営業に出始めの頃は顧客であっても緊張の連続であり、無我夢中で対応する。それは新人販売員にとって真剣勝負をしているのである。真剣勝負で相手を見る力がつくられる。そこで営業力は培われていく。培われた営業力はさらに次の経験を求めて真剣勝負をしていくから、次第に臨機応変に対応できるようになる。臨機応変に対応できるようになる頃には、いわゆる営業というものに慣れてきて、仕事も忙しくなってくる。その結果、それまで経験してきた世界で視野が固定してしまう。
例えば、新しいお客様でも同質の人とは話せるが異質のお客様とは話の糸口をつかめないから、いつものように商品紹介しかできない。その商品が異質のお客様にとっては、それほど興味がない場合は、新人の時のように緊張して何もできなくなってしまう。新人よりも無我夢中で真剣勝負ができなくなってしまった分、営業の伸びしろはなくなっている。営業は知識だけでなく経験のいる仕事と言われるのは、常に人との接触で真剣勝負をしているからである。色々な人との経験が新しい知識になり、その知識が新しいチャレンジをさせる。その繰り返しが高みの営業力になっていく。あせって知識を詰め込んでも、うまくいかないのは色々な人との真剣勝負を省いてきたからである。
お客様との対応がうまくなったベテラン販売員が次の高みを目指すには緊張感のある異質の人との経験が大切なのだ。その経験はベテランでも簡単ではなく、十分な準備をしなくてはならない。十分な準備とは、決めてかかるプレゼンテーションではない。初めて会った人に商品などのプレゼンテーションが必要かどうかはわからないからだ。
昨今の事情では相手が今までと同じような顔に見えても、ほとんどが的はずれの場合が多い。そこで、会話の脚本を想定しておくのがいい。脚本と言っても大袈裟なものではない。今まで経験してきたことや、いわゆる机上での知識を総合して仮説を立てる。それを基にして聞きたいことをまず決めておくことである。重要なことは脚本に商品売り込みは入ってないことだ。まず本日の聞きたい目標に向かってスタートの文言を準備する。
例えば、目標は作業者のポカミスについて聞きたいとすれば、スタートの文言は「製造現場で自動化できるところは、ほぼ自動化が完成されている昨今ですが、今でも自動化になっていないのは検査と出荷工程だと言うお客様が多いようです。御社はどうですか」というように探りの文言からスタートするようなことである。一石を投じたら、あとはその件に関するやりとりになる。
ここで今回の情報収集が、作業者はいったいどんなポカミスをしているのかを知るという目標を決めておかないと会話の流れがどんどん目標から離れていく。大方は販売員の売りたい商品の話題が少しでも出ると、その商品に関してのやりとりになっていく。しかしそれは相手が販売員に向かって情報を収集していることであって、販売員は情報を提供しているに過ぎない。戦さで言えば敵とふいに遭遇した時に、見える敵に向かって発砲という対処をもって良とすることであり、陰に隠れている作戦や敵を見逃してしまうことに通ずるのである。
会話の流れで出た商品を無視すると言っているのではなく、目標と簡単な脚本をもっていれば商品の話の最中でも、商品に関する話が終わってからでも軌道修正はできるのだ。一回一回の脚本はあまり欲ばらないことが重要だ。訪問するたびに少しずつ階段を追って色々な現場を知ることが需要創造や発見につながっていく。(次回は7月10日掲載)