産業分野でもLED照明の市場が急速に拡大している。LED照明は高輝度で信頼性が高く、かつ長寿命という特徴を持つ。家庭用から産業用まで幅広い分野に採用され、今や照明器具の主流になりつつある。産業分野では、調光制御が可能なことから、工場やオフィスの照明用として採用が拡大しているほか、メンテナンスフリーで薄型化を図ったことで、装置や機械の内部用照明としての需要も急速に拡大している。さらに、植物育成分野や医療施設などの分野でも採用が進んでいる。今後は、発光効率と節電効果のアップ、製品の価格ダウン、制御機能のアップなどが進むものと予想され、LED照明市場のさらなる活性化と飛躍が期待できる。LED照明は、発光ダイオード(LED=Light Emitting Diode)を使用した照明器具。1990年代に青色LEDが開発されて以降、白色光照明も可能となり、現在では家庭用から産業用まで幅広い分野で使用されている。
LEDは、順方向に電圧を加えた際に発光する半導体素子を用いたpn接合と呼ばれる構造になっている。発光原理はエレクトロルミネッセンス(EL)効果を利用しており、有機エレクトロルミネッセンス(有機EL)も分類上はLEDに含まれる。素子の中で電子の持つエネルギーを直接、光エネルギーに変換することで発光する。
発光は熱や運動の介在を必要とせず、放出される光の波長は材料のバンドギャップ(禁制帯幅)によって決められる。基本的に単一色で自由度が低いが、青色または紫外線を発するLEDの表面に蛍光塗料を塗布することで、白色や電球色など様々な中間色のLEDが製造される。
LED照明は、蛍光灯や白熱電球など従来の照明器具と比較すると、高輝度、長寿命・高信頼性、低消費電力・低発熱性、耐衝撃性、小型・点光源、高速応答性、環境に優しいなどの特徴を持つ。
高輝度については、産業用の最新製品では、独自の高出力デバイスと光学技術、さらにマイクロアロイレンズの採用などにより、輝度で2100ルクス、光束で1万5700〓という明るさを実現している。
◆照度70%期で6万時間
長寿命に関しては現在、LEDの想定寿命は照度70%期において6万時間とされており、非常に寿命が長い。これにより、一度設置すれば電球交換など保守の手間が省け、部品や器具の購入コストが削減できる。こうした高輝度と長寿命という特徴により、高い信頼性を得ている。
低消費電力・低発熱性では、供給される電力の多くが発光に使われ発光効率が高く、従来の白熱照明と同じ明るさを出すのに必要な電力が少なくて済む。熱となって失われる電力が少なくて済み、低発熱の照明器具となる。
工場用の天井照明では、従来の水銀灯に比べ、使用電力で約60%削減でき、高い省エネルギー性を実現している。加えて調光機能を取り付けたタイプでは、さらなる省エネが可能である。
日本電球工業会の調査によると、国内の家庭用及び業務用で使う電力の中で、一般照明用電力が占める割合は全体の約15%と推定され、この電力を発電する際に排出されるCO〓の量は、全排出量の約4%に相当すると推定している。
◆使用電力は白熱電球の1/8
LED照明の使用電力は、蛍光灯の約2分の1、白熱電球の約8分の1なので、LED照明に切り替えることで国内電力が7・5%削減、CO〓の全排出量が2%削減できるとしており、CO〓とともに経費削減にも大きな役割を果たしている。
耐衝撃性では、真空管やフィラメントを必要としない構造なので、衝撃に対し比較的強く作れる。小型・点光源では、ほぼ点光源であり発光部が小さいことから、設置空間が小さくでき、デザイン上も利点がある。
高速応答性では、熱慣性がほとんどないLED照明は、供給電源が断続すればそれに応じ高速で明滅する。
環境面では、有害な水銀を使用しておらず、赤外線を出さないことで熱を外に伝えない。また、紫外線を出さないので虫が寄ってこないなどの利点がある。
価格面はこれまで、白色高輝度LEDの製造には、高価な半導体製造装置と高度な技術が必要とされ、LED照明の生産・販売数が少ないこともあり、量産ができず高価格となっていたが、ここ数年普及が進むにつれ、メーカー側でも量産が可能となり、年々リーズナブルな価格になっている。産業用LED照明でも低価格化が進み、最近発売されたタイプでは従来品比35%の価格ダウンを実現している。
一方、従来の白熱電球は、世界的に環境対策や省エネルギー政策の観点から使用中止が求められる傾向にあり、国内では環境省と経済産業省が12年までに白熱電球の製造と販売の中止を業界に求めており、将来的にはほぼ廃絶される方向である。
◆20年には4600億円規模
LED照明の国内市場規模は、11年は震災後の節電対策として需要が急増し、2212億円(前年比255・7%)と大幅に増加した。12年は3738億円(同168・9%)、20年には約4600億円に達するものと予想され、全照明器具に占めるLED照明の比率では11年25%となっており、12年38%、20年には58%と半数以上に達すると予測されている(富士経済調べ)。
