ベテラン販売員は年齢を重ねるとともに色々な経験をしてきている。相手とコミュニケーションをとる際には色々な切り口で会話の継続を図る。同行する新人販売員は内容はよく分からなくとも、先輩のように相手と長くコミュニケーションがとれたらいいなと漠然と思う。やがて新人は成長してベテランといわれる経験を積む。そして今度は新人販売員と同行するようになる。その時になって、お客様とのコミュニケーションはそれほど色々な切り口で会話してなかったことを知る。昔ばなしや相手に関する個人的な話題、あるいは前からの懸案事項や現在進行中の案件、既に発注済みの商品に関することである。これらのことは、長いこと担当していれば誰でもできる切り口である。何も分からなかった時はそれでも先輩はすごいと感じたものである。
現在の中堅といわれる販売員は、顧客とどのようなコミュニケーションをしているかというと前記の話題と、プラス商品などの紹介や競合商品、およびこれから先の件名の有無やアプリケーションの売り込み、それに景気状況のヒアリングなどであろうか。以上のような顧客とのコミュニケーションは日本に勢いがあり、生産が全般的に伸びていた十数年前までの顧客との付き合い方である。最前線にいる販売員の本来の役割は色々な切り口から話題を提供して、それを膨らませ、聞いてみたいことの糸口を必死で見つけ、手繰り寄せて各種の情報を取ることである。そうやって、一から営業をしてきた販売員はどんな話題を提供して、どのように話の流れをもっていくかという脚本は意識せずとも頭の中にある。しかし成長期に育ってベテランになっている販売員はどんな脚本を想定して質問していいかわからずに、商品紹介やアプリケーション紹介でのコミュニケーションが主流となる。
ところで企業では何かを企画しようとする時に考える枠組みとなるフレームワークという手法を用いることがある。例えば新商品を開発して販売する時はプライス、プロダクト、プレイス、プロモーションの頭文字をとって4Pというフレームワークを使うし、販売戦略を考える場合カスタマー、カンパニー、コンペティターの頭文字を取って3Cというフレームワークを使う。その他ツリーやポートフォリオなどのフレームワークは有名である。情報収集の脚本が描けない販売員はフレームワークを利用すればいい。
ここで、2つのフレームワークを挙げてみる。1つ目は時間軸を過去・現在・未来の3つに区分し、それぞれのパートを個人と会社に分けて話を組み立てる。個人の過去に行った仕事について、例えばキャリア、どんな物づくりをしたか、記憶に残るクレーム等々のこと、会社の過去は設立の歴史、製造の今昔などである。個人の現在は、現在の仕事内容を知ったつもりにならず具体的に聞くことであり、会社の現在は年度方針・重点課題・イベントなどである。個人の未来はやってみたいことや身につけたい技術、目標や夢などであり、会社の未来は新規事業、生産体系、投資などのことである。
2つ目は現場でのテーマ発見プロセスを4つに分けてみる。第1象限は会社全般に関すること。第2象限は会社の中に多数ある現場に関すること。第3象限はそれぞれの現場で部品や機器の使用実例に関すること。第4象限は新たな需要やニーズに関することである。このようなフレームワークを用いることで質問は思いつきにならず、コミュニケーションはよりスムーズになり、真の顧客情報を入手する脚本を描くことができる。
(次回は7月24日掲載)