2011年、日本のものづくり産業は円高、原料価格の高騰、東日本大震災、欧州債務危機、タイの大洪水など多くの危機に直面した。そして、この危機への対応を懸命に行った結果、直面する危機への対策だけでなく、新たな世界のものづくり産業を取り巻く構造変化への適応をも併せ持つ取り組みになりつつある。
ものづくり産業を取り巻く世界経済状況
2012年の世界経済は、米国景気の本格回復が世界経済をけん引しながらも、新興国の存在感がますます高まり、3%台後半の緩やかな成長が見込まれている。
日本は、長期的にみれば若干ではあるがプラス成長の見込みである。米国は成長を抑制してきた債務調整にめどがつき、景気回復の動きが定着し本格回復が視野に入ってきている。欧州は財政金融危機により、財政と経済成長に影響を与えることになった。中国は成長率の低下が続くものの、600兆円近い経済規模になった今も、なお8~9%の高い成長を続けるため、年々の経済規模の増加分は、GDPが約300兆円にすぎなかった過去の2桁成長していた頃と比べ拡大している。
こうしたことを受けて、世界の経済成長への寄与度を地域別にみると、米国のシェアは2000年代に入り低下し、欧州や日本は存在感を大きく失ったことが分かる(図1)。
対照的に中国のプレゼンスが急速に拡大しているほか、中国以外の新興諸国についても、1980~90年代にかけて累積債務問題や資源価格の下落などで低迷したが、00年代に入ると成長率が高まり世界経済の中でのウエイトが増大している。
米国の個人消費は中国をはじめ新興国の経済成長の源泉であるため、米国はいまだ世界経済の主役の一角を占めているが、近年では中国が世界経済の新たな成長エンジンとなりつつある。
中国・韓国・台湾のものづくり施策
高品質・高機能を掲げ世界一を目指し、80年代90年代を駆け抜けてきた日本の製造業(メーカー)のシェア比率が、ここ10年で大きく変化してきている。
それはアジア各国企業の台頭である。ここで中国・韓国・台湾のものづくり施策を挙げてみる。
●中国のものづくり施策
中国の「電機電子機器」製造業は、「ハイアール」「TCL」「ハイセンス」「美的」など全て民間企業が担っており、主に内需拡大に伴い発展しつつ、グローバル市場においても存在感を示し始めている。これらのメーカーの特徴としては、コア商品は先進国の輸入商品に頼っていたが、現在では最終製品・生産設備も含めて全て部材がMade in CHINAになっている。
●韓国のものづくり施策
韓国の製造業は国内総付加価値の約28%を創出しており、韓国経済全体の牽引役を果たしている。97年の通貨危機を契機に、韓国では政府主導で財閥系製造業再編成(集約)が進められ、「デジタル機器」「半導体」「石油化学」「自動車」「鉄道車両」などの主要分野において、国際競争に耐えうる企業体力を有するグローバルプレーヤーを創出した。メイン産業以外が課題となっていたが、有力メーカーも現れ始めた。国土の狭い韓国では積極的に海外市場に目を向けているため、海外で通用する企業レベルへと成長している。
●台湾のものづくり施策
輸出立国として経済成長を続けてきた台湾は、電気電子製品分野におけるOEM・ODM拠点としての発展を続けてきた。主要製造業は「電子部品製造業」「コンピュータ・電子産業及び光学製品業」「化学工業」「民生工業」の4分野である。外資のOEM先に留まらず、独自ブランドでの販売を強化する企業も現れはじめている(図2)。
グローバルで見る日本メーカーの強さと課題
最先端部品/機器開発の分野での日本メーカーの技術的な優位性は揺らいではいない。第2次世界大戦後の日本の製造業は、当時エレクトロニクスで最先端を走っていた米国などの技術を学ぶところからスタートし、さらに完成品メーカーと部品メーカーとの擦り合わせを通じた最先端技術開発により、世界最大の製造業大国となった。
80年代以降の民生用エレクトロニクス市場では日本の完成品メーカーが要求する世界で最先端の部品スペックに対し、日本の機器メーカーが最先端の技術・製品を供給するという構図が続いた。
米アップルのiPhoneに使用される電子部品の多くが日本メーカー製である。アップルが今年公表した自社製品のサプライヤーリストでは、欧米系や台湾・韓国系デバイスメーカーなどが目立っているが、アップル製品に間接的に部品を供給する2次以下の電子部品サプライヤーは、日本企業がかなりの比率を占める。
あまり表には出てこない操作用スイッチや内部接続コネクタ、カメラモジュール用アクチュエータなどは、日本メーカー製部品の搭載率がほぼ100%に達している。
さらに、新しい先端分野を切り開く能力では日本企業には一日の長があり、また、環境・エネルギー関連、スマートグリッド関連、メディカル機器関連、防衛関連といった高い信頼性が求められる分野は、先進的な技術を持つ日本企業の活躍の場を広げる市場として期待されている。
