景気の減速傾向が続いている中国は、ルイス転換点を迎えているのではなかろうかと言う経済学者も出てきた。ルイス転換点とは農村が抱えている余剰の労働者がいなくなって、都市への労働者の流入が極端に減っていく時点のことである。中国の高度成長が20年以上も続いていることや、このところ中国での労働コストがかなりの高い率で上がり始めている。そのため中国経済は労働過剰から不足になる転換点を迎えているのではないかと言うのが、その理由であった。ルイス転換点を過ぎると、その国の経済は労働集約型から資本・技術集約型への方向転換が行われていくことになる。
日本では1950年代には農村から都市へ大規模な移動が起こって農村の余剰労働力はなくなり、60年に入るとルイス転換点を通過したと言われている。自動制御の創業期は60年頃からであるから、日本がルイス転換点を越え農村からの流入労働力が枯渇して、人件費が高騰し始めた時点と符合している。60年代創業期の自動制御は何らかの信号をキャッチして動力が動いたり、止まったりする単純な機械が主であったから、生産はまだ労働集約的なところがまだあった。60年代も後半になってくると、連続した機械の動きや各種装置などの連動による生産が行われるようになり、自動制御は成長期に入った。機械や装置の動きは複雑になったが、シーケンス動作をくり返す単純なものであった。
それでも自動化の領域は増えて、位置、時間、数・量、温度、圧力と広がってきた。それを受けて自動制御で使われる電気パーツや制御機器は現場からの要求に応じて次々と色々な商品が誕生している。自動制御業界の成長期は前述のごとくルイス転換点を通過し、労働集約経済から脱し技術の発達をベースにした日本社会の興隆期であったので、機械や装置を使う製造業の発展だけではなかった。社会の興隆期にある数々の欲求やニーズの広がりは、半導体や電子部品の発展と相まって制御回路を必要とする数々の製品を次々と世に出していた。それらに使用される電気部品や制御機器の需要は著しい増加を見せている。需要の増加は産業の裾野を広げ、電気部品や制御機器のメーカーが想定しているアプリケーション以外の使われ方が増加した。
成長期の販売員は電気部品や制御機器の用途を新たに発見するたびにわくわくした時期であった。需要や用途が広がった成長期の市場では当然、客は増えて毎年10%以上の売り上げ額が増加していた。それは、さながら現在の中国のようであった。しかし注文が増加したと同時にメーカー間や商社間の競合が増え、販売員同士の受注競争による商品納入ルートが混乱した。
成長期には現在とは少し異なったやり方で混乱を解決しようとした。それは情報優先制だ。競合より先に商談情報を入手するため、様々な手を打って、情報を入手することだった。どちらかと言うとすべてが力で勝負しているような現在の営業とは根本的な違いがあった。当時の情報優先主義とは前述した成長市場において、すばやく情報収集するため次の三つの手段を念頭において行動することだった。
一つ目は、次々と出てくる新しい部品や機器を、他社より早く技術者の目に触れさせて、技術者に販売員の印象を与えること。二つ目は、社会のニーズや生産現場のニーズに対応している新しい需要を発見するため、販売員の知らない事業所を発見したらまず顔を出し、何をしているか探ること。三つ目は、顧客や見込客がつくる新しい製品を見たら、そこに制御回路が内在しているかどうかという興味をもって用途の発見に努めること、であった。
以上の活動は新商品を武器にして、新需要や新用途をいかに他より早く見つけるかという活動であり、これを三新運動と言って情報優先主義のよりどころとなっていた。
(次回は1月30日付掲載)