部の要望をより効率的に吸い上げ工業会の意見として反映させることができ、整合性が図れる。技術的な面も含め皆様から頼られる工業会にしていきたい。
-丹羽会長の健康法や座右の銘は?
丹羽会長
運動はゴルフ程度だが、時間があれば気分転換を兼ねて旅行に行きたい。私の好きな言葉は、「星の王子さま」を書いたフランスの作家で有能な飛行機の操縦士でもあった、サン=テクジュペリの「人生に解決策などない。あるのはただ前進していく力だけだ。その力を創造しなければならない」という言葉だ。飛行機の操縦はあれこれ考えていてもダメで、前に進む気力やエネルギーが重要である。今、電気を取り巻く環境は大きく変化しており、このことは当工業会が力を発揮する大きなチャンスとも言える。こうしたチャンスを的確に捉え、前進していくためにも、工業会が気力・エネルギーを蓄え、発揮していくことが重要であると考えている。