中部地区経済の中核を構成する自動車関連産業は、東日本大震災やタイ洪水の影響による減産の挽回に加え、新型車投入効果から生産は急回復している。4月以降は挽回生産が落ち着いているが、先行きとしては、当初計画を上回る見込みだ。
自動車部品も、生産は震災前の水準に戻っており残業も増加している。完成車メーカーの新型車投入効果も好影響で、今後もエコカー補助金復活などにより、好調が継続する見通しだ。
年度後半には復興需要
金属工作機械は、生産は底堅い。
受注は、中国向けは金融引き締めの影響などにより減少、欧州向けは金融不安の影響がみられるが、米国向けは製造業の回復から動きが活発化。国内向けは、震災の復興需要を年度後半に見込んでいる。
サーボモーターは、中国の金融引き締めと大型液晶パネルの供給過剰による投資抑制が主因となり、市況が悪化していたが、スマートフォン・半導体関連の投資が韓国で活発になってきた。レーザ加工機は、このところ台湾、韓国などアジアのスマートフォン関連企業からの案件が増加している。
年中無休でフル稼働
電子部品・デバイスは、メモリがスマートフォン向けは堅調で、年中無休でフル稼働状態にある。ただし、競合企業の量産やコストダウンにより単価が下落している。中小型パネルは、スマートフォン向けが堅調に推移。大型パネルは、地デジ移行後、テレビ需要減により低調であり、テレビ向けからタブレット向けへの転換が進んでいる。
電子回路基板は、スマートフォンやタブレット向けが堅調で、この状況が今後しばらくは続く見込み。コネクタは、スマートフォン向け需要が旺盛で生産は高水準、今後も例年より高い水準で推移する見込みだ。発光ダイオードは、パソコン向けが一時期より回復している。
設備投資については、製造業では、海外現地生産の能力強化投資が目立つ。新規需要の獲得に向け、複数の企業が共同でアジアに進出する例もある。国内は維持更新需要が大半だが、大企業を中心に研究開発拠点化を図る方針。一方、中小企業からは、国内受注の不透明感から先送りするとの声も聞かれる。
しかし、円高の影響で、海外進出を検討せざるを得ない状況にもあり、帝国データバンク名古屋支店の調査によると、2011年度に海外に進出した企業は11・9%で、今後2~3年の間で進出を予定・検討している企業は15・2%と11年度に比べて約1・3倍となっている。進出意向がある企業は、業種別では「製造」が22・0%と最多で、「製造」のなかでも「電気機械製造」42・5%(全国26・8%)、「輸送用機械・器具製造」38・5%(同22・3%)が全国平均を大きく上回っている。
良質で安価な労働力
海外進出を決定するポイントとしては、「良質で安価な労働力の確保」を挙げる企業が多く、海外進出の意向がある企業では「納入先を含む他の日系企業の進出実績がある」が最多となっている。
鉱工業生産の動向を中部経済産業局発表の指数(4月速報)で見ると、輸送機械工業、プラスチック製品工業、一般機械工業などが上昇したことから、前月比1・7%増と5カ月連続の上昇となった。
また、前年同月比は33・6%と5カ月連続の上昇となった。出荷は、輸送機械工業、鉄鋼業、プラスチック製品工業などが上昇したことから、前月比3・4%増と2カ月ぶりの上昇となった。また、前年同月比は38・7%と5カ月連続の上昇。
鉱工業生産指数全体を見ると、リーマンショック直前の水準まで回復しつつあり、中部地区の経済は、緩やかに改善していると言えそうだ。
名古屋港の機能を拡充
個々の企業は海外進出を検討しているが、中部地区の内部プロジェクトとしては、増大する人の交流や高度化する物流に対応するため、この地域における重要な社会基盤である中部国際空港の2本目の滑走路建設、中部圏における産業を支えるとともに、国際競争力の強化策として、北米・欧州へのダイレクトな輸送ネットワークを維持・確保するため、名古屋港飛島埠頭南側コンテナターミナルの機能拡充などが計画されている。
そのほか、リニア中央新幹線、新東名高速道路、新名神高速道路などのビッグプロジェクトも目白押しで、周辺のインフラ整備も含めて経済発展が見込まれる。
また、名古屋市を中心とした半径100キロメートル以内の地域を「グレーター・ナゴヤ」のブランド名で統一して、海外企業を積極的に誘致し、世界有数の産業集積地にすることを目標とした大名古屋経済圏構想や、河村たかし名古屋市長が提唱する新しい自治体を目指す中京都構想などが計画されている。これら大都市制が実現すれば、さらなる発展を遂げていくであろう。