サーボモータの市場が回復基調に向かいつつある。北米やアジアの新興国市場が堅調であることに加え、停滞している中国市場も自動化投資を背景に反転に向かおうとしている。今年夏以降は半導体製造装置の需要が回復するという見方が強く、円安効果もあり先行きへの期待は高い。製品は、制御の高精度化や高頻度化、高加減速動作に対応して高速応答性を追求した開発が進んでいる。さらに、セーフティ機能の充実、操作性の向上など、脱レアアース対応などにも取り組んでいる。
サーボモータは、ハイテク分野での利用が多いこともあり、こうした分野は景気変動に大きく左右される傾向が強い。直近では2001年のITバブル、08年のリーマンショック前後で大きな山と谷を経験した。11年も震災特需などで2111億円(同11・3%増)、生産数量414万台(同1・0%増)と伸長したが、12年は半導体製造装置や工作機械の伸び悩み、欧州と中国市場の停滞が大きく影響し、経済産業省の機械生産統計では12年の生産金額は707億円(同66・5%減)、数量は225万台(同46・0%減)となっている。日本電機工業会(JEMA)の生産統計でも12年度(12年4月~13年3月)は681億円(61・6%減)の見込みとなっている。
JEMAでは13年度の見通しを前年度比3・2%増の703億円と3年ぶりの増加を予定している。輸出が在庫調整局面を脱し、円安基調も加わってアジア、北米市場を中心に安定的な回復が期待できる。国内も建築着工の動きが強まり、景気刺激策から民間設備投資の回復、高効率機器・省エネ機器などが牽引役となって、サーボモータ需要も反転が期待されている。
今年夏以降は半導体製造装置の需要回復が見込まれているほか、メガソーラー発電を中心としたパワーコンディショナーの受注も依然好調を維持している。
It分野でのスマートフォンやタブレット端末も好調を維持しており、サーボモータ市場への波及効果も大きく見込める。
サーボモータは、金属工作・加工機械、産業用ロボット、サーボプレス、射出成型機、半導体・液晶製造装置、電子部品製造組み立て装置、繊維機械、包装機械などの製造装置をはじめ、印刷機械、搬送機械などの工場や、工場以外の駅ホームの安全ドア開閉や自動改札機、乗り物シミュレータなどのアミューズメント関連、回転鮨のベルトコンベヤ制御、介護ベッドや手術支援ロボット、医療検査装置など介護・医療などの分野でも採用が進んでいる。
海外市場は、北米と中国を除くアジア市場が堅調だ。北米は自動車産業回復に加え、製造業の国内回帰が続いている。シェールガス開発や航空機製造なども活発である。アジアでは、韓国、台湾、タイ、インドネシアなど中国を除く新興国に勢いがみられる。自動車やスマートフォン関連の波及効果が進んでいる。中国も人件費の上昇から、自動化投資を積極的に行っており、ロボットなどの需要が確実に増えるものと思われ、再び成長市場になることが見込まれている。
レアアースとしてモータにも多く使用されているジスプロシウムやネオジウムなどは、サーボモータの生産低迷や、代替技術の進展もあり、一時の危機感からは大きく状況が変化している。経済産業省も脱レアアースへの開発予算を計上したこともあり、安定的な供給体制が確立されつつある。
サーボモータの開発は、使いやすさに重点を置いて取り組まれている。複雑な制御調整が簡単にできるオートチューニング機能、機械の振動を抑えながら短時間で位置決めを行う制振制御技術、作業の安全を確保するセーフティ制御技術、さらに効率的な生産を進めるネットワーク化対応などがポイントとなっている。さらに近年の機械・装置の小型化に対応し、サーボモータでも小型・軽量化が進んでいる。
オートチューニングでは、ワンタッチで機械の共振制御などにも対応できるよう、各社が独自の機能を搭載している。制振制御技術ではアーム先端の振動に加え、装置本体の残留振動も抑制できる低周波抑制アルゴリズムを搭載し、さらなる高精度調整を可能にしている。
