年齢を重ねれば重ねるほど頑固になると言われている。新たに経験していくことが少なくなっていくから当然のことと言えるかもしれない。それまで経験したことの中で慣れ親しんだものに固執してしまうからだ。販売員の営業スタイルは一度、固まってしまうと容易に変わらない。販売員が営業に出始めたばかりの時は必死に顧客を見て、顧客の言っていることを一生懸命に理解しようとする。そして顧客の意に沿うように一生懸命に活動する。慣れてくると顧客が少しずつ見えてくる。自分達の売ってる商品のこともわかってくる。そこで一息つく。これが大半の販売員の通る道である。そこからが販売員の勝負が始まるのだ。
一般的には先輩達の行っている営業スタイルが販売員のモデルになる。個人の気質や機転の差はあるものの、営業のやり方は似てくるものだ。時代や業界によって、それぞれの会社の戦略は違っても営業のやり方は似てくる。
90年のバブル崩壊の前後から、日本の社会も電気部品制御機器業界も成熟期を迎え、以来成熟期が長く続いている。競争は激しくなったものの、成熟期の営業のやり方が長いこと続いたため一見違ったことをやっているつもりでも、緊張感のない繰り返しである。何か突発的なことが起きなければ毎日の仕事はパターン化し、顧客の訪問先は変わらず、訪問路もパターン化する。このような状態が見えたら、いくら企画を練っても販売員は自分のやり方に埋没する。打った施策はプラスに利かない。結果的には過去の実績に応じた成果となる。営業が固定化しないようにするには新しい経験が必要なのであって、知識を詰め込むことではない。商品知識を増やしても、知識が増えた分、多少は顧客に説明する時間が延びるくらいのものである。
販売員が新しい経験をするための基本動作は常に新しい人に会い続けることなのだが、販売員が新人からはい上がってきて、先輩と同じようなことができるようになると、ある時から新しい経験にチャレンジすることから遠ざかってしまう。そして自分流の経験をどんどん研ぎ澄ましていき、顧客対応力は抜群にうまくなっていく。このやり方は優秀な販売員と言われている人に多く、同じような成功体験を多く持っているので、営業スタイルは頑固なまでに確立してしまう。顧客対応力抜群のスタイルは市場が拡大している時のスタイルである。市場が拡大すれば担当している顧客も拡大する。多くの商品知識や関連知識が増えれば売り上げも上がった時代であった。そのような成長安定期に、営業スタイルが固定してしまったことに気づかず、成熟期を通過しようとしている。
現在は成熟期を抜けようとしてもがいている混沌期である。IT技術による情報社会の出現や産業のグローバル化による国内製造業の空洞化現象のことを、販売員は自分達の現場やメディアを通して知っている。しかしそのような変化をまるで横目で見るように、いつものやり方で、多少商品を替えながら過ごしている。
成熟安定期が長く続いたため工業化時代の成功の体験がくずせないのである。機能が良ければ良いほど、安ければ安いほど良い商品であるという、工業化時代の感覚から抜け出して、最終的に使用する人が良い商品と評価するのが一番良い商品であるという感覚が情報時代のものなのだが。
(次回は11月28日付掲載)