汎用インバーター市場は、国内外の省エネ需要を背景に多少の山谷はあるものの、堅調な推移を見せている。特に中国、インドなどアジアの新興国は経済の活況もあり、依然高い伸びを見せている。製品も使いやすさの向上を基本に、小型化や操作性の向上、用途専用機種の開発などユーザーニーズに対応した製品が各社から発売され、市場に購買意欲をもたらしている。国内では節電・省エネ関連需要での期待、海外では工場での自動化と省エネ化、社会インフラ整備投資による需要増加に期待が高まっている。国内外で経済環境に多少警戒感が感じられるものの、今年後半以降の震災復興需要や欧米経済の上昇が見込まれており、汎用インバーター市場についても先行きの見通しは明るい。
汎用インバーターの市場は、経済産業省の機械統計をベースにまとめた日本電機工業会(JEMA)の生産統計によると、2012年度については、約720億円と前年度横ばいの見通しを立てているものの、汎用インバーター各社の見方は分かれている。この見通しを立てたのが汎用インバーターを取り巻く環境が比較的低迷していた時期の昨年12月頃であったためだ。その後、需要は多少好転しており、実際はもっと伸びるとする見方が広がっている。
●見通しに強弱ばらつき
しかし現状、今年4月以降は需要が伸び悩んでいる。国内では震災復興需要が、人手不足や政策決定の遅れなどから建物や設備などまでまだ波及していないこと、海外では中国の景気減速に加え、欧州経済の不振、円高の影響などが挙げられる。
インバーターメーカー各社の今年度見通しも、横ばいから10%前後アップなど強弱やばらつきがあるものの、基本はプラスを見込んでいる。新興国を中心とした外需を期待する声は高く、特に中国は旺盛な自動車工場建設や、ビル建設で空調関係向けを中心にインバーター需要が伸長し、社会インフラ整備からクレーンやエレベーター向けの需要も堅調だ。これに対して、内需も省エネ、節電などエネルギー政策見直しに伴う汎用インバーター需要への波及を期待する声も強い。
しかし、今後の市場拡大期待は海外、特に、アジア、中東、南米などの新興国での需要だ。地産地消の点から米国、欧州、中国などの3地域で生産を行うメーカーもあるが、いま最も市場拡大が著しいアジア地域、中でも中国、インドで現地生産を行っているメーカーが多い。円高なども加わり、この傾向はさらに強まりそうだ。
●装着率30%まで高まる
モーターへのインバーター装着率は年々上昇し、現在は30%程度にまで高まっていると見られるが、誘導モーター(IM)や同期モーター(PM)にインバーターを装着することで、インバーターが自動的に最大効率運転を行ってくれるという省エネ・省力化などの効果が、徐々に評価・浸透しつつある結果といえる。モーター自体の高効率化も加速しており、特に海外では省エネモーターの使用を義務付けつつある。
IEC60034―30では、モーターの効率クラスが規定され、効率の低い順に、IE1(標準効率)、IE2(高効率)、IE3(プレミアム効率)、IE4(スーパープレミアム効率)となっている。09年度からは、高効率モーターを搭載した空調用機器の送風機およびポンプを公共工事の調達の際にグリーン購入法で指定された。日本は電圧幅や電流サイクルの違いや、特注品モーターの使用比率が海外に比べ高いことなどから、こうした高効率モーターの採用が法的にも遅れている。インバーター化はこうした背景にあって、比較的容易に省エネ化を図れるだけに、装着率がさらに高まることが期待される。
●使い易さと省エネ性向上
最近のインバーターは、性能の向上とともに誰でも扱える操作の簡便性や小型・軽量化、低騒音化、安全性、ネットワーク対応があげられ、使い易さと省エネ性の向上が重視されている。
周波数やパラメーター設定がジョグダイヤル式コントローラーを回すだけでできる機種が一般化しているが、一方でこうした複雑で面倒なパラメーター設定を不要にしようと、ファン、ポンプ、コンベア、昇降機などの用途を選択するだけで、自動的に最適なパラメーターに設定できる製品もある。また、配線を簡単にするための着脱式制御端子台の採用も一般的になっているが、最近はパラメーターバックアップ機能付きの端子台を採用する製品もあり、ユニット交換時に制御配線とパラメーター設定が不要になることで、作業工数が従来品比で約5分の1になるといわれ、メンテナンスの省力化などに大きくつながる。端子台も、日本はねじ式が一般的であったが、最近は欧州方式と言われている圧着端子を使わないスプリング式が増えている。
●良好なトルク特性アピール
インバーター各社とも良好なトルク特性をアピールしており、短時間最大トルクを3・7kW以下で駆動周波数1Hz150%から0・5Hz200%が増えている。短時間過負荷耐量も200%で0・5秒から3秒にアップさせ、過電流トリップになりにくくねばり強い運転を可能にしている。しかし、こうしたなかで過負荷定格を、軽負荷と重負荷に分けることで定格出力電流を調整し、最大適用モーター容量の拡大によるインバーターサイズの小型化を可能にしている。
