混沌時代の販売情報力黒川想介 顧客情報の蓄積から始める

情報の入手には二通りの方法がある。一つ目は単なる見聞きした情報である。二つ目は自分が知りたい事柄を質問して得た情報である。販売員が得意気に話すトピックスは、ほとんどが一つ目の情報である。意図して得る情報というよりは顧客が率先して話してくれた情報だということだ。したがってトピックス的情報というのは顧客の中では既にオープンになっている情報ということであって、新聞や雑誌記者がつかむスクープとは違う。

販売員との打ち合わせの中で、「最近の顧客の状況はどんなものか。何か良い情報はないか、何でもいいから聞かせてほしい」と話しかけても、「当月はあまり良い情報がない」「とりたてて言うようなトピックスはない」という回答が返ってくる。このような販売員の多くは情報収集能力が低いということだけではない。顧客情報というものが何であるかがわかってないのである。おそらく顧客が話してくれた情報の中で、売り上げに絡む案件情報がトピックスであり、良い情報と思っているからなのだ。

顧客情報といってもいくつかの種類がある。大きく分けると二通りに区別される。一つ目は情報そのものが自分にとって利益になる情報であり、二つ目は現在の自分にとって利益にならないと思っている情報である。売り上げに絡む案件情報はトピックスとして報告できる申し分のない一つ目の顧客情報である。しかし今すぐには売り上げに絡まない情報であっても、知りたいと思って質問して得た貴重な顧客情報である。

トピックスや良い情報はなかったと報告している販売員は自分が担当する顧客の実態を知りたいと思っていないために、顧客から何も探ろうとしていないだけなのだ。売り上げに絡む案件情報はなかったとしても、いずれは何かの役に立つかもしれない情報の一つや二つはあって然るべきだ。現代は工業化社会を経て情報化社会に入っている。かつて工業化社会の絶頂期にあった時と比べれば製造業自体の情報化もかなり進んでいる。そのため、製造業はますますきめ細かなものになってくるだろう。工業化社会の中で販売員はオープン情報を追いかけて、力とスピードで競争相手をねじ伏せてきた。情報化社会に入ってくるとますますその力とスピードが優る会社に集約されていくことだろう。情報武装する資金力、製品に関する技術対応力・販売網を持って、多くのメーカーの代理業務をこなす商社やコンビニ的要素を持つ通販大手は情報社会に対応した仕組み作りに長(た)けている。そこには顧客がオープンにしている案件情報が集まってくる。集まった案件情報を有利に決着する力をもっている。これらの力ある商社と五分以上の競争をするには、情報社会とは一体どういう社会なのかを深く理解することと同時に、情報というものは自分達にとってどういうものなのかを見詰め直す必要がある。単純に割り切って情報化社会とは最終的に使用するユーザーの情報が優先される社会とするならば、物づくりの段階で案件としてオープンになる前に最終ユーザー情報が入手できればよいことになる。

しかし、それは簡単なことではない。そこで冒頭に述べた二つ目の情報入手が重要になる。知りたい事柄をこつこつと集めることから始めればいい。案件に絡まずとも顧客の実態をより詳しく質問し把握しつづけることである。見聞き情報で育ち、案件を追いかけてきた販売員が情報化社会で勝つためには顧客情報の蓄積を始めなければならない。顧客情報の蓄積は情報化社会に合ったやり方なのだから。
(次回は10月17日付掲載)

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