ラジオやテレビのトーク番組を見たり聞いたりしていると、取材する側のインタビュアーは視聴者の聞きたいことを聞いてくれるものだと感心させられる。また切れ目なく、よどみなく質問し、視聴者を飽きさせないのはさすがだ。インタビューの名人と言われる人は視聴者が何に関心を持っているのかを察して、その関心事に対して前もってインタビュー相手の情報をある程度収集しておくのだろう。インタビューの名人に必要なのは機転がきいた話のうまさだけでない。相手の既に知られている情報とインタビュアーが前もって収集した情報をうまく使って、相手が率先して話したがらないことをうまく引き出して相手に話をさせてしまう。視聴者を楽しませるために持っている情報を使って話の流れを組み立てているのだろう。トークが自然の流れで脇道に逸れてしまっても、また元に戻せるのはトークを導く質問の内容や構成が十分に準備されているからなのだ。
インタビューの名人と言われる人は素質だけでなく、情報入手への努力や質問の準備を十分に行っている。その上でインタビューをする相手との真剣勝負に臨んでいる。そんな真剣勝負を何度も経験しているから、視聴者を満足させるトークの技を身につけていくのだと思う。
ところで、営業の最も重要な仕事と言えば見込み客を見つけて顧客にしていくことである。次に重要なことは見込み客から出来るだけ多くの情報を収集することである。ところが、現代の営業では販売員を育成するために商品やアプリケーションなどのプレゼンテーションに力を入れているし、プレゼンテーションのうまい販売員を評価する傾向にある。プレゼンテーションのうまい販売員は商談テーマを見つけ出すという理由で、情報収集力よりも情報提供力に重心を置く教育を主体としている。その結果として競合打破の売る力はついてくるが、新しい需要に気づくというような需要発見力は低下する。
需要といっても顧客がオープンにして打ち合わせを求めてくるような需要ではなく、隠れている新しい需要である。販売員の売り上げは顧客からのリピートや商品形式指定によるものか、オープンになっている商談情報のクロージングによるものが大半を占めている。本来は商談テーマ発見と需要発見は同じように考えてもいいから、情報提供力を強化し商談テーマを発見することは営業を強化することになる。しかし前述の通り、顧客がオープンにしてくれている情報を需要発見とは言い難い。相手が率先して話したがらないことをうまく引き出して話させてしまう名インタビュアーのように、販売員が相手から引き出してしまう商談テーマなら需要発見力と言える。この需要発見力は上手に相手に伝える情報提供からは直接生まれてくるものではない。
現代のような成熟期も末期になり混沌としている時代には、営業活動の原点に返って情報提供よりも情報収集にやや比重を移していかなくてはならない。そこで販売員はインタビュアーがやっていることを参考にして、質問の仕方の向上を目指すことが必要だ。それには質問力の向上というようなハウツーの勉強をするのではなく、技術者とのコミュニケーションがおもしろくなるように一歩一歩、真剣勝負で質問の仕方を身につけることである。真剣勝負をするのであるから、やみくもに質問しても詰まってしまうだけだ。やはり会話がつながっていくような脚本を用意する必要がある。それが出来る販売員は情報収集の基本動作を実践し、幅広い質問を常に心掛けている人ということになる。
(次回は6月26日掲載)