モーターメーカー各社が脱レアアースへの取り組みを強めている。レアアースの約90%を産出している中国の採掘規制などもあって、このところ価格の高騰が続いており、特にジスプロシウム(Dy)は中国でしか産出しないことから希少で高騰しており、これに代わる材料の開発を進めている。レアアースはモーターの特性を高めることから、必須の素材とされており、今後モーター需要が電気自動車(EV)や産業機器向けに拡大が見込まれていることから、代替素材の開発でコストアップを抑え、安定的な供給確保に向けた体制を構築していくのが狙い。
モーターの需要はEVや工作機械、鉄道車両など幅広い分野に広がっているが、一方で電気エネルギーの多くがモーターの駆動で消費されていることもあり、国際的にモーター高効率化に向けた開発が進められている。レアアースはモーターの磁石などに用いることで、効率が向上し、電気エネルギーの消費を抑える大きな役目を果たしている。
レアアースは希少金属として産地が中国などに偏っており、その中国が昨年5月から生産・採掘の管理を強化し、海外輸出も規制し始めた。その結果、レアアースの価格の高騰とモーターのコストアップを招いている。
経済産業省でも「レアアース・レアメタル使用量削減・利用部品代替支援事業」として、総額86億円の予算でレアアースなどの削減や代替評価設備に対して補助金を出している。レアアースの中でもモーターの駆動において必要かつ希少性の高いDyについては早急な脱Dy化を進め、特定の国に生産を左右されない製品開発と産業構造への転換を促進し、約2年後には年間100トンのDy削減効果を狙っている。
東芝が新磁石
こうした中で東芝は16日、モーターの実使用温度域100℃以上でも高い磁力を有するDyを一切使用しないモーター用の高鉄濃度サマリウム・コバルト磁石を開発したと発表した。新たに開発した磁石は、現在一般的に採用されている耐熱型ネオジム磁石と同等以上の磁力を持っており、耐熱性が要求される自動車・鉄道車両の駆動モーター、工作機械などの産業用モーターにも採用できる。
新磁石は、ネオジム磁石に比べ磁力が劣るサマリウム・コバルト磁石に、同社独自の熱処理技術を施し、100℃以上のモーターの実使用温度域でも耐熱型ネオジム磁石と同等以上の磁力をもつ高鉄濃度サマリウム・コバルト磁石を作った。磁力を増大させるために鉄の配合量を、重量比で従来の15%から20~25%に増やし、焼結時の温度、時間、圧力の最適化などの熱処理条件を工夫することで、磁力の阻害要因となっていた酸化物や高銅濃度異相を低減した。
同社ではDyを一切使用しない高鉄濃度サマリウム・コバルト磁石を2012年度末までに市場に投入する計画だ。
日立も製品化へ
日立製作所と日立産機システムもレアアースのネオジウムやDyを使用しない11kW高効率永久磁石同期モーターの開発を進めており、14年度に製品化を目指している。
日立のモーターは、鉄心に磁力の低いフェライト磁石を有効活用できるアキシャルギャップモータ構造最適化技術と、アモルファス金属のエネルギー低損失特性を引き出す積層型鉄心構造技術を開発することで、レアアース不要でモーターの効率を高めた。日立は08年にアキシャルギャップモータの基礎技術を開発して150Wの小容量クラスを試作していたが、今回高い強度のモーター構造やエネルギー損失を低減する材料を開発して、さらなる大容量化と高効率化を図った。
安川、三菱も開発
また、安川電機もフェライトマグネット採用したレアアースレスモータや、Dyの使用を削減したモーターの開発を進めている。レアアースレスのモーターは、フェライトマグネットを代替品に使用するとともに、高応答のセンサー機能を内蔵することで、耐環境性、省配線、低コストの実現を目指しており、13年~14年には市場に投入する計画。Dyの使用量削減も、中容量機種では粒界拡散マグネットを採用してDy含有量を5%から2%に減らしていく。
同社ではこうした一方で、中国製マグネットを使うことで中国での生産数量を増やして、競争力を高める。現在、中国のマグネットメーカーと協業しており、中国での生産・販売に限定することでマグネットの特許などの問題に対応する。
三菱もレアアースレスの車載用モーターを開発している。
モーターの高効率規制が世界的に進められている中で、レアアースの代替技術開発はさらに進むものと見られる。