しかしながら懸念もある。
現在、世界の製造業界は大きな変革期にあり、世界的な完成品企業のファブレス化や水平分業化、サプライチェーンの国際分散化、EMS/ODM企業の巨大化、新興国部品企業の技術力向上と巨大化という流れが起こっており、こうしたスケールメリットを生かした汎用部品の大量生産技術では、OEM製造分野で活躍してきた台湾企業の牙城を日本メーカーが崩すのは極めて難しく、今後の大きな課題となる。
Made in EUROPEという考え
電子部品や制御部品ではコスト競争力が高く、品質の向上も著しい台湾、韓国、中国などからの調達を増やす傾向が強まっている。こういった流れは日本を含めたアジアだけのものではなく、EU諸国でも見られる。例えば高いレベルの先端技術を有するドイツの部品/機器メーカーは、国内ではハイテク技術を要する部品や医療用製品などに特化した生産や研究開発に重点を置き、1製品あたりの生産数量も小ロットから対応する多品種・少量・高付加価値対応をメーンに展開している多くの企業が、国内にものづくりを残している。逆に東欧や南欧地域の新興国では自動車や家電などで使われる量産部品を中心に製造して棲み分けている。
つまり一口にドイツ製品といっても、今やその中身は「Made in GERMANY」ではなく、ドイツ以外のヨーロッパ諸国で生産されたものが増えているのが実情だ。東欧・南欧の新興国で生産された部品が、既に自動車や家電製品などで当たり前のように採用されており、「Made in EUROPE」といったフレーズも出てきている。
自動車業界へのアジア部品
現在、自動車業界を先頭に国内生産する製品でアジアの海外部品を採用するケースが増えている。日系大手自動車メーカーなどでは、主要取引先に中国の部品大手メーカーが加入するなどの方策が取られており、円高の影響を受けやすい中、安価で品質の良い海外製部品の採用を増やし、為替変動にも左右されにくい体制を築くことで、収益力向上と国産製品の競争力強化につなげている。
また、自動車業界ではタイなどから完成車を輸入販売するメーカーが出始め、さらに国内生産品の自動車部品のグローバル市場対調達比率を2~3年後には最大40%に引き上げる大手自動車メーカーも出てきている。これは生産コスト削減のために、中国を中心にした海外生産に踏み込むというファーストステップから、現地調達を進め、アジアの部品サプライヤーを起用するようになった形である。
この考え方そのものは従来から言われてきているが、一方で海外製品に対する品質や供給不安なども懸念されて主流の考えにはなってこなかった。しかしながら、アジア地域への先進国からのEMSや企業進出などにより生産技術が飛躍的に向上し、日本品質のこだわりや信頼を担保したアジア企業が出てきたことで、この考えは払拭されつつある。
現在では、その海外拠点において、生産設備の現地化、さらには生産設備を組み立てる部品の現地化により生産コストの低減に取り組むステージに入った日系企業も多い。
例えば中国に生産拠点を持つメーカーでいえば「Made in CHINA」を深化させていくことでコスト競争力を担保し、巨大市場となった中国市場に対応していく図式といえる。
しかし、日本の部品/機器メーカーが強みを発揮できるのはアジア各国の企業には真似の出来ない技術をベースにした高付加価値な製品、コスト競争にならない多品種少量の製品となっていく形態として、Made in CHINAの深化とは若干つながりに欠けるだろう。
つまり、ここで必要なのは前述したドイツと東欧・南欧との関係が、将来の日本とアジア各国の関係なのかもしれない。海外生産で蓄積した低コスト生産、現地調達のサプライヤーを日本にフィードバックする、言い換えると、量産部品はアジアメーカーに任せ、日本は付加価値の高い製品を日本で生産する、といったMade in EUROPEと同じ図式、いわば「Made in ASIA」といった考え方で、実際そういった見地も出てきている。
様々な市場がグローバル化し続ける中、急激なスピードで展開する市場で「Made in ASIA」といったグローバルな見地での対策は、生き抜くための唯一の方策かもしれない。
日本のものづくりにとって、円高に対応しながら競争力を強化していくことは喫緊の重要課題である。その有効な手段の一つとなるアジアからの海外製部品の調達拡大の動きが今後さらに広がるのは確実といえる。
問題は、アジア地域を中心とした海外から調達した部品・材料に、日本独自の生産技術を付加した生産設備を日本で作っていくことで、日本とアジアの技術・部品が融合した「Made in ASIA」ともいうべき新たな境地開拓につながってくる。
このことは日本国内の雇用維持と産業空洞化の防止にもつながり、日本への生産回帰への道筋も見えてくる。
◇
*本内容は、ミスミ・FA用エレクトロニクス増刊号〈アジア優良メーカー特集〉小冊子にも掲載しています。