高速化では、速度周波数応答2・5kHz、22ビットロータリーエンコーダーの標準搭載で、400万パルス/revを超える高分解能製品も登場しており、位置決め整定時間を大幅に短縮し、高精度な位置決めや微細加工を実現している。整定時間を短縮することは、業務の効率化につながり、機械・システムの生産性が向上する。また、サーボモータの制御に関しては、指令応答特性を高めるフィードフォワード機能(FF機能)と、外乱抑制特性を高めるフィードバック制御(FB制御)があるが、FF制御とFB制御を完全に分離して制御を行うことができる、2自由度制御方式を搭載したサーボモータが開発された。
両制御を完全に分離することで、より高速・高精度なモータ制御が実現する。例えば電子部品実装機では、部品搭載ヘッドの振動を抑えた高速実装タクトの実現や、金属加工機では、摩擦や粘性の影響を少なくし、切断面を滑らかにするといった高精度な加工が実現できる。
ネットワーク対応では、EtherNet技術をベースに、通信速度100Mbps全2重の高速独自ネットワークを駆使し、リアルタイム通信性能や、自由度の拡大が図られている。
セーフティ化では、サーボモータに関連する規格として、ISO13849―1、IEC61508シリーズ、IEC62061、IEC60204―1、IEC61800―5―2などがある。このうちIEC60204―1は、機械の電気装置に関する要求事項を定めた規格で、停止の制御機能について定義している。可変速ドライブシステムの機能安全規格であるIEC61800―5―2への対応品も増加している。現在はこの2つのセーフティ規格を搭載したサーボモータが発売されているが、今後、国際標準化に準拠したセーフティ機能の拡大が予想される。
そのほか、厳しい環境下でも使用できるよう保護構造IP65などを標準採用したタイプやIP67対応品もある。
低剛性への対応もポイントで、特に高速応答の必要なマシンボンダーや、低剛性メカニックを低振動で高速駆動したい取り出しロボット、多関節ロボットなどで重要視されている。
小型・軽量化の例では、サーボドライブが必要とするトルクを直接供給するようにすれば、機構が単純になってコンパクト化が可能となる。故障の発生や外的なトラブルの要因も減少し、低コストや省資源というメリットにもつながる。機器の小型化では、リニアサーボモータの動向も注目されている。
回転型サーボモータとボールねじとの組み合わせに比べ、推力が大きく、短ストローク移動で加減速の繰り返しなどに強みを発揮できる。特に、小型で速い動きが求められている機械などに最適である。「オールインワン・サーボモータ」として、ドライバ、エンコーダ、モーションコントローラ、シーケンサ、ネットワークまでを1台に収納した製品は、配線作業が不要で、省スペース化にもつながり、トータルコストダウンにも貢献できる。
搬送機械、繊維機械などでは、1台のマシンに使用するモータ数が多く、特にサーボアンプの小型化や各軸のゲインチューニング工数の短縮が求められる。このため、回路基板をワンボード化するなど、高密度実装と最適放熱設計での超小型サーボアンプもある。
今後、サーボモータの開発で注目されるのは、次世代素子であるSiC(シリコン・カーバイト)や、GaN(ガリウム・ナイトライド)など、パワー素子を使用した製品の実用化などが挙げられる。高周波対応が可能で、発熱を大幅に下げることもでき、さらなる機器の小型化や低損失に繋がる。そのほか、省配線化につながるエンコーダの配線本数削減や配線レス化、バッテリレス化なども研究が進んでいる。
サーボモータの用途拡大が進む中で、参入メーカーも増えている。なかでも台湾、韓国、中国などのメーカーは、高いコスト競争力で、日本や欧米メーカーの一角に食い込む取り組みを継続しており、今後は競合が激しくなることが予想される。
日本メーカーも「地産地消」から、中国を中心に海外生産を強化して対応している。サーボモータの技術面での開発余地は大きいだけに、使いやすさの向上に比例して、市場はさらに広がっていきそうだ。