先知とは誰よりも早く知ることである。早く知ることによって先手が取れる。先手を取れば相手の気勢を殺ぎ、先制することができる。先知・先手・先制は孫子の兵法をひも解くまでもなく、古来より現在に至る戦いで勝つための常套手段である。古来より戦役といわれる軍事行動は短期間であって、当面の相手を倒すという単純なことであるが、今日の経済上の戦いは会社が存続する限り永続的な戦いであり、成長をかけた複雑な戦いである。
したがって当面、目の前にいる敵の情報を素早く集めれば、十分に先手を取り制圧できるというような単純なことではない。成長をしつづけるための情報ということは、目先の情報だけでは済まされない。
それでも、ともかく先知は情報の入手であるから、できるだけ多くの情報を集めることから始めればよいが、先手となると少しやっかいである。先手を打つには先知したことに関して、やるか、やらないかの決心が必要になるからである。現代は多様化、情報化の時代に入り混沌としている。そんな時代には、入手した情報に反応してチャレンジすることが先手を打つということになるのだが、簡単には決心ができなくて先手を取らない場合が多い。
顧客の現場を担当する営業と、業界や市場全体をウオッチしている企画等の機能がそれぞれ独立して仕事をするようになってから、先手を打つ決心は鈍くなった。市場規模がそれほど大きくない時代には営業がほとんど主導し、企画等は資料係的存在だったため先知すれば先手が打てた。しかし規模が膨大になれば市場は複雑になり、営業の情報質量だけでは先知・先手・先制がむずかしくなったのだから、営業と企画がそれぞれの役割を分担するのは当然のことである。だから企業が成長しつづけるには、営業と企画が一体となって先知・先手・先制を進めなければならないが、現状では互いの意思の疎通に欠けている。
そうなってしまっている原因の一つは、現場を担当する営業の顧客周辺の現場経験不足によるものだ。顧客第一を掲げながらも売り上げ至上主義に走っている現状で、極端な言い方をすれば商品PRと競合商品切り替え活動しか販売員はやってこなかった。商品に関する良し悪し情報を取りつづけ、顧客そのものに関心をもって情報収集する多くの経験をなおざりにしてきた。一方の企画は、市場や業界の情報を各種の新聞・雑誌やセミナーなどから着々と入手し、市場や業界の動向、そして競合の動きを知ることとなる。
顧客の現場にあまり詳しくない営業と、市場や業界や競合の動向をマクロ的に把握している企画では、情報の質量の差が歴然としている。
つまり、営業が得意とする先知情報までも企画に頼ることになっている。そのため、企画案が主導することになって顧客からの先知で動くのではなく、競合品優位の良品をつくって業界で優位を目指すことになる。商社であれば売れている旬の商品を扱いのラインアップに入れ、売り上げ増を目指すことになる。
企画と営業の問題は、互いに専門的になり過ぎてしまっている点にある。19世紀初頭のプロイセン軍で活躍したシャルンホルストは、参謀本部とライン軍の根本的な摩擦を避けるためラインとスタッフの適切なローテーションが必要だと言っている。互いのことを十分に経験することによって身勝手な論議を超えられるということなのだ。
力の強い企画でも、顧客現場を十分経験していれば先手を取る企画を立てることができ、営業に対して現場の情報の入手を何度も、色々な角度から営業に催促して納得した企画を立てられるようになる。
(次回は3月27日掲載)