30℃を超える炎天下の午後3時、かばんを下げ、片方の手にハンカチの会社員風の高齢者が続々とホテルの一室に集まった。自分の専門技術知識を活かす場を求めて来た人たちだ。中小企業のプレゼンテーションを聴き、メモをとる後ろ姿は、頭髪がやや薄いものの、企業戦士としてあまたの経験をしてきた自信に溢れている。
名刺交換会が始まると、積極的に中小企業経営者に面談する。名刺には、個人名、住所等が刷り込まれている。会社名があっても一人企業である。名刺を手渡しながら、退職前はどこそこの大手企業の技術者であった。その当時の仲間が起業しているとか、他の会社の顧問になっていると、さりげなく自身を売り込む。60歳以上の方々であるが、元気である。
一生を「幼・少・青・壮・老」に分けると、壮と老の中間の言葉「熟年」がぴったりする。1960年代に薬理学者の原三郎が初めて使ったが、78年に作家の邦光史郎がセカンドライフを充実させる熟年層という言葉で一躍注目された。その後、デフレ、リーマンショックの不況のなかで、次第に「熟年」が死語になった。そして、再び彼らの活躍の場が国内外に出てきた。
政府は新たな成長戦略として産業の新陳代謝を促すとしている。国内製造業の設備投資も牽引産業の主役交代が始まりつつある。ある経営者は、熟年者を自分のネットワークに置く理由を「新しい商機を見い出す力として貴重である。若い人のマーケティング力と熟年者の目利き力を合わせて判断に使う。共同開発会社の紹介までしてもらっている」という。青・壮プラス熟を必要とする時代がきたのかもしれない。