各種機械や装置のインターフェイス部を担う操作用スイッチは、機器への入力機器として重要な役割を果たしており、あらゆる分野で使用されている。用途に応じて、操作方法、形状など各種そろっている。全体的に機器のコンパクト化に伴う小型・薄型・短胴化が進み、安全機能、保護構造、デザイン性、国際規格への対応などが図られている。今後も、電気が使用されるあらゆる機器で必須であることから、安定した市場が見込まれる。上期は2桁近い伸び
操作用スイッチの市場は、日本電気制御機器工業会(NECA)の出荷統計によると、2011年度は349億円(昨年対比2・2%減)となっている。12年度の上期は、自動車関連などが好調だったことから、前期比9・8%増の190億円と2桁近い伸びを示した。ただ、下期はアジア向け、特に中国向けの動向が大きく左右しそうだ。
主要市場の一つである半導体・液晶製造装置関連が停滞する中にあって、スマートフォンや有機EL関連の好調維持、省エネ、復興関連での旺盛な投資などを追い風にして、堅調な拡大基調を維持していると言える。
産業機器向けに加え、情報機器やモバイル機器分野、セキュリティ分野、アミューズメントなどの分野でも着実な動きを見せて、さらには社会インフラ絡みの電力設備関連や再生可能エネルギー関連、鉄道車両関連での需要が拡大している。
■再生可能エネ分野に期待
発電関連では、原子力発電所に代わる火力発電所の新設、発電設備全体での更新需要、さらには再生可能エネルギーの太陽光発電や風力発電でのスイッチ需要に大きな期待がかかる。特に最近ではメガソーラー発電の建設が活発で、制御機器全体の需要が伸長している。
先日発生した、中央高速道路の笹子トンネルでの天井落下事故に見られるように、日本全体の社会インフラが新設中心に展開され、補修やメンテナンスへの投資が疎かになっていたことは否めない。今後は、新設だけでなく、補修などメンテナンス需要が大きく増加することが予想され、操作用スイッチ市場にも大きな波及効果が期待されている。
■付加価値高めた拡販活動
鉄道関連も環境への負荷が少ないことから世界的に投資が拡大している。鉄道車両の運転席周辺やドア、座席などに高機能の操作用スイッチが多数採用されているほか、運行システム、自動販売機、自動改札機、ホームドアなど多岐にわたって使用されている。
こうした社会インフラ関連に採用される操作用スイッチは、安全性や確実性、耐環境性などが強く求められることから、スイッチメーカーでは技術力を発揮するとともに、付加価値を高めた拡販活動を行っている。
そのほか、高齢化社会に対応した福祉機器向けやセキュリティ用途、「省エネ・創エネ・蓄エネ」の観点から、BEMSやMEMS、HEMSなど各種エネルギーマネジメントシステム関連でも、大きな市場を形成するようになっている。操作用スイッチは、こうしたシステムを支える重要なインターフェイス機器として、今後の需要増が期待される。高輝度・長寿命化が進展
操作用スイッチは、使用環境や操作頻度、取り付けスペースなどを基準に選択されるが、最近では小型・薄型・短胴化、デザイン性、安全性、信頼性、保護構造の向上などが進むとともに、グローバル市場に対応するため、国際規格に準拠した製品が増えている。さらに、照光式スイッチではLEDやEL採用による高輝度・長寿命化などが進んでいる。
操作用スイッチは、押しボタン、照光式押しボタン、セレクト、カム、ロータリー、トグル、デジタル、DIP、シーソー、多方向、タクティル、スライドなどのほかに、各種の高機能スイッチやフットスイッチ、マットスイッチなど多種多様である。
■低消費電力が魅力
照光式押しボタンスイッチは、表示灯を兼備したスイッチで視認性と省スペース性が特徴である。光源はLED化により、高輝度、長寿命、低消費電力などの性能が格段に進歩した。特に低消費電力は大きな魅力で、装置全体でスイッチを多数使用する場合、メリットも大きくなる。さらに、光源や表示素子に液晶や有機ELを採用したタイプは、多彩な表現力を実現しており普及が進んでいる。
デザイン性や機能性をアップしたタイプでは、ベゼル高さが2ミリという薄さと機能性を兼ね備えたスイッチが浸透している。パネル全体がシャープで引き締まったデザインになるほか、凸凹の少ない操作パネル面は、食品機械や半導体製造装置で求められるゴミや埃の付着を防いだり、パネル面の突起に当たることで生じる誤動作などを防ぐ利点がある。
