混沌時代の販売情報力 黒川想介 人と融合する制御で内需創造

資源の乏しい日本は貿易を生業にしなくてはならないと、ずっと言われてきた。石油をはじめとして必要な物品を外国から買うためには外国が欲しがる物品を売って、必要な物を買うお金をつくらなければならない。個人には生計のための職業という生業があるように、国が生計を立てるための職業は貿易ということになる。しかし近年、国際流動性のだぶつきによるお金がお金を生む時代になった。また、経済産業のグローバル化の時代に入って日本の企業が海外に展開してお金を稼ぐようになった。

そうなると、日本の生計を立てる生業は物品やサービスで稼ぐ貿易収支だけでなく、海外の証券で得た収益である証券投資収益や、製造業中心に海外で得た収益である直接投資収益のような所得収支に支えられる比重が高くなってきた。

特に2011年度は東日本大震災の影響で、日本の得意芸であった貿易収支は48年ぶりに、3・3兆円の赤字に転落した。日本の国際収支を赤字から救ったのは所得収支であった。11年度の統計によれば、日本の経常収支は9・5兆円の黒字決算となっている。12年の上半期の統計を見ても、11年度と同様の傾向が続いていて、貿易・サービス収支は輸入超過による3・4兆円の赤字となっている。その赤字を埋めているのが所得収支の稼ぎであり、上半期の経常収支は何とか3・7兆円の黒字決算となっている。

11年の大震災やヨーロッパ金融危機に端を発して起きた超円高の影響などで、貿易・サービス収支が赤字に転落したのだが、貿易赤字はその影響のせいだけではない。

日本は、工業化社会の成功者となって成熟社会をつくり上げてしまっている。だから、大震災やヨーロッパの金融危機などによる超円高がなくても、いずれは新興国からの輸入攻勢により貿易収支は赤字になっていくのである。他の先進国が通った道であり、所得収支の黒を伸ばし、貿易収支の赤をカバーして、経営収支のバランスをとってきた。バブルがはじける以前の日本は、貿易黒字が突出して経済的には超大国であった。世界の富のかなりの分を日本は集めていたが、そのことをあまり意識せず、一種独特のバブルの世界をつくってしまった。

世界は特定国への富の集中を許さず、円高という対抗措置を講じたことで、日本の企業はたまらず海外へ工場を移転した。日本に余っていたお金は資本金となってアジア各地に流入した。現在は経済バブルになってもいないのに超円高という仕打ちに苦悩し、企業は海外へ移転し続けている。所得収支は黒字を増やすだろうが貿易収支は赤字を増やすことになる。それで、お金の勘定は合うが何か釈然としない。

工業社会の雄となった日本には生活に困らないほどの金が入ってきても、貿易不振で働く場を失った日本から活気を奪ってしまうからである。新興国は建設ラッシュで生き生きとして見える。日本はそこを通過して成熟した国になっている。それでも一歩、国内に足を踏み入れれば、生き生き感じられるようになることが金勘定が合って釈然とするということなのだ。そのためには働く場が増えなくてはならない。

これまで自動化によって省力を推進して生産効率を上げてきた。そして工業化社会の雄となった。今では工業化社会での省力自動化は完成の域に達していると言えるのだ。だから情報社会における今後の自動化は今までのように、何でもかんでも人を省くための省力自動化ではなく、生産効率を上げるために情報機器を導入してきめ細かな生産をすることである。そして人と融合する、人にやさしい自動制御を考えださねばならない。そこに新しい内需ができるはずだ。
(次回は2月27日付掲載)

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