操作用スイッチ市場の堅調な拡大が続いている。各種機械や装置向けに加え、省エネ・創エネ・新エネなどに絡んだエネルギー関連向けが好調に推移しており、さらに、アミューズメントや社会インフラに絡んだ需要も伸長している。製品も、全般的に機器のコンパクト化に伴う小型・薄型・短胴化や、安全対応、高輝度化、保護構造やデザイン性の向上、国際規格化対応などが図られている。電気とは不分離であるだけに、今後も安定した市場形成が続きそうだ。
操作用スイッチの市場は、主として産業機器用スイッチを中心に動向をまとめている日本電気制御機器工業会(NECA)の出荷統計によると、2011年度は349億円(前年比97・8%)と微減であった。しかし12年度は期全般を通じ好調に推移しており、13年2月までで約330億円(同104%)となっている。3月までの出荷額はまだまとまっていないが、これまでの出荷額から推定すると366億円(同105%)ぐらいになるものと思われる。NECA全体の出荷額は前年度割れが見込まれている中で、操作用スイッチは堅調な伸びとなっている。NECAでは13年度の操作用スイッチの出荷見通しを公表していないが、民間設備投資の拡大は確実に期待でき、為替も輸出の増加につながる環境が見込めることから、105~108%の増加が予想される。
操作用スイッチは、市場の裾野が非常に広いことから以前から極端な増減にはならない傾向がある。12年度は工作機械や電子機器・装置、アミューズメント、エネルギー関連向けが比較的堅調な拡大となっている。工作機械は自動車製造やスマートフォン、有機EL関連での投資拡大が追い風になり、アミューズメント機器は新機種の入れ替えなどから回復基調を続けている。また社会インフラ絡みの電力設備関連や再生可能エネルギー↘↘関連、鉄道車両関連での需要が拡大している。
中でも再生可能エネルギー関連では、省エネ・創エネ・新エネに絡んだ市場が操作用スイッチの新たな分野として期待が高まっている。
例えば、昨年7月からの電力買い取り制度のスタートで設置が急速に拡大している太陽光発電設備は、期待市場のひとつだ。特に高い買い取り価格もあって家庭用に加え、大規模なメガソーラー発電には、企業や自治体、第3セクターなどが一斉に計画をスタートさせている。この結果、パネル、パワーコンディショナー(パワコン)、接続箱などと一体で需要が拡大している。
太陽光発電システムでの操作用スイッチは、パワコン用や接続箱用の電源スイッチ需要に加え、太陽光発電電流を開閉する直流スイッチの需要も加わる。回路ごとにスイッチが必要であり、直流の小型・高開閉容量スイッチが必要なことから、単価が比較的高く、技術的な難しさもあって、今後の期待市場として見込まれている。
エネルギー関連では、このほかに電気自動車(EV)向けの充電スタンド向け用途も期待されている。充電スタンドでは、電源スイッチ、スタート/ストップスイッチ、非常停止スイッチ、ブレーカー用スイッチなど充電スタンド1台で5~6個使用されると言われている。充電スタンドは全国で2000台前後設置されているものと思われるが、EVの普及とともに設置台数は増加するものと見られ、操作用スイッチの新たな市場が生まれることになる。
福島原発の事故発生以降、原子力発電所への投資が保留される中で、LNGなどを使用した原子力以外の発電所建設も増加している。発電所は発電設備から電力送配電の受配電設備、偏圧設備などで大量の操作用スイッチを使うことから、今後もこの用途での需要が継続して見込める。
上下水道や公共施設、鉄道設備など社会インフラ関連も操作用スイッチの安定した市場だ。中でも鉄道関連は、環境への負荷が少ないことから世界的に投資が拡大している。鉄道車両の運転席周辺やドア、座席などに高機能の操作用スイッチが多数採用されているほか、運行システム、自動販売機、自動改札機、ホームドアなど多岐にわたり使用されている。
鉄道車両も含めこうした社会インフラ関連に採用される操作用スイッチは、安全性や確実性、耐環境性などが強く求められることから、スイッチメーカーでは技術力を発揮するとともに、付加価値を高めた拡販活動を行っている。
そのほか、高齢化社会に対応した福祉機器向けやセキュリティ、放送機器なども今後、伸長が見込める分野だ。
操作用スイッチは、使用環境や操作頻度、取り付けスペースなどを基準に選択されるが、最近では小型・薄型・短胴化、デザイン性、安全性、信頼性、保護構造の向上などが進むとともに、グローバル市場に対応するため、国際規格に準拠した製品が増えている。さらに、照光式スイッチではLEDやEL採用による高輝度・長寿命化などが進んでいる。
