■数量的には過去最高ペース
ディップスイッチは、半導体と同じ形状・端子配列を持つことからDIP(DUAL
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PACKAGE)と呼ばれている。一般的にプリント基板に直接実装されることが多いが、すべてのディップスイッチが基板に実装されるわけではない。電気信号の制御を目的に、機器のプログラム設定、回路切り替え、およびチェック用などで主に使用される。操作用スイッチ全体にタッチパネルやプログラマブル表示器などとの競合が懸念されている中で、ディップスイッチは比較的その影響が少ない。半導体との競合も限定的に推移しており、比較的安定した市場を形成している。国内の市場規模は70億円前後と見られているが、単価が下がり気味であることから金額的には伸びは低いものの、数量的には過去最高ペースで推移している。
ディップスイッチのメーカーは、日本のほか、台湾、韓国、香港などアジアに有力なメーカーが多く、これらのメーカー間の販売競争は年々激化している。月産2000万個体制を確立しているメーカーがある一方で、撤退するメーカーも出ている。各社とも量産化と自動化生産でコスト対応力を強化して、シェア拡大に取り組んでいる。
RoHS指令をはじめとした環境規制が強まっていることから、ディップスイッチから撤退するメーカーも出始めている。
当初は自動販売機の価格設定用で採用されたと言われるディップスイッチであるが、現在では情報化時代を象徴するパソコン、モデム、ストレージ、プリンタなどのパソコン周辺機器をはじめ、情報・通信機器や放送・映像機器、事務機器、金融端末機器、計測機器、自動販売機、ゲーム機器などで、プログラム設定や回路切り替えなど数多く使用されている。FA機器でも、PLC、コントローラ、インバータ、温度調節器などでの使用が多い。
■形状が機種選定のポイント
最近は機器のエレクトロニクス化傾向で、従来は押しボタンスイッチなどを使って操作していた配電・制御機器でも、微小電力化対応からディップスイッチなどで設定する方向に変わりつつあり、市場拡大につながっている。
ディップスイッチは、プリント基板上の狭いスペース内に取り付けられることが多いため、機器の小型化と並行する形で形状が年々軽薄短小化する方向にある。限られたプリント基板のスペースに、ほかの電子部品と一緒に高密度実装化を図る上で、形状は機種選定上の大きなポイントとなる。
■スライド型が70%占める
ディップスイッチは、操作部方式によってスライド型、ピアノ型、ロータリー型、レバー型、押しボタン型など多種な方式が用途によって使い分けられている。一般的にスライド型が市場全体の70%前後と最も多く使われており、極数は8極と4極が多い。しかし、メーカーによっては小口ユーザーの要望に応えるため、ローコストタイプのスライド式ディップスイッチなどで、5極、7極など奇数極タイプをそろえているところもある。
ディップスイッチは、搭載する機器によって操作頻度が極端に異なり、使用開始後はほとんど操作しない用途もあれば、頻繁に操作する用途もあり、また機器を使用する場所によっても特性が変わる恐れがある。ディップスイッチメーカーはどんな使われ方をしても確実な切り替えができるように、セルフクリーニング機構や、接点間の摺動圧を高める構造、接点に金メッキを施してさびなどから接点を護る方法など、各社が独自の接触方式で信頼性を高めている。
あるディップスイッチメーカーの塩水噴霧試験では、周囲温度50℃で、塩水濃度5%の雰囲気中に48時間放置して行っている。この状態で、接点部にさびなどによる接触不良が起きない品質が求められている。
セルフクリーニング機構では、操作時に接点間を擦り合わせることで接点表面の不純物も同時にクリーニングすることで接触不良を解消している。金メッキは微少電流用途などでも接触部が経年変化しないで長期間の安定した接触信頼性を発揮するように耐性処理したものである。最近は金価格の高騰から、接点に金メッキを使用しないでスズメッキを使用したディップスイッチも販売されている。コストを下げるのが狙いで、使用される機器によってはスズメッキ使用でも一定の性能が確保できることからこれで十分というユーザーの声もあり、今後の評価が注目される。
