今さら聞けないデジタルマニュファクチャリング第1回「デジタルマニュファクチャリングとは?」 デジタルマニュファクチャリング元年 製品開発領域における3DCADデータの新たな活用方法 モノ作り生産技術領域のフロントローディング化 デジタルマニュファクチャリングがグローバル展開のカギに

デジタルマニュファクチャリングは、シミュレーションや分析、3D表示、コラボレーション環境など広範なツールを備える統合コンピュータシステムを使って、製品設計と製造プロセスを同時並行で検討することを指す。この環境を活用することでバーチャルな環境において、ツーリング、組み立てライン、作業ステーション、設備レイアウト、人間工学に基づく作業員動作、リソース配分などを定義できるようになる。モノづくり大国である日本の製造業において、今年になってバーチャルリアリティ、3Dプリンタ・シミュレーションなる3Dデータを活用したモノづくりの話題が一世を風靡(ふうび)している。現在、日本の製造業では8割前後の会社が3DCADの導入をしているという。12、13年前には想像が出来ただろうか。今年はまさにデジタルマニュファクチャリング元年。これから8回にわたって大手企業を中心に進化がスタートした、各種3Dデータ等を一括で管理し開発からモノ作りまでを同時進行で行う真のコンカレント・エンジニアリングについての実例を交えた連載を行う。まずは「製品開発領域」とモノ作り「生産技術領域」における大きな流れを紹介する。現在、約8割の製造業企業が3DCADを導入し製品設計を実施している。今や3Dデータを使ったCAEの活用やデザインレビュー(DR)の実施など、活用の裾野が拡がり、3Dを活用した製品開発は主流となっている。3Dの利用拡大に伴い、プロダクト・ライフサイクル・マネジメント(PLM)と呼ばれる製品のデザインから設計、加工、メンテナンス領域にまで及ぶ製品全体の情報管理システムの導入が増えてきている。また、品質よく製品を作り出すためにCAEの活用も高度化している。従来の構造や振動解析の他、熱流体、音に至るあらゆる分野にまでその活用は広まってきている。さらにVisualization技術の進歩により、可視化された情報を複数の担当者が複数の拠点間でリアルタイムに共有するなど、製造業にとって3DCADは今や不可欠なツールとなっている。 昨今の製品は電子化技術を活用しているケースが多く、機械設計の他、電気設計、ソフトウェア設計を開発の早い段階で連携させ、品質を確保するモデルベースデザイン(MBD)の動きも活発化している。一方で、3DCADで設計しても、最終成果物や部品メーカへの提出は2D図面という旧来のプロセスが存在しており、3DCADによる設計の効果はまだ限定的となっていることも事実である。 昨今のグローバルビジネスの急速な拡大により、欧米では製品開発で作成された3Dデータの利用は、生産準備・生産技術、加工領域での有効活用の動きが始まっている。昨年12月にJTフォーマットがISO14306に認定され、軽量化されCADに依存しない3Dデータの流通を可能にするJTの活用は、製品開発からものづくり領域での3Dデータの活用を活発化し、欧米企業の活動を後押ししている。 日本でも日本自動車工業会(JAMA)や電子情報技術産業協会(JEITA)などにより、3Dデータの流通を目的にした規格(3D単独図)の流通を促進し、図面化工数の削減やものづくりの領域における3Dデータの効率活用を目指した動きがあるが、こういった3Dデータ流通の取り組みが遅れると、将来欧米や新興国との開発・生産力に差が拡がる懸念がある。日本の製造業の多くは、開発期間短縮のためフロントローディング(作業の前倒し)化を進めている。しかし、ものづくり領域に関しては依然として、熟練者の知見、経験に頼るケースが多く、また媒体が紙によるプロセスが主流であるため、開発期間短縮は限界に近い状況となってきており、抜本的な改革が必要な段階となっている。今後更に複雑化するものづくりのプロセスにおいて、いかに体系的で効率的な仕組みを整えていくかが大きな課題といえる。こういった状況に危機感を持つ企業では、既にITを活用したものづくり領域における自動化、効率化に取り組んでいる。
日本の製造業の多くは海外に生産拠点を立ち上げてきた。競合ひしめく環境の中で、どの企業も早期稼働を目標に取り組んできたが、昨今では現地慣習への対応、現地担当者のレベルアップなど、ようやく生産指示に遅滞なく対応できる環境が整ってきたというのが現状である。しかし、賃金高騰等の経営リスクの他、マーケットニーズの変化への対応など、課題は山積み。そのため中国を筆頭に、ものづくり領域における自動化/効率化への取り組みや、日本との情報流通網の整備が急務となっている。 日本で最適化したものづくり環境の拠点展開や、設計情報・製造情報などあらゆる技術情報を一元化する取り組みにより、グローバル競争の激化に対し、ITを活用したプロセスの効率化は今後企業が発展していく上で必要不可欠となってくる。 今後は、それぞれの領域における大手企業を中心に進化し始めた、具体的な取り組み内容や効果等の実例を含めて紹介していきたい。(つづく) (筆者=株式会社FAプロダクツ 貴田義和、株式会社FAナビ 岩木祐二、 株式会社ISID 松尾博)
生産技術の領域では、金型設計・加工・検査の自動化や工程設計の効率化など製品開発で作成された3Dデータを活用した取組みが行われている。

生産準備の領域では、最新データや正式データをいつでも誰でもどこでも見られる情報管理の仕組みの構築、工程(プロセス)情報だけではなく、設備・治工具・人などの情報を付加し、より多面的にものづくりプロセスを推進する環境の導入、更には設備・治工具との干渉、人・搬送設備と合わせた生産性検証(生産性シミュレーション)の導入など、日本が持つ高度なものづくり技術をITに取込むことで、独自のものづくり革新が始まっている。

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