気候の温暖化などにより、ここ数年落雷が増加している。これに伴い電子機器などへの被害が増えており、雷害対策機器の市場が急速に拡大している。中でも建物の通信設備に電圧異常を起こす誘導雷の被害額は年間1000億円を超えるという。また、再生可能エネルギーとして需要が急拡大している太陽光発電設備や、風力発電設備なども落雷による被害が増加しており、防雷・避雷の対策ニーズが急速に高まっている。一方、気象庁でも落雷による被害軽減のため、詳細な落雷予報である「雷ナウキャスト」の提供を開始している。
近年、気候の温暖化など様々な要因によって全国各地で落雷が増加、停電や火災、さらに家屋や人への被害が増加している。これに加え、コンピュータなど低電力で動作する半導体機器への落雷被害が深刻化している。
民間の研究機関が2005年に行った落雷被害調査によると、落雷により建物の通信設備に電圧異常を起こす誘導雷の被害額は、年間1000億円に上っているという。このうち物的被害が最も多かったのが工場の約343億円、次いで一般住宅約126億円、オフィス約30億円となっており、これだけでも約500億円の被害となっている。
パソコンデータが消失
被害状況をみると、ADSLなどの通信線から雷の高電流(雷サージ)が侵入し、パソコンのデータが消失する被害が目立っていた。工場では生産設備、病院では火災報知機や警報装置の損傷が起きていた。
IT機器をフルに活用した情報化社会の進展で、落雷などによってコンピューターシステムなどが停止すると、企業では生産から開発、営業、管理といったあらゆる部門の活動が停止、麻痺してしまい事業継続計画(BCP)の点からも大きな影響を受ける。同様に、パソコンなどが一般家庭へ普及していることもあり、落雷による被害がさらに拡大することになる。雷害日数と雷被害件数については、一般的に太平洋側では夏に、日本海側は冬に多く発生することが知られているが、雷被害数は雷雨日数や落雷数に関係があると推定できるものの、統計学的に確立されているわけではなく、断定はできていない。
気象庁の気象観測所において雷鳴を聞いた日数をカウントし公表しているが、落雷数は落雷カウンタや落雷位置評定システムなどで計測しているものの、一般には公表はしていない。
雷害対策メーカーの調べによると、雷雨日数と雷被害数の関係は、被害件数はほぼ雷雨日数に比例し、雷雨日数が10日以上になると件数が多くなる傾向にある。さらに、雷雨日数が10日より少ないと、同様に被害件数が減少している。雷被害にあった機材は、04年から08年までの5年間の調査によると、「避雷器を設置していない1号柱のPAS(気中開閉器)」が、全被害39件中32件となっており、PAS近傍への避雷器の設置や、避雷器内蔵型PASの採用が重要であるといえる。
「雷ナウキャスト」提供
気象庁では落雷による被害軽減のため、10年5月から詳細な落雷予報「雷ナウキャスト」の提供を開始している。雷発生の可能性や雷の激しい地域の詳細な分布と、1時間先までの予報を行うもので、雷の活動度を最新の落雷の状況と雨雲の分布により4段階に区分している。
活動度1は「雷可能性あり」で1時間以内に落雷の可能性を示す。活動度2は「雷あり」で、電光が見えたり、雷鳴が聞こえる、あるいは、現在は発雷していないが間もなく落雷する可能性が高いことを示す。活動度3は「やや激しい雷」で落雷があることを、活動度4は「激しい雷」で落雷が多数発生していることを表している。
活動度2~4が予測された場合は、落雷の危険が高いので、建物の中など安全な場所へ速やかに避難することを求めている。避難に時間がかかる場合は、雷注意報や活動度1が予測された段階からの早めの対応をとることを勧めている。
一方、03年に設立された産官学の雷関係者でつくる「雷害リスク低減コンソーシアム」は、雷害リスク低減へ向けた活動を国全体のプロジェクトとして実践している。さらに自治体や市民、企業などに雷の知識を分かりやすく説明する啓発活動を行うとともに、雷害関連ビジネスの交流フォームを作り、新ビジネスモデルの創出を進めている。
雷害対策機器市場は、公共・民間の新築物件への新設分野と、既存物件のメンテナンス需要に大別されるが、機器の設置工事やメンテナンス需要などもあり、これらを加えると製品市場の約2倍から3倍の市場を形成しているとみられる。
落雷による被害の増加は日本に限ったことではなく、世界的にも拡大している。特に、パソコンは高密度かつ小電力の電子精密機器であることから、一般の家電製品と違い、ごく僅かな電流の変化で電気信号が流れ誤作動を起こしたりする。パソコンが故障する原因で落雷によるものが夏季(7~9月)で全体の約40%、年間では約20%を占めている。