インバーターとモーターの関係も変化している。インバーターで駆動するモーターも、標準三相モーター、高性能省エネモーター、回転子に強力な磁石を埋め込んだIPMモーターなどがある。特に、永久磁石埋め込み形同期モーター(IPM)や表面永久磁石形同期モーター(SPM)を使った製品が市場に投入されてきており、誘導モーターより7~10%効率が良くなるといわれている。しかし従来、こうした高効率モーターの駆動には専用のアンプが必要であったが、これをインバーターのアンプを使い、誘導モーターと同期モーターのどちらでも駆動できるインバーターが各社から発売され始めた。設定の切り替えで両方のモーターに対応できることで、インバーターが1台で済み、導入にあたっても予算に応じてモーターを段階的に購入していくことも可能になる。チューニングの技術も進んでいる。
省電力率、省電力量、省電力平均値などの省エネ関係の数値が、インバーターの操作パネル上のほか、出力端子やネットワーク経由でも確認でき、省エネの効果が一目瞭然となる。設備メンテナンスの点から、モーター累積運転時間やインバーターの運転・停止などの起動回数を、自動的に積算できる機能を内蔵している。インバーターは、セットメーカーの機械に組み込まれて海外で利用されることも多いが、制御ロジックのシンク/ソースの切り替えができ、グローバル対応が可能な機種も数社から発売されている。
●小型機種の品揃え充実
小型・軽量という面では、盤や機械の省スペース化に対応した小型機種が、各社から豊富にラインアップされている。
シンプル構造の名刺サイズのものもあり、スピードコントローラーの置き換え需要などとしての搬送用途などが増加している。異なる容量でも高さ・寸法を統一することにより、盤内のレイアウトの容易さを図った機種や、取り付け場所に合わせて「サイド・バイ・サイド」で密着して取り付け設置が可能な製品も一般化している。
需要が拡大している空調用途では、不可欠である力率改善DCリアクトルや零相リアクトルと容量性フィルターを1つのユニットにしてフィルターパック化して標準で装備し、配線工数と配線数の削減、省スペース化の実現を図っている機種もある。特に今後の期待市場である海外向けでは、グローバルスタンダードともいえる縦長スリム形状で、保護構造を重視した機種開発を進める傾向が強い。
ユーザープログラム機能を搭載したオプションカードや、簡易PLC機能を内蔵することで、パソコンを使ってインバーターのカスタマイズ化が図れる製品も登場し注目されている。インバーターを含めた、機械・装置の付加価値向上と周辺機器の簡略化にもつながる。
最近は、USBコネクタをインターフェイスに採用したインバーターが増えている。パソコンからインバーターのセットアップソフトウェアを起動させて設定の支援を行ったり、高速グラフ機能によるサンプリング、ユーザープログラムのコピーユニット機能などが活用できる。さらに、ラインシステムなどでベクトルインバーターとシステムコントローラーの演算制御部分を統合化した新コンセプトの商品も登場した。
●部品寿命の長時間化設計
インバーターの長寿命化に向けて、コンデンサーや冷却ファンなどの部品寿命の長時間化設計も進んでいる。特に空調ファン、ポンプなどに使うインバーターは設置するとリニューアルするまでの期間が長く、より一層の長寿命製品を求めている。各メーカーとも主回路のコンデンサー寿命は10年前後を目安にしているが、15年の長寿命をアピールしているメーカーや、インバーター劣化診断システムサービスをビジネスとして展開しているメーカーもある。
セーフティ機能の搭載も大きなセールスポイントになってきている。従来、地絡保護や瞬時停電時の自動再始動などに対して、コンタクターなどを周辺配置して対応するのが一般的であったが、この機能をハードワイヤベースブロック内蔵で、安全規格のEN954―1のカテゴリー3などに対応させた。誤操作などを防ぐためにインバーターにパスワードを設定して、パラメーターの読み出し・書き換えを制限できる製品もある。メーカーが、出荷後の調整をできないようにする狙いもある。
インバーターの効率をさらに高める半導体として、S〓C(炭化ケイ素)の開発が進められている。現在のS〓(シリコン)半導体に比べ電力損失が約70%抑えられると言われている。特定用途などで実用化が進んでおり、今年秋頃には汎用インバーターへ搭載した製品が各社から発売されることが予測されている。
省エネニーズに、高効率モーター規制が加わり、汎用インバーター市場はまだまだ拡大・発展することは確実と言え
る。