「ネジ1本から自社で作る」。
ドイツに本社を置く産業用端子台やコネクタ、各種インターフェース機器、サージ保護機器などの大手メーカー、フエニックス・コンタクト社は、今もこの手法を徹底している。「わが社はメーカーであると同時にネジのユーザーでもあるから、こうした取り組みは、ユーザーの立場に立ったものづくりを進めるうえで、非常に重要なことだと思っている」。同社アジア太平洋中東アフリカ販売担当責任者のフランク・アッカーマン氏は強調する。
同社の本社工場では、同社の製品に使用するすべてのネジを、線材から加工している。そのネジを加工する機械も自社設計によるものだ。
1923年設立の同社は、今年でちょうど創業90周年を迎える。発電所などで使用する電力用端子台からスタートしたが、いまは従業員数約1万2800人、12年12月期の売上高15億9000万〓(約2057億円)を誇る産業機器の総合メーカーになっている。
本社工場には、このネジの加工機械のほか、線材のネジ加工から端子台へのネジ装着と組み立てを1台で一貫して行える機械も整然と並んでいる。その傍らでは次の自動化生産に向けた加工組み立て機械の試作機の設計も行われている。生産機械だけでなく製品金型も内製化している。すべてを内製できる体制こそ、強さの一番の源泉であろう。
品質の高いものづくりで共通する日本とドイツであるが、同社のものづくりを見て学ぶところはこのネジ作りだけではない。同社はグループ会社で製品の試験と第三者認証ができるようになっている。耐ノイズ性、保護特性、耐衝撃性、耐候性などといった同社製品に求められる要求に対応でき、外部からの受託試験も行っている。製品のすべてを社内で作り、製品試験も社内で行う。この姿勢が高い品質を生み出す。欧米企業の中には、自社製品への自信から、市場の声を聞かないで販売しているところも多い。特に産業機器では日本で販売が伸びない理由を、商流や非効率な法制、習慣などを理由に挙げ、市場ニーズとのギャップを修正しようとする企業が少ない。確かに日本の高レベルな品質要求や不合理な設計などが障害になり、逆にこれが高コスト化につながる一因にもなっている。
しかし、同社は外から学ぶという柔軟な姿勢も合わせ持つ。特に日本からは貪欲に吸収し、製品開発と営業戦略に反映している。「25年前の87年に日本法人を設立して以来、日本市場の特殊性をよく理解している。地域に密着してお客さんの声を聞いており、日本から学ぶことも多い。端子台の端子構造の違いなどにも長い間チャレンジしている」と同社副社長のラルフ・マスマン氏は語る。
また、ドイツは国際的にもものづくりで強い競争力を有しているが、その源泉の一つが「オープンイノベーション」と言われる産官学一体となった取り組みである。安全、環境、品質など、国際標準規格の多くは欧州主導で制定されており、その中心であるドイツは大きな役割を果たしている。製品個々では自社生産を徹底する一方で、規格などの技術面では企業の枠を超えて連携し、これに官学も巻き込んで制定を進めていく。オープンフィールドネットワークで大きな影響力をもつ「PROFIBUS・PROFINET」は、欧州メーカーが連合で推進している代表的な例と言える。(つづく)
(藤井裕雄前特派員)