落雷時に誘導雷がコンセントなどから侵入した場合、過電流がパソコンの電源ユニットを経由し、CPU、メモリー、さらにモニターやプリンターにまで被害が及ぶ可能性がある。
落雷の被害を避けるためには避雷針を設置するほか、大規模な工場では低圧避雷器の取り付け、建物の外部から内部へ引き込む通信線や信号回路・制御回路用には耐雷機器、過電圧に敏感な機器は耐雷変圧器の取り付けなどの対策が考えられる。
最近、公共建物や高層ビルへの雷害対策機器の設置が進むとともに、地球温暖化対策の一環として、20年までに全国の公立小中学校、約3万2000校で太陽光発電を導入する取り組みが進んでいる。こうした公共施設への太陽光発電システム導入施策は、雷害対策機器市場拡大に大きなインパクトを与えている。
7月からは、余剰電力の買い取り制度がスタートしたこともあり、民間企業や地方自治体が一体となってのメガソーラー発電の取り組みが活発化している。
メガソーラーに限らず、太陽光発電設備は、建築物の屋上や周囲に障害物のない場所に設置される場合が多いことから、直撃雷および誘導雷の影響を受けやすい。パワーコンディショナーや、計測システムなど周辺に機器も多く被害が発生しやすい。
太陽光発電系統電圧は、通常の低圧電源に比べ電圧が高い上に、DC電源であることから雷保護性能に加え、SPD(サージ保護デバイス)動作時の電流対応に、高い安全性・信頼性が求められる。
高い雷サージ処理能力
SPDは、雷サージが発生した時に電子機器の損傷を防止するための保護機器で、心臓部である避雷素子には、酸化亜鉛素子などを使用し、高い雷サージ処理能力と電圧抑制能力を備えている。
雷のエネルギーは通常で使用している電子機器の電圧容量の何倍にもなることから、SPDを各機器や電源などに設置しておき、許容電圧以上の電圧が流れそうになると電圧を制御して、許容量を超えた電圧を接地線から外部へ逃す役割を果たしている。
SPDは消耗品であることから、交換のしやすさ、耐久性への配慮も必要だ。SPDをソケット式にして、交換を簡単にできるようにした製品や、雷サージのカウント機能とSPDの寿命を予知する機能を一体化した電源用SPDも開発されている。現場での判断が難しいとされていたSPDの寿命判定が容易になり、効率の良いメンテナンスと安全性と保守性双方の向上が図れる製品として注目されている。
雷害対策機器メーカー各社では様々な落雷被害を想定し、外部雷保護、内部雷保護、系統安全ごとに雷害対策機器の提供を行っている。
外部雷保護に関しては、直撃雷から太陽光モジュール設備を守るため、太陽光モジュール専用避雷システムなどの保護対策製品の販売と設置工事を推進している。内部雷保護に関しては、太陽光発電システムの直流側設備(接続箱、パワーコンディショナーなど)を、雷の被害から保護する太陽光発電システム用SPDや、信号回線用SPD、太陽光発電装置免雷接続箱、磁気カードに落雷電流を記憶させる雷記憶カード、キュービクル用アレスタ、RS485回線用SPDなどの製品提供を行っている。
系統安全に関しては直流回路の地絡を検出し、極性の判別を高精度・高感度に行う直流地絡継電器、プラグイン式の分離型直流地絡電流継電器、多回路型同継電器、回路ごとの絶縁抵抗値を計測し、同値が低下すると警報で知らせる直流回線別絶縁監視装置、直流漏電警報付き配線用ブレーカ、往復の負荷電流の僅かな差電流を検出する貫通型直流地絡変流器、作業者の安全用に交直両用検電器など、安全な電気の流れを制御・監視、機器を点検する数々の製品提供を行っている。
07年に建築設備設計基準が大幅に改定され、雷害対策機器関連の規制も緩和され、雷保護用SPDについては分電盤などへの取り付け基準が緩められた。避雷器の電源用SPDにおける最大連続使用電圧量が、従来の200Vクラス対応から500Vクラス対応までに拡大、従来250V対応機器を2台使用していたケースでは、500V対応機器1台で対応できるようになり、使用者側のコストダウンにつながる。
工業会中心に普及活動
最近では海外からの輸入品も増加していることもあり、国内では06年に設立された日本雷保護システム工業会(JLPA)など、各種の雷害対策機器関連の工業会が中心となり、機器の普及拡大へ向けPRや啓蒙活動を活発化させており、拡大が予想される市場に対し万全の体制固めを行っている。
雷は、工場や家庭だけでなく、発電所や鉄道などあらゆる場所に落ちる可能性がある。雷の発生は防げないだけに、発生した雷サージをうまく逃したり、逆に避雷針のように雷サージを呼び寄せることで、他の周辺施設への被害を防ぐなど、いろいろな対策が取られている。
雷の発生と雷の規模が大きくなる中で、それから守る領域・機器も拡大しているだけに雷害対策関連機器市場は、今後も拡大基調が継続しそうだ。