顧客ありきで営業活動しているルート営業の販売員は担当顧客に向かって、何か良い案件はありませんかと聞く。まだ取引のない見込み客と面会する時には、自社の特徴や扱い商品のアピールをしながら何か売れる物はないかと探りを入れる。
良い案件がないか、何か売れる物がないかと探ることが販売員にとって情報収集となっている。
つまり販売員にとって、情報と言えば売り上げを伴う情報のことであると理解している。何か良い情報はないかと尋ねる上司に対して、販売員からは特にありませんという答えが返ってくるのは売り上げになるテーマが情報と思っているからだ。
売り上げ意識の強い販売員にとっては当然のことと思うが、世間一般的に言えば、行動をする上でも利益にならない情報が多く存在する。むしろ利益をもたらさない情報の方が圧倒的に多い。
販売員が活動する顧客の回りにも、利益をもたらさない情報がたくさん存在する。販売員が担当する顧客自体が情報そのものという存在と言ってもいいくらいである。
販売員の意識が情報かどうかを分けているだけなのである。
言い換えれば、販売員の経験やその時の立場で役に立つかどうかの判断をして、役に立つことが情報となっているから、販売員には案件や競合他社品発見が情報ということになる。販売員がまだ新米であった頃を思い出してみると、情報というものがどういうものなのかが分かるだろう。
一人で初めて顧客を訪問した時には、緊張しながら不安で一杯だったはずである。
そんな新米の販売員にとって見る物、聞くもののすべてが知らないことばかりであったから、顧客そのものが情報収集の対象となっていた。
ちょうど世の中のことが何も分からない子供にとって、見る物、聞くものすべてが情報収集の対象となっていたのと同じことである。
それが経験を積んでくると、情報を取捨選択し、実益の上がる情報を情報という形で入手し、自分にとって実益のない情報は見過ごすことに慣れてくる。このことは、販売員にとって特に顕著に表れる。
しかし前述の通り、実益を云々しなければ担当する顧客そのものの存在が情報であり、顧客自体が情報源となるのである。
日本を隆盛に導いてきた製造業は90年バブル崩壊を境にして成熟期に入り、今では競争ばかりが激しい混沌とした時代である。
そしてまた、21世紀に入り、情報化が急速に進んでいる時代でもある。生産現場や設計現場で部品やコンポ営業をしている販売員が、売り上げを追求するあまりに情報というものを競合品発見や扱い商品のテーマ発見にとどめてしまってはいけない時代になっていると言うことである。
そのためには顧客を新たな目で見て、情報を入手しなければならない。
情報化時代の特徴は、まず情報を蓄積することから始まる。競合品発見情報や新しいテーマの情報は成果が出れば消えていく情報がほとんどである。つまり蓄積されないということである。その情報が蓄積されるとしても、せいぜいその商品が使われるアプリケーションくらいのものである。
訪問ごとに蓄積される顧客情報を少しずつ入手しておくことが情報化時代の一端を担うことになる。
なぜなら競争の激しい大競争時代の向こう側には揺籃期を迎えている産業や市場がたくさんありそうだからである。
何が情報的価値があるものなのか、商材を切り口にして情報を得ようとしても、後手に回ってしまうことになる。情報化の時代には、弱少が蓄積されている情報を使って大きく伸びるチャンスなのだ。
(次回は8月22日付掲載)