タクティルスイッチはプリント基板に直付けし、シートキーボードスイッチやパネルスイッチなどと組み合わせて使用することが多く、特に携帯電話の多機能化に伴い、需要が拡大している。低背化、インチピッチを採用した端子が特徴で、丸洗い可能な密閉構造や照光タイプなどもあり、確実な操作感が得られる。
■SMT対応タイプが浸透
DIPスイッチやデジタルスイッチは、OA・情報・通信機器などで多く使用されている。特に操作頻度があまり多くない用途で採用されており、SMTに対応したタイプが浸透している。
DIPスイッチは、一般的に一度設定するとその後はあまり操作しないことから、接触信頼性がポイントとなる。各メーカーでは、ナイフエッジ構造など独自の接触方式を開発し、フラックスなどの浸入による接触不良の解消を図るとともに、プリント基板などへの実装後の洗浄もシールテープなしで可能にしている。環境問題への対応もあり、環境負荷の少ない材質の採用なども進んでいる。
シーソースイッチは、電源のON―OFFなどに良く使われる最も一般的なスイッチ。比較的大電流の入り切りを行うため、操作時の突入電流による接点やハウジング対策が重要となっている。機器の小型化が進む中で、シーソースイッチの小型化も年々進んでいる。同時に屋外や環境の悪いところでの使用に対応して、防塵・防水対策を施した製品も増えている。シートスイッチやパネルスイッチは、パネルデザインの自由度が高く、耐環境性も良いため、悪環境下の生産現場から携帯用の民生機器まで幅広い市場を形成している。
耐環境性の面では、トグルスイッチがIP67相当の保護構造を実現している。操作レバーを全面照光式にした製品もあり、暗い場所でもON・OFFが操作レバーの位置で確認できる。一部のトグルスイッチやスライドスイッチは、スナップアクション方式を採用。クイックな動作で出力の安定を図り、接触信頼性を高めると同時に長寿命化を実現している。
多方向スイッチは、1本のレバーで多くの開閉が可能で、細かな操作を行う用途に最適である。
カムスイッチは、多くの回路とノッチが得られるため、複雑な開閉などに対応できる。用途によって操作開閉頻度に大きな差があるため、接触信頼性の確保が最優先で求められている。
鉄道車両分野では、密閉構造のユニットを用いた高接触信頼性の運転台選択スイッチや、方向切替スイッチ、絶縁耐圧スイッチ、制御回路開放スイッチなどがあり、需要が拡大している。
■医療/食品分野でも採用
さらに、IP28相当など防浸・防水性能が高いフットスイッチは、医療分野、食品分野で採用が急拡大している。フットスイッチは安全性がさらに重要視されており、3ポジションタイプのほか、安全ロックレバーを搭載したタイプや、ペダルの高さを低くしたタイプなども注目されている。
今後普及が期待されるスイッチとして、AC(交流)/DC(直流)共用スイッチがある。DC100Vといった高容量でも使用できることから、普及が進む電気自動車などDC電源用途での市場開拓が見込まれている。さらに、発電機能を内蔵し、配線レス・バッテリーレスで使用できる操作用スイッチも注目されている。送信器と受信器で構成し、送信器からの押しボタン操作で内蔵の小型発電機が電気を発生して動作信号を受信器に送ることができる。制御盤内などに受信器別に設置しておくことで、機器の開閉や照明の点滅などの制御が行える。発信器の操作部と制御盤間はワイヤレスで使用でき、配線の手間も省ける。こうしたワイヤレス、電源レスの操作用スイッチのアプリケーションは産業用途だけでなく、家庭など社会生活全般でも志向されており、今後の動向が注目される技術のひとつと言える。
このほかにも、産業機器から家電製品まで幅広く対応する微小接点間隔のマイクロスイッチや、製造現場の厳しい使用環境に対応するリミットスイッチ、進化するカーコンセプトに対応する車載用スイッチなど、操作用スイッチの製品群の幅は広く、今後も各種機器のインターフェイスを支える付加価値の高い機器として、ますます重要性が高まることが予想される。
電気を使用しない機器がほとんどない時代であるだけに、電気のあるところにスイッチありで、今後も操作用スイッチの市場は安定した成長が見込まれる。