産業用トランスは、各種装置を陰から支える重要な機器として、FA分野からロボット・工作機械分野、医療機器分野、IT分野、発電関係、アミューズメント分野など、幅広い分野で活躍しており、堅調な動きを見せている。電力系統に使用される大型タイプから、受配電盤、電子機器・装置に組み込まれる小型タイプまで、多種多様な製品がそろっており、安定した市場を形成している。最近では電力関連やインフラに絡むエンジニアリング関連、さらにメガソーラー向けの需要が旺盛で、特に高容量・大型のトランスが伸長している。
経済産業省の機械統計によるトランス(インダクタを除く)の生産金額は、2010年(1~12月)は、前年比15・7%増の162億円、11年は同4・3%減の155億円、12年は同5・8%減の146億円となっている。また、産業情報調査会の調査による世界のコイル・トランス出荷金額は、11年は前年比2・6%増の1兆1717億円となっており、12年も、スマートフォンやタブレット端末向け需要、自動車やエネルギー関連での需要拡大で1兆2000億円を予想している。
国内市場は堅調に推移
国内のトランス市場は堅調に推移しており、FA分野やロボット工作機械分野以外にも、IT分野、情報・通信分野、アミューズメント分野、医療機器分野などでもトランス需要が着実に拡大している。さらに、震災復興に絡む電源装置の需要増や風力発電分野、最近では市場が急拡大している太陽光発電システムの昇圧・変圧用機器として、需要が伸びている。特にメガソーラー分野は、国内外問わず建設が進んでおり、同分野向けの大型トランスは、生産が追いつかないほど需要が急拡大している。
特注品やカスタムメイドトランスの比率も高まっている。例えば、同じ大きさで容量の違うトランスや、同じ容量でサイズが半分のトランスの製作依頼など、顧客から様々な要望があり、専業メーカーでは各種のニーズに合わせた改良・工夫を進めており、こうしたことが新たなアプリケーションの拡大につながっている。
特注品は、組み込む機器・装置、設備に合わせて容量、サイズまで特別に製作するため、トランスメーカーにとってコスト、納期面での負担が大きいと言えるが、あるメーカーでは、小型から大型のトランスまで一貫生産ができる最新鋭の機器を導入し、コストの低減と納期の短縮化を図っている。
専業各社、販売ルート拡大
専業メーカーの営業戦略では、リーマンショック以降、積極的な営業展開を行っているメーカーが多く、新規に販売代理店の獲得など販売ルートの拡大を図っている。特に首都圏の営業拡充や地方の主要都市での拡販を積極的に推進しており、大手の新規顧客開拓につながっている。市場の大きい首都圏は関東以外のトランスメーカーにとっても重要な地域で、営業所などを強化するとともに地域に強い商社と販売提携し、営業活動を活発化させている。
さらに、物流体制の整備、ネット販売の進展などの観点からも、全国的な販路展開に取り組むメーカーが増えている。大型トランスは産業用途での採用が多く、使用分野・製品ごとに仕様が異なるため、多品種少量生産対応が可能な専業メーカーによって供給されている。大型を中心とする産業用トランスは重量が重いので、輸送コスト面から、ユーザーに近いところで生産する地域密着型での製造・販売が主流となっている。
環境対策への取り組みでは、各メーカーともRoHS指令対応製品の投入をほぼ完了しているほか、UL、CAS、TUV、CEマーキングなどの海外規格取得が進んでおり、ほとんどのメーカーが海外規格対応品をラインアップしている。
トランスの環境対策は、このほかリード線、銅線、梱包材などでも求められている。リード線や銅線関係は、ケーブルメーカーが環境対応を図っており、トランスメーカー自身はそれを証明するだけで済む状況となっている。
円安で原材料価格上昇気味
トランスの材料になる銅相場は、11年の後半あたりからキロ当たり600円から700円前後で推移してきたが、今年に入ってからは円安の影響で、幾分上昇気味となっている。鉄は昨年、トン当たり7万円を超えることもあったが、現在は6万8000円前後で推移しており、落ち着いている。
樹脂や石油化学製品の価格は、一昨年の初めに10%から20%値上げされ、その後は落ち着いていたが、こちらも円安を背景に、塩ビ、ポリエチレンなどが若干強含みで推移している。トランスの材料に使用される石油系製品では樹脂のほかにワニス、テープ類などがあるが、トランスは本体の原材料の約80%が鉄や銅で占められ、製造原価に対する材料費が30~45%と高く、銅や鉄の価格動向が製品価格に反映されやすい。端子台の採用が一般化
トランスは、軽量・コンパクト化に加え、接続方法の簡易化など作業性の向上、マルチタップ化、LEDによる通電表示などの工夫・改良が進んでいる。