操作用スイッチは、押しボタン、照光式押しボタン、セレクト、カム、ロータリー、トグル、デジタル、DIP、シーソー、多方向、タクティル、スライドなどのほかに、各種の高機能スイッチやフットスイッチ、マットスイッチなど多種多様である。
NECA統計を見ると、照光式押しボタンスイッチの出荷比率が高くなっており、現在操作用スイッチ全体の30%近くになっている。照光式押しボタンスイッチは、表示灯を兼備したスイッチで、稼働状況を確認できる視認性の良さと省スペース性の高さが大きな特徴である。光源であるLEDが年々技術改良され、高輝度、長寿命、低消費電力といった性能が格段に向上している。特に低消費電力は大きな魅力で、装置全体でスイッチを多数使用する場合、メリットも大きくなる。さらに、光源や表示素子に液晶や有機ELを採用したタイプは、多彩な表現力を実現しており普及が進んでいる。
デザイン性や機能性をアップしたタイプでは、ベゼル高さが2ミリという薄さと機能性を兼ね備えたスイッチが浸透している。パネル全体がシャープで引き締まったデザインになるほか、凸凹の少ない操作パネル面は、食品機械や半導体製造装置で求められるゴミや埃の付着を防止し、パネル面の突起に当たることで生じる誤動作などを防ぐ利点がある。
タクティルスイッチはプリント基板に直付けし、シートキーボードスイッチやパネルスイッチなどと組み合わせて使用することが多く、特に携帯電話の多機能化に伴い、需要が拡大している。低背化、インチピッチを採用した端子が特徴で、丸洗い可能な密閉構造や照光タイプなどもあり、確実な操作感が得られる。
DIPスイッチやデジタルスイッチは、OA・情報・通信機器などで多く使用されている。特に操作頻度があまり多くない用途で採用されており、SMTに対応したタイプが浸透している。
DIPスイッチは、一般的に一度設定するとその後はあまり操作しないことから、接触信頼性がポイントとなる。各メーカーでは、ナイフエッジ構造など独自の接触方式を開発し、フラックスなどの浸入による接触不良の解消を図るとともに、プリント基板などへの実装後の洗浄もシールテープなしで可能にしている。環境問題への対応もあり、環境負荷の少ない材質の採用なども進んでいる。
シーソースイッチは、電源のON―OFFなどに良く使われる最も一般的なスイッチである。比較的大電流の入り切りを行う用途では、操作時の突入電流による接点やハウジング対策が重要となっている。機器の小型化が進む中で、シーソースイッチの小型化も年々進んでいる。同時に屋外や環境の悪いところでの使用に対応して、防塵・防水対策を施した製品も増えている。太陽光発電の直流開閉用に使用するシーソースイッチは、操作時の接点開閉技術に難しさがあると言われている。今後こうした直流を使った機器・装置がますます増加することが予想され、シーソースイッチに限らず、操作用スイッチの新たな技術的チャレンジと新市場創出へのきっかけとなることが見込まれている。
シートスイッチやパネルスイッチは、パネルデザインの自由度が高く、耐環境性も良いため、悪環境下の生産現場から携帯用の民生機器まで幅広い市場を形成している。
耐環境性の面では、トグルスイッチがIP67相当の保護構造を実現。操作レバーを全面照光式にした製品もあり、暗い場所でもON・OFFが操作レバーの位置で確認できる。一部のトグルスイッチやスライドスイッチは、スナップアクション方式を採用。クイックな動作で出力の安定を図り、接触信頼性を高めると同時に長寿命化を実現している。
多方向スイッチは、1本のレバーで多くの開閉が可能で、細かな操作を行う用途に最適。カムスイッチは、多くの回路とノッチが得られるため、複雑な開閉などに対応できる。用途によって操作開閉頻度に大きな差があるため、接触信頼性の確保が最優先で求められている。
フットスイッチは、小型化、浸・防水性能の向上、安全機能への対応が進んでいる。用途も工作機械やプレスマシンなどに加え、医療や食品などの用途が堅調な拡大を維持している。安全機能対応では、3ポジションタイプのほか、安全ロックレバーを搭載したタイプや、ペダルの高さを低くしたタイプなども注目されている。
操作用スイッチは今後、直流分野に対応した用途で拡大が見込まれているほか、ワイヤレス化なども志向されている。EVの普及で充電スタンドも需要が見込まれているが、EVの車載用需要も拡大が期待されている。
スイッチメーカー各社は、新市場・新用途開拓を継続する一方で、新機軸のスイッチ開発にも意欲的に取り組んでいる。一方でグローバルな販売競争も継続しており、各社の得意市場を守りつつ、新たな分野の開拓へ営業・技術両面で取り組んでいる。電気と不分離な操作用スイッチは今後も安定した需要のなかで、地道な努力が見込まれる。