新しい顧客の開拓がむずかしい。顧客開拓で成果が出ない、と販売員の嘆く声が聞こえる。狙いをつけて訪問しても担当の人に会うことはできない。受付のような部署でことわられるケースが多い。どうやれば中に入って、担当の人に会わせてもらえるか分からない。ようやく会社の中に入れて技術系や購買などのようなかかわりのある人に会えても、何かあったら連絡すると言われて退散する場合がほとんどである。また来て下さいとは言ってもらえないと嘆く販売員がほとんどである。ひと昔前なら、販売員に少しの勇気があれば見込み客の門をくぐれた。門をくぐった先には受付があり、現場の技術者が出てきてくれる場面は多かった。
その頃と現在はどこがどう違うのか。ひと言で言うと、販売員と現場技術者の利害が一致しなくなったからである。ひと昔前と言えば成長期は終わって成熟期に入っていた。バブルは崩壊したが、少し落ち着いて冷静さをとり戻した時であった。また再び、バブルのような過熱した成長を期待したわけではなかったが以前のような成長があると思っていた。だから販売員が持参する新商品の中に、成長に必要な新しい発見があるかもしれないと期待する現場技術者が多数いた。それに応えるかのように、それ以前の営業と同じように販売員は扱い商品の他に新商品のアピールを武器に見込み客の門をくぐっていた。その時点でも見込み客の現場技術者と、部品やコンポを扱う販売員の利害は一致していたのである。
しかし利害の一致もそう長く続かなかった。当初はリストラで製造にかかわる人が減少し、余裕のない忙しさが現場技術者側にあった。それでも販売員を迎え入れた。1995年以降になると、GDPの伸びない事情が定着したと同時に販売員側の競争は激しくなった。当然、販売員の開拓訪問は頻繁になり、従来品から新商品への置き換えを結果的にアピールしている活動が強くなっていった。この頃から少しずつ見込み客側は新規の販売員に対する警戒感が強まった。
21世紀を迎える頃になるとIT技術の発展により、技術者の欲しい商品情報はパソコン上で入手するのが当たり前となった。そのため販売員が新商品情報を武器に新規訪問する意義は薄れた。それでも技術者が多少期待しているのは情報時代に現れる目新しい商品である。しかしながら、そういった商品は成長期のように都合よく現れてこない。新商品としてアピールしているのは成熟期らしく、従来品よりやや優れ物ということになる。このため見込み客側にとっては、現状の状態では、とりあえず間に合っているということになる。販売員は相も変わらず従来品より優れているから採用してほしいというトークで迫るのが一般化してしまった。これでは販売員と聞いただけで避けようとするだろう。産業用の商品販売員も一般消費材やサービス販売員と同じく、うるさがられる時代に入っているのだ。
現在の売り方が優れ物という機能重視に置いている限り、見込み客側は快く受け入れてくれない。販売員もそれを感じている。そして、顧客が受け入れてくれる商材が欲しいと、ないものねだりをくり返している。
しかし販売員はどの時代にあっても、まず自分を売って、会社を売って、そして商品を売るという販売の原則から離れてはならない。少なくとも成長期には良い商品をもっているという自分を売ることができた。それが出来にくい現代の情報時代なら、どんな情報をもっている販売員が歓迎されるのかということを考えて勝負しなければならない。
(次回は9月12日付掲載)