作業性の向上では、結線の作業性・信頼性の向上、デザイン面などの観点から結線部への端子台の採用が一般化している。タブ端子台を採用しネジを使わず、リセプタクル端子をタブに差し込むだけで結線が完了するタイプや、ネジアップの採用でネジを緩めることなく丸型圧着端子の接続ができるタイプが主流となっており、結線作業の効率化が大幅に向上している。
最近では、単線や棒端子に差し込むだけで結線が可能なプッシュイン式端子台を備えたトランスも登場している。同トランスは、屋内配線用のビニル電線(IV線)についても、マイナスドライバーでばねを押して差し込むだけで結線が可能で、さらなる結線作業の効率化、時間短縮が図られている。
一方、ネジアップ式端子台にLEDを取り付け、通電中はLEDが点灯し通電状態が一目で確認できるタイプが好評を得ている。
マルチタップを採用した製品は、1次側(入力)とともに、2次側(出力)にもマルチタップを採用することで、1台のトランスで12種類の電圧に対応することができ、入出力の電圧変更が簡単にできる。
軽量・コンパクト化への取り組みとしては、絶縁紙の使用枚数削減がある。これは環境対策面でも効果的で、絶縁種別をB種、巻線仕様をノーレア方式にすることで、従来品と比べ20~40%の軽量化を実現。これにより、1kVAクラスの場合、約3キログラムの減量となる。サイズも10~20%コンパクト化が図られている。
レヤーレスで小型・軽量化
中型単相、三相トランスでは、新しい形状の成形ボビンを採用することで、コイルをレヤー紙巻からレヤーレス巻きにすることに成功している。層間紙を入れずに完全整列巻線を行うことができ、導体熱が直接伝わり放熱効果が向上するとともに、大幅な小型・軽量化につながっている。
加えて、コイルの上下面の線輪間を完全に覆うことで、ホコリやごみ、湿気などからコイルを守り、絶縁不良の事故を防ぐことができ、顧客から好評を得ている。コイル巻線の工夫、鉄心の改良については、複数巻線シングルコアに対して、複数コアのシングル巻線にすることで大幅に薄型化することができる。近年では、巻線の自動化技術も進み、独自の自動巻線装置を使うトランスメーカーが増えている。
民生用途の小型タイプなどでは、既に巻線の自動化がなされているが、大型タイプが中心となる産業用トランスでは、まだ手作業で行っているところが多い。自動化は、同じ巻線数でも手作業などの従来方法よりコンパクトに巻け、小型軽量化につながっている。
巻線の自動化が進展
トランスの巻線作業はある程度熟練が必要で、ベテラン職人の減少や人件費対策などのコスト面からも、巻線の自動化が進んでいる。コイルボビンにノーカットの鉄心を巻き込んだタイプは、鉄心の有効断面を均一にすることができ、磁路の短縮が図れる。コイルボビンと鉄心の一体化構造で、高い絶縁性と正確な形状を実現、自動巻線も使えるといった特徴がある。
ノイズ対策製品増える
トランスにノイズ対策機能を付加した製品が増えている。ノイズ対策には一般的にノイズ対策専用トランスを採用するが、トランス自体がノイズ対策機能を持つことにより、ノイズ対策専用トランスが不要となり、コスト、スペースなどでメリットが生まれる。
さらに、日本は山間部や日本海沿岸部などがよく雷被害を受けるが、近年は温暖化現象などで都心部でも落雷による被害が急増している。このため、雷対策用として耐雷トランスの需要が急速に拡大している。また、太陽光発電システムの普及に伴い、太陽光発電用のパワーコンディショナが落雷により被害を受けるケースも増えており、これらに対応する耐雷トランスも登場している。
安全重視の観点では、焼損事故の再発を防止するため、自己保持型サーマルプロテクタを内蔵し、所定の動作温度に達すると、トランスや電源機器の電源を切るまで接点を開放し続ける事故再発防止トランスなども伸長している。
そのほか、成型前のガラス繊維などに熱硬化性樹脂を染み込ませた、金型レスのプリプレグ方式のモールドトランスの需要も高まっている。通常の乾式トランスに比べ、導電部の絶縁や保護に効果を発揮し、難燃性や耐湿性に優れる。金型レスのため、ユーザーが求める様々な容量・電圧に対応するトランスの製作も可能である。
パワコン向けに需要伸びる
最近では、トランスの技術を応用したリアクトルや給電システムなどが開発され、新たな市場を形成しつつある。特に、汎用インバータ用交流・直流リアクトルは、入力力率を改善するとともに高調波電流を阻止し、コンデンサの焼損を防止し、電流の脈動を平滑化させる機能があり、需要が拡大している。また、高周波リアクトルは、小型でありながら低損失、低騒音で、電流特性に優れ、太陽光発電システムのパワーコンディショナ向けに需要が伸びている。
特に、高周波リアクトルは、太陽光発電分野以外に、UPS(無停電電源装置)や、バッテリチャージャー、各種のコンバータ/インバータや、各種の電源装置にも応用でき、今後のアプリケーション拡大につながるだろう。