1990年代にPLCとPC間の通信手段として使用されていた産業用イーサネットが十数年の歳月により適用範囲を大幅に拡大している。製造現場における大容量・リアルタイム応答の要求に応えるべく、従来のPC⇔PLC間通信のみならず、PLC間通信、I/O制御通信、インバーターやフィールド機器の制御通信、加えて近年は安全制御通信やモーション制御通信まで、ほとんど全ての制御通信をカバーしてイーサネットの存在意義を非常な勢いで強めている。今回は産業用イーサネットの市場動向と今後の方向性について紹介したい。
数多くのメーカー、団体から産業用イーサネットが数多くリリースされている。どのネットワークもユーザーの利便性の向上と高速大容量データの転送ができるすぐれたものばかりだ。それゆえユーザー側としては選択の幅が広く、どのネットワークを採用すれば良いのか判断に迷うことであろう。選択のポイントはユーザーごとに色々あると思うが、共通項目としては以下が考えられる。
1.使用される地域でどのくらいポピュラーであるか
2.自社装置に適した性能を持っているか
3.対応製品がどのくらい供給されているか
4.将来性があるか
図1はワールドワイドでの各イーサネットプロトコル別出荷実績と予測データである。これによるとEtherNet/IPが出荷実績及び予測とも最も多く、次いでPROFINET、Modbus/TCPの順である。この結果を見ると、対応できる範囲(アプリケーション)の広いプロトコルがやはりトータルとして出荷数を伸ばしている。例えばモーション制御に特化したネットワークは、出荷ノード数という切り口で見ると、どうしても出荷ノードとしては少なくなってしまう。
また、EtherNet/IPとPROFINETの出荷数の多さに関しては、サポートしているメインベンダーの企業規模も関係してくる。米国でシェアの高いロックウェル・オートメーション社と欧州でシェアの高いシーメンス社が採用しているネットワークであるため、自ずと出荷数も多くなる。
安全ネットワークとしてのイーサネットの採用についても同様の傾向がでている。(図2)
CIP SafetyとしてDeviceNetですでに実績のあったEtherNet/IP Safetyが導入数としては最も多く、次いでPROFIBUSが多いがこれはイーサネットではないため、イーサネットベースでの安全ネットワークはEtherNet/IPのみが突出して導入されている。
産業用イーサネットの今後の方向性は、これまでの複数ネットワークによる制御環境からイーサネットによる一元化したフラットなネットワーク構造への移行が始まっている。
主な産業用イーサネットプロトコルは、ディスクリート制御、プロセス制御、安全制御、モーション制御全てを1つのイーサネットで実現可能もしくは実現に向けて計画中である。
これによりユーザーは習得するネットワークが1つで済むため、トラブルシューティングが容易になりダウンタイムの削減が見込まれるだけでなく、システムの一元管理、リアルタイムでの情報系システムとのデータのシェアが可能になる。またケーブル・コネクタなど物理メディアも入手が容易であることで、予備品の削減にも貢献する。
ワイヤレスネットワークシステムへの適応も容易であり、将来のシステム変更・拡張に柔軟に対応可能なことから、ユーザーの利便性は高いと思われる。
今後の拡張機能としては、エネルギー管理プロトコルの実装が近い将来行われる。
一部プロトコルではすでに仕様書が公開され、製品開発に着手しているものもある。
例としてEtherNet/IPに実装される機能を紹介すると、
1.EtherNet/IP上の新しい拡張機能として実装される
(DeviceNet、ControlNetには実装されない)(図3)
2.電気エネルギーだけでなくガス・蒸気などの非電気エネルギーの管理も対象
―まずは電力消費モニタリング機能から実製品に実装予定
―将来的にはスマートグリッド網への接続も計画
3.プラント全体のエネルギー消費を“部分最適"ではなく、“全体最適“として管理するための機能であり、一言でわかりやすく言ってしまうと「工場のエコ」化のための機能
最後に、製造現場のイーサネット化、Windows Serverの使用に伴いマルウィルスによる被害など製造現場へのセキュリティ対策が急務となっている。
ユーザーはシステム構築の際、適切な防御方法を考慮する必要がある。同時に今後、ベンダー側も製品供給だけでなくセキュリティ対策における助言も行っていく必要性が求められてくるだろう。
(筆者=ロックウェル・オートメーションジャパン株式会社稲山知己氏)