一方、LED照明機器の世界市場規模は、11年で約273億ドル(約2・2兆円)と推定される。地域別では北米市場約64億ドル、EU市場約60億ドル、中国市場約44億ドル、インド市場約12億ドルと推定されている(分析工房調べ)。
中国でもLED照明機器の市場が急速に拡大しているが、LEDパッケージ製造ラインでの過剰な投資などでLEDの単価が下落、照明機器の単価も年に30%から40%程度下落している。また、韓国では「15/30プロジェクト」という15年までに全照明の30%をLED照明に切り替える計画を進めている。
こうしたことから世界市場の予測では、16年には照明のLED化や白熱電球の廃止により、現在の約3倍の約860億ドル(約7兆円)に成長すると予測され、地域別では北米市場約170億ドル、EU市場約140億ドル、中国市場約170億ドル、インド市場約40億ドルになると予測されている。
◆16年には世界市場の60%に
また、世界全体で全照明市場に対するLED照明機器の割合は、11年が27%であるのに対し、16年には約60%に達すると予測されている。
LED照明の市場の動きとして、LED照明が登場する以前は、照明の製品技術や市場に大きな変化がなく、いくつかの照明メーカーが分野ごとに棲み分けされた安定市場であったが、LED照明の登場により、産業構造が変化している。
LEDは半導体を使用していることから、半導体メーカーが新規に参入したり、これまで照明に関係のなかったメーカーが、LEDをアッセンブリするなどし、LED照明の生産・販売を開始している。
産業分野の動向では、LED照明を導入することで調光などの制御が可能となるほか、薄型化を図ることで装置や機械の内部用の照明として機能できるようになり、こうしたことでFA分野での需要が急拡大している。
特に、産業用LED照明事業に参入している制御機器メーカーでは、高輝度LEDデバイスとレンズの採用、さらにリフレクタによる光学設計と、高効率な電源設計により高輝度で省エネルギー、長寿命、省スペース、メンテナンスフリーが特徴の各種産業用LED照明を展開している。
産業用のLED照明は、オフィスや工場、店舗用の天井照明に採用されているほか、〓40度の環境でも即時フル点灯が可能なタイプもあり、低温倉庫などの低温場所用照明として使用されている。さらに水や油、切削くずが飛び交う工作機械や食品加工機械・設備など、厳しい環境下の機械内部照明や、設備用照明などの分野でも需要が伸長している。
こうした厳しい環境下で使用する産業用LED照明は、保護特性IP66G、IP67G、IP69Kという高い保護特性を保持しており、防水・防塵・耐油・高耐食性を備えた高機能な産業用LED照明として機能している。
また、小型・薄型で軽量ということから、携帯用として、制御盤や配電盤用の中を照らす照明として重宝がられている。あるタイプは照明器具の裏側に磁石を取り付け、作業員が見たい場所に磁石で貼り付けることで、手が自由になり、作業員の作業性がアップしている。
このほか、蛍光灯のようなチラつきがなく、検査対象物に均一の光が照射でき、凹凸など傷のコントラストを作ることで、より確実な目視検査をサポートする検査用LED照明や、塗装工場など水素やアセチレンガスを含むゾーン1/2の危険場所で使用可能な、耐圧防爆構造LED照明なども着実にシェアを伸ばしている。
様々な検査を実現するために、豊富な形状・色のLED照明をラインアップした画像処理用LED照明の分野では、LED照明のほかに、照明用電源やセンシング照明、フィードバック電源、照明モニタリングセンサ、各種オプションやアクセサリ類まで幅広くラインアップし、ユーザーの要望に応えている。
産業用以外では、消費燃料が軽減できるイカ漁などの集魚灯分野や、最近話題になっている植物工場など室内での植物育成分野などがある。特に、植物の育成にはLEDの単波長特性が適しているとされており、今後の市場拡大が期待できる。
さらに、紫外線や赤外線による劣化を避けたい美術品や伝統工芸品などの展示用途のほか、LED照明はノイズを放射しないので医療施設や半導体工場向け、歯科治療用光硬化樹脂の照射光源、商業施設などで映像表示を兼ねた映像ライティングなど、今後、様々な分野での需要拡大が期待される。
◆表現力も大幅にアップ
開発の分野では、小型でさらなる表現力が求められるモバイル機器やアミューズメント機器向けに、高輝度とともに、表現力のアップに欠かせない高混色性を実現した、業界最小のリフレクタ付き3色発光チップLEDなどが開発されている。
同チップLEDの開発により、超精細でありながら、高輝度でのLEDマトリクス生成を可能としており、モバイル機器やアミューズメント機器などでの表現力が大幅にアップされるものとして期待されている。
今後の市場の動向としては、発光効率のさらなる改善などにより節電効果のアップ、チップ増産による製品の価格ダウン、制御機能のアップなどが挙げられる。このような魅力のあるLED照明を開発・提案していくことにより、LED照明市場はさらなる活性化と飛躍が期待できる。