■半分がハーフピッチタイプ
ディップスイッチは、プリント基板上に半導体、コンデンサー、抵抗などといった、ほかの電子部品と一緒に混載されることから、端子間の距離(ピッチ)を国際標準格子間隔(2・54ミリ間隔、φ0・8~1・0ミリ取り付け孔)で設計され、自動はんだ実装機によって取り付けられることが多い。しかしその後、ディップスイッチの専有面積をさらに小さくするために小型化した技術がハーフピッチ(1・27ミリ)タイプのディップスイッチである。従来(1インチ)の半分のスペースを実現したことで、機器の実装密度はさらに高まった。現在ではディップスイッチの約半分がハーフピッチタイプになっている。薄型化も著しく、ハーフピッチで高さ1・45ミリ、体積比でも従来比約半分とさらに高密度実装が可能になる製品も開発されている。こうした薄型タイプでは、本体の溶着方法もレーザーなどを使った新しいやり方を採用している。
ハーフピッチの操作方式も、スライドタイプに加え、ピアノタイプや押しボタンタイプなどバリエーションが拡大している。押しボタンタイプは、上から押すだけで操作できることから、奥まった狭いところにも取り付けできるのが特徴で、スペース効率がさらに向上する。シーソ型では、操作性を良くするために、表面に溝とストッパーをつけることで、確実な切り替えを実現した機種も開発されている。
ディップスイッチがD(デュアル)でON―OFFの切り替えで使用するのに対して、ディップスイッチの片側部分のみで、1極がコモン端子を持つ形状のSIPスイッチは、スペースが2分の1になる。当然のことながら、その分の実装スペース性が向上し、機器の小型・軽量化につながる。
さらには、環境有害物質を使わないこととの両立も重要で、例えばディップスイッチを基板に実装する際に、従来は接続の信頼性に優れる鉛入りはんだを使っていたが、リサイクル面も含めた環境への配慮から、鉛が入っていなくても、同等以上の信頼性を確保できるはんだ技術を確立している。ディップスイッチ本体材質も、リフローはんだ付けでははんだ温度の260℃まで耐える必要があり、これに対応できる製品にするためには、熱可塑性樹脂の採用など素材の変更も必要になる。
■ハロゲン使用量を抑える
RoHS指令やREACH規制などの環境有害物質への対応が求められているが、最近発売のディップスイッチでは、難燃剤であるハロゲンの使用を低く抑えた製品も登場している。低ハロゲン品として、カバーおよびケースに700~800ppmの塩素を使用しているが、ノブには臭素が不使用となっている。
ロータリータイプのディップスイッチも需要が増えている。7ミリ角、高さ3ミリ前後正角形状のスイッチに、時計の文字盤のように数字、及び記号が記名され、回路に合わせてつまみで設定する。
実装方向を操作によって、上からや横からなどが選べる。コードの設定が多様に行えるのも特徴である。
端子ピンの構造では、従来主流であった4×1端子から、欧州で増えている3×3端子を採用するメーカーが目立つ。端子ピンの構造は、一般的にシェアの高いディップスイッチメーカーの製品をベースにして、製品設計を行うユーザーが多いといわれている。
そのほか、抵抗やダイオードなどを内蔵した複合タイプのディップスイッチも発売されている。後付けで抵抗やダイオードを取り付ける必要がないため、基板の省スペース化と作業工数の削減につながる。
グローバル市場での競争が激しくなっているディップスイッチであるが、メカニカル構造による確実な操作ができることで、今後も安定した市場で推移することが予想されている。現在ほとんどのメーカーが中国での生産を中心に展開しているが、中国生産も人件費の高騰や従業員の確保が難しくなるなど課題が出ている。生産を人手から自動機に置き換えることでコストアップを防ぎ、品質の安定化を図ろうとする動きが顕著化している。同時に、中国以外での生産も進めることで、リスクを回避しようとする動きも強まっている。ディップスイッチの用途拡大と市場のグローバル化のなかで、ディップスイッチメーカーの動きも